episode 6
フェミュールは両親の葬式をした記憶が、ぼんやりとしかなかった。
なんとか助かった従業員が、彼女を気遣ってほとんどのことをしてくれたからだ。
火事で亡くなった両親は、燃え後に微かに燃え残った骨しかなく、フェミュールは何もかもを失ってしまった。
彼女に親戚はいない。
少し前に起こった世界大戦に巻き込まれ、出稼ぎに出ていた親戚が皆亡くなったからだ。
両親は共に兄弟がおらず、彼女には頼れる人などいなかった。
彼女の家の畑は村人で分け合うことになった。
彼女自身がそう望んだのだ。
村は決して豊かではない。
畑を分け与える代わりに、今家にいる従業員たちの世話をしてほしいと頼んだ。
彼らとて地方から出稼ぎに来ている身。
職を失えば路頭に迷うことになる。
村人たちは彼女を誰が預かるかと相談することにした。
しかしその会議場所に現れたのは、ガンフオール・アルパジカ伯爵その人だった。
村人たちは彼女に伯爵の養子になることを勧めた。
当然の考えだった。
フェミュールは村人たちに見送られ、伯爵たちと共に馬車に乗って村を出ていった。
いくつかの宿を転々としながら着いた屋敷は、当たり前のことながら豪邸で、別荘とは全く比べ物にならない広大な土地だった。
屋敷の前には白い肌の美女が立っていた。
「おかえりなさい、アナタ!」
「ただいま、フレドンナ。」
馬車から降りたアルパジカ伯爵に抱きつく様子からして、彼の妻でこの屋敷の奥様なのだろう。
「おかえりなさい、ルイード。」
ルイード少年にも彼女は抱きついた。
そして馬車から降りるのを戸惑っていたフェミュールを見上げ、彼女は大きく腕を広げて見せた。
「貴女がガンフの手紙にあった、とっても綺麗な歌声のフェミュールね!
ようこそ、我が屋敷へ。
そして、おかえりなさい!」
フェミュールは彼女の瞳に嘘がないように感じ、彼女の腕に身を預けた。
フレドンナは彼女を優しく抱きしめ、そしてゆっくりと彼女の柔らかな髪を撫でた。
そこで初めて、フェミュールは両親を亡くした悲しみが溢れ、声を上げて泣いた。