stage.4 タンクとハプニング
酒場での乱闘騒ぎなど日常茶飯事のこと。それゆえ誰も驚きもせず、見て見ぬ振りを貫いた――アリア以外は。
「チィィィィィッ! うるせぇ! 酒が不味くなるっ!」
すでに何本も酒瓶を空にしているアリア。語調はますます荒っぽくなり、顔面までもが崩壊していた。
「ア、アリア、顔が……」
「うるせぇ! 化粧なんて夕方にはハゲてくるもんなんだよ!」
落ち着けと悟すカインの言葉はあっけなく一蹴された。ミニスカートから伸びる長い足が、再び、さらに強くテーブルを蹴る。
「あぁ、不味い。酒が不味い……! そうだ、カイン、あんたが止めてきてよ」
「うぇぇ!? な、なんで!?」
「あんたは騎士様だろうが。治安維持もお役目の一つだろう、あぁん?」
「いや、僕はそんな大それたことあわわわわ」
ビクビクオドオドと視線を泳がせ、カインは全身で拒絶した。だが、全力のノーセンキューも、アリアの据わった目つきに貫かれる。
「あたしの言うことが聞けないっての?」
「そうじゃなくて、こういうのは第三者の僕達が介入するべきじゃないと思うんだよ。あ、そうだ、町の自警団が来るまで大人しく待っていよ……」
「コラァ! そこをぉ! 喧嘩してる……そうそう、あんたらよ、あんたら!」
「って、言ってるそばから、アリア!」
カインの話を盛大にぶった切り、アリアは酒瓶片手に渦中の酔っ払いへと歩み寄った。一瞬、何事かと固まる酔っ払いだったが、絡んできたのが女だと見るやいなや、舐めた目つきで威嚇しにかかる。
「んだ、てめぇ。女は引っ込んでろよ」
「それとも、ネェちゃん、あんたが相手になってくれんのかい? 見た所、そんなに腕っぷしも強そうじゃないがな」
アリアの細い身体を上から下までねっとりと観察した後、酔っ払いは下卑た笑みを浮かべた。長い金髪、透き通った碧眼。治癒術師のシンボルである白い杖と白いローブ。治癒術師は回復のプロであって、戦闘のプロではない。サポートは一流だが、戦いとなれば相手を攻撃する術を持たなかった。さっきまでやり合っていた二人はすっかり標的を互いからアリアに変更する。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ……戦うのはあたしじゃない。こっちよ!」
ババーン! と王国鼓笛隊の演奏が聞こえ出しそうな勢いで、アリアは後方を指差した。ことの成り行きを見守っていた酒場の客もつられて顔を動かす。
「あぁ、早く来ないかな、自警団の人……。ん?」
一斉に集まった視線に気づいたカインはキョロキョロと辺りを見回す。
「あ〜〜はっはっは! あんた達の相手は王国最強の騎士――カインよ!」