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学校の七不思議IN異世界  作者: 崖淵オワタ
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3.突撃のスク水

こいつの名誉の為に言っておくが、白宮まほろは痴女ではない。


俺達は、死んだその時の恰好のまま、幽霊として存在している。

亜紀が夏服なのもそのため。ちなみに俺は冬も半ばに死んだので冬服の長袖ブレザー姿だ。

幽霊には体感温度なんざ無いから、服装がどうであれさしたる問題は無い。


うちの高校は、学年ごとに男子ならネクタイ、女子ならリボンで色が決められている。

だから制服を見れば、相手が上級生なのか下級生なのかがすぐにわかる。


俺と亜紀は2年生だったから、色は赤。

あと3人、俺達と同じように幽霊となってこの学校に憑いている生徒がいるが、

そのうちの2人が青色。3年生だ。

残りの1人は、またちょっと事情が異なるので今は省く。


そして今、俺の前に浮かんでいるこいつ―――まほろは、言わずもがな俺の後輩、高校1年生。

だから本来なら、黄色のリボンを付けているはずだった。

だったのだが・・・・


こいつの恰好から、ある程度察しはつくだろう。


まほろは水泳の途中、学校のプールで死んだのだ。

だからその当時の恰好、スク水なんて姿で校内をさまよっている。


決して本人の意志ではない。

脇からこぼれそうな胸や柔らかそうな白い太腿、

整った小さな足の指まで曝け出しているのも、仕方がない事なのだ。


そしてその姿をつい凝視してしまうのも、男という生物上致し方ない事なのだ―――




「ジロジロ見てんじゃないわよ変態!!」

「がごぼっ!!」


ヒロの長々とした言い訳は、亜紀渾身の回し蹴りによって強制中断された。


勢いよく吹き飛んだヒロは、そのまま横の教室のドアに激突する。

衝撃でドアが軽く外れた、


「亜紀!いくら明日取り壊されるからって学校を壊すな!あと本当に足クセ悪いな加減しろ!痛えんだよ!」


幽霊が感じる痛覚は、正確には肉体の痛みではなく魂の痺れだ。

そして生きている人間だと通り抜けてしまう幽霊でも、同じ幽霊同士なら接触は可能だ。

―――接触どころか、蹴り飛ばす事も可能だ。



「男って馬鹿!ほんっと男ってバカ!!」

先程までのしおらしい様子は何処へやら、亜紀が顔を真っ赤にして怒鳴る。

そんな亜紀を止めたのはまほろだった。


「新里先輩、ヒロ先輩を責めないで下さい」

「ま、まほろちゃん。でも・・・」

「水着姿をじろじろ見られるのは、生きてた時もクラスの男子からされてましたし・・・」


慣れた事のように言うまほろだが、それを聞かされた方の衝撃は大きく。


「・・・・まだそいつら呪い殺せるわよね」

「俺にはそんな資格は無いかもしれんが、それでも協力しよう」


可愛い後輩がセクハラ被害に遭っていた事を知り、物騒な提案をする2人。

幽霊である以上、呪うだの祟るだのといった事は割とシャレにならない。


どろどろとした黒い靄を纏わり始めた2人を、まほろは慌てて止めた。


「だだ、大丈夫です!お気持ちだけで充分ですから!」

それに、とまほろは言いよどみながらも続けた。

「それに、ヒロ先輩になら・・・むしろ見てもらいたいなって・・・・」


ヒロを直視できずに伏せた大きな瞳。

桜色から林檎色に染まった頬に、首筋までふんわりと伸びた明るい栗色の髪が一房張り付く。

つい言ってしまったと震えながら顔を背けるいたいけな仕草。


そんな後輩を見て唖然とした亜紀は、

やはりいたいけな後輩をたぶらかして・・・とヒロに文句を言おうとしたが―――やめた。


言われたヒロ本人が、あまりにも悲壮な顔で立ち尽くしていたからだ。


「何で・・・何で死んだ後なんだ・・・」


か細い声でぶつぶつと呟くその姿からは、やるせなさと悔恨が見て取れる。


これまで恋人どころか友人すらまともにいない、

そもそも「ヒロ先輩」だなんて甘い呼び方をされる事自体が妄想の中だけだった。


それが今こうして叶うなんて夢のようだ―――

だがそれも、人生が終わった死んだ後では何の実も結ばない。


「ヒロ先輩?どうかしたんですか?ヒロせんぱーい?」


巨乳だが童顔、控えめだが自分には懐き、慕ってくれる可愛い後輩・・・・・


灰月ヒロに訪れた春はあまりにも遅すぎた。



「引く・・・でも同情はする・・・・」

今のヒロの心情は、正確なところ亜紀には理解できない。

だがなんとなく可哀想な事は分かる。


「ところで、さっきの校内放送、新里先輩ですよね。もうすぐ2時になっちゃいますよ」

「いっけない!こんな事してる場合じゃなかったわ。ほらヒロ、いつまで屍になってるの、早く行くわよ!」

「屍・・ああそうだ、俺はもうとっくに屍だよ・・・」

重ねがさねどんよりとしているヒロを引っ張って、亜紀とまほろは目的へと急いだ。

今夜はどうしても、遅れてはいけない理由がある。


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