episode 1
自然豊かな農村に、産声が響いた。
あるブドウ農家の家に女の子が生まれたのだ。
母親はぐったりとしつつも、我が子が顔の傍に置かれると、ほっとしたような優しい表情を浮かべ、赤ん坊の小さな手に自分の人差し指を乗せた。
産婆はある程度の片づけを済ませると、静かに部屋を後にした。
数日後、農家の家に数人の五人の男女が現れた。
「魔導士様、よろしくお願いいたします。」
父親が家に招き入れた。
五人は一人ずつ赤ん坊の上に片手をかざし、それが終わると近くのテーブルに集まってコソコソと話した。
「我々の結論は、こうなりました。」
一番年老いた男が父親の前に二枚の紙をペンと共に出現させる。
父親は片方を受け取り、もう片方にサインをした。
魔導士と呼ばれた男女はそれぞれに礼をして、家を後にした。
「あなた、この子は?」
母親が不安そうに聞く。
「・・・ヘルエムだ。」
父親が悲し気な目をして、穏やかに眠る娘を見下ろした。
数年が経ち、ヘルエムと言われた少女-フェミュールは元気に育っていた。
この国「ヴァルボネ」は、魔法で全てを回している国だということも、もう彼女は知っていた。
ヴァルボネは王政国家であり、魔力と技術で位が与えられる国だ。
位によって出来る仕事も異なり、位が高ければ高いほど生きる選択肢が広がる。
そしてヘルエムとは、最も位が低い者、つまり魔力も技術も持ち合わせない者に与えられる称号だった。
魔力は生まれ持つものだからどうしようもないが、技術は努力すればどうにでも出来るものだ。
さらに、この国の住人は本来魔力を持つ者しか住んでいないため、ヘルエムと言われたとしても将来的に魔力の開花という可能性も残されている。
フェミュールは幼い頃に全てを教えられ、そして懸命に努力する少女に育った。
魔力の開花は未だないものの、勉強も運動も彼女は得意だった。
特に音楽の成績は素晴らしく、彼女の歌声は村一番だと誰もが称賛した。
彼女が生まれた当初、彼女の両親や彼女を嘲笑っていた人々も、彼女の実力の前には何も言えなくなった。
同年代の女の子で一番運動が出来て、勉強は常に首位、音楽や料理、裁縫も出来て、とても優しく元気な女の子だ。
容姿は母親に似て美人に育ち、美しいブロンドの髪と透き通るような肌、淡い藍色の瞳をしている。
もうこの村に彼女を嘲笑するような人物は誰一人としておらず、村の誰もが彼女を気に入っていた。