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episode 5

フェミュールは出来るだけ上品に、丁寧にフルコースの料理を食べていった。

アルパジカ伯爵はずっと上機嫌で彼女に喋り続け、彼女もまた笑顔で返事をしたり相槌を打った。

しかし少年は一切口を利くことはなく、ただ黙々と食事をしている。

やがてデザートも食べ終えると、伯爵はパンッと手を叩いた。

「フェミュールよ、ダイニングで一曲歌ってはもらえんだろうか?

今日、お前の家の前を通りがかったときに聴こえてな、ちゃんと聴いてみたくて食事に招待したのだ。」

なんとなく予測していた言葉に、フェミュールは笑顔を向けた。

「私なんかの歌で伯爵様をご満足させて差し上げられますでしょうか?」

「安心しなさい、この私がお前を選んだのだ。」

フェミュールは笑顔で了承した。

ダイニングに移った伯爵とルイード、フェミュールに加え、伯爵は執事とお付きのメイド5人を部屋に入れた。

フェミュールは暖炉を背に立たされる。

「さぁなんでもよい、お前の得意な歌を聴かせてくれ。」

得意な歌と言われても、フェミュールには特にそんなものはなく、貴族でも分かる歌をと考えたが国歌くらいしか分からなかった。

仕方なく、いつものように自分で今考えた歌を歌うことにした。

彼女は目を閉じて静かに深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。

歌の内容はあまり覚えていない。

その時即興で作った歌など、一瞬で忘れてしまうものだ。

ただ、この村が大好きなこと、両親や従業員と楽しく暮らしていること、そういう小さな幸せを歌に込めた。

歌い終えて前に向き直ると、皆が呆然と彼女を見つめていた。

今までにも歌で人を驚かせたことはあったが、ここまでの反応は初めてだ。

執事の男だけが少し意識があったようで、伯爵に小さく呼びかける。

ルイード少年も、彼女を大きな瞳で見つめていた。

伯爵は何度目かの執事の呼びかけにようやく我に返ると、少し不安そうな顔をしていたフェミュールに立ち上がって大きな拍手を送った。

彼に続くようにその場にいた者たちも拍手を始める。

フェミュールは今日一番に丁寧な礼をした。

「お前、うちの養子に来る気はないか?」

拍手を終えて伯爵は第一声、彼女にそう告げた。

フェミュールは驚いたが、両親が心配だからと丁重に断った。

伯爵はせめて今着ているドレス一式を受け取ってくれといい、元着ていた服を執事に持たせて家まで送らせた。

この姿と伯爵の申し出を聞いたら、両親はどれだけ驚き喜ぶことだろう。

フェミュールの頭はそのことでいっぱいだった。

しかし、彼女が両親に話を聞かせることは出来なかった。

何故なら、馬車で着いた家は、真っ赤な火に包まれて燃え上がっていたからだった。



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