episode 8
フェミュールの生活は一気に忙しくなった。
彼女の体調をフレドンナは心配したが、フェミュール自身が静止した。
彼女は歌いたかったのだ。
フェミュール・アルパジカは国一番の歌姫と言われる存在になった。
時々公演をするほどになり、国王は彼女の歌へと投資を厭わない。
アルパジカ伯爵の身分と資産は膨れ上がっていった。
フェミュールは生まれながら病気知らずで、無理のない程度で公演もラジオもこなした。
「まるで旅芸人のようだ。」
ある日、ルイードはそう言って彼女を不安げな目で見つめた。
両親が亡くなって、気付くともう6年もの年が流れ、フェミュールは20歳、ルイードは16歳になっていた。
フェミュールがこの屋敷に来てから、ルイードは不器用ながら彼女に優しくしてくれた。
ルイードは彼女の歌を聴き、彼女に恋してしまっていたからだ。
フェミュールは自分より身長が高くなった彼を見上げた。
「それでも、歌えるのが楽しいから。」
笑顔を浮かべた彼女を見て、ルイードは言葉を詰まらせた。
それでも引き下がろうとはしなかった。
「でもフェミュールは俺の姉のような人だ。
この家の娘だ。
フェミュールも貴族で、令嬢なんだぞ。
こんなの間違ってる!」
フェミュールは怒りに震える彼の腕に触れた。
「いいの、私が楽しいから。
お父様は私の歌を気に入って養子にしたがった。
なんとなく、最初からこうなるような気はしていたの。
だから、いいのよ。」
この国では17の少女が結婚適齢期だ。
フェミュールは20歳。
未だヘルエムで魔力が発現する様子はない。
結婚適齢期はもう後半だ。
ルイードは本心では誰にも彼女を嫁がせたくないと思っていた。
それでも姉弟は結婚できない。
せめて幸せな結婚をしてほしいと願っていた。
だが、どんな縁談が来ようと、伯爵が全部断ってしまうのだ。
ルイードは怒りのまま駆けだした。
フェミュールは今まで彼に触れていた手を抱き、彼がクールないつもの姿に戻ってくれるよう祈った。