stage.3 タンクと決意
「強くなるってんなら分かるけど、打たれ強くなりたいって……」
「僕があの程度の攻撃でへばらなければ、荷物をみすみす奪われることもなかったし、身包み剥がされて僕の誇りを傷つけられることもなかったんだ……」
いつの間にかカインのグラスの麦酒は空になっていた。濡れたグラスを掴みながら、思い出語りを続ける,
「それから僕は仕事の合間に修行に明け暮れた。住み込みで働いていた店の屋根から何度も飛び降りてこの身を打ちつけたり、僕が全裸で馬の代わりにお客を乗せて運んだり」
「ドMか! そんでもってとんでもねぇ店員か!」
「毎日鍛えている内に僕の身体は次第に耐久力を増し、どんな仕打ちにだって耐えられるようになったんだ」
「うーん、まぁそれがあんたの防御力の高さの秘密ってこと。で、その打たれ強さが巡り巡って国王の耳に入り、騎士として起用されることになったってわけね」
アリアは長い金髪を手で梳き、碧い目をカインの椅子にかかる剣に向けた。
「道理であんたの太刀捌きはヘッポコなわけだわ。防御力ばかり鍛えていたから、剣を習得してる時間がなかったのね」
「え、ヘッポコ!?」
「そーよ、ヘッポコもヘッポコ!」
「だだだ、だって僕は人を傷つけたいわけじゃなかったし、自分の身が守れればそれで……」
「今日の魔人戦でもあんたはひたすらボコられ役。剣技なんて見れたもんじゃなかったわ。まぁ、前衛職としては正しい在り方だけど」
敵の敵対心を一身に集め、パーティーの活路を切り開く――それが前衛職の最も重要な役割だ。鉄壁の防御力が騎士には必須。身を守るためだけに身につけた打たれ強さだったが、民を守る騎士たる者の必須条件でもあった。
「ほ、本当は僕は村に戻って畑を耕してたいのに……何でこんなことに……」
「辞めりゃいいじゃん、辞めりゃ」
「いや、でも契約書に契約後二年間解約はできませんって……」
「契約前に確認しろ」
はぁっ、とアリアはため息をついた。
王国一の騎士だというからパーティーに参加したものの、蓋を開ければ肝心の騎士様がチキン野郎ときた。報酬に不満はないが、へっぴり腰の騎士など心許ないことこの上ない。
「とにかく、今日は飲むしかないわね。あんたの奢りよ、奢り」
「え、あ、僕は手持ちがなくて」
「はぁっ!? 何言ってんの!? 町長から魔人討伐の報酬もらったでしょ!?」
「いや、さっきの二人と君の三人で山分け……」
「あんたの取り分は?」
「一応王国勤務だから、副収入はもらえないって契約書に」
「馬鹿か、本気で馬鹿か」
呆れ顔のアリアが説教を始めようとしたその時、酒場の入り口付近で怒号が聞こえた。
「おらぁ、テメェ、表でやがれ!」
「上等だ! やんのか、ゴルァ!」