episode 4
貴族からの招待を断ることも出来ないので、フェミュールは両親から家で作った一番いいワインを持たされてそのまま屋敷に連れてこられた。
すぐにメイド3人に一室に連れ込まれる。
部屋にはたくさんのドレスや靴が並べてあり、そこがウォークインクローゼットだと気づくのに少し時間がかかった。
メイドたちは彼女に淡い黄色の、少し丈の短いドレスを着せ、ハイヒールを履かせ、彼女の長いブロンドの髪を結い、軽く化粧を施す。
全ての支度が済んだ彼女の前に、全身鏡が用意され、立ち上がって彼女は呆然とした。
まるで貴族の令嬢のような自分は、いつもの自分と別人に見えたのだ。
驚いていて立ち尽くすフェミュールの耳に、ドアのノック音が聞こえた。
「支度は済んだか?」
顔を覗かせたのは黒服の男だ。
彼は彼女の全身を舐めるように見ると小さく頷いて、メイドたちに片づけを始めさせた。
「私はアルパジカ伯爵の執事でございます。
これよりお食事の席にご案内させていただきます。」
彼は驚く彼女の手を取り、部屋を連れ出した。
長い廊下を行くと少し大きな扉があり、執事はノックしてドアを開けた。
「旦那様、フェミュール・シエロ嬢をお連れいたしました。」
「そうか、待っておったぞ。」
執事に促され、フェミュールは部屋に入って、授業で習った礼儀作法の通り、スカートを少し持ち上げて軽く会釈した。
「フェミュール・シエロです。
本日はご夕食にお招きいただきまして、ありがとうございます。
両親よりアルパジカ伯爵へのお土産としまして、我が農園で作りました中でも最高級のワインをお持ちいたしました。」
「おう、あとで飲もうと思うて、今ワインセラーで冷やしているところだ。
まぁそう固くならず、近くに来てくれたまえ。」
フェミュールはそこでようやく顔をあげて、少し遠くに座る卑しい笑顔を浮かべた小太りの男を見た。
傍らには自分より少し年の若い少年が、瞳を閉じて座っている。
金髪の美しい髪をしていて、開かれた瞳はエメラルドのように綺麗な色をしている。
彼が噂のS級を持つご子息なのだろう。
フェミュールは静かに伯爵の横に近づき、軽く礼をした。
「ほう、ヘルエムの割に綺麗な娘だ。
なぁ、ルイード?」
「はい、お父様。」
少年は決してこっちを見ようとはせず、そう答えた。