episode 9
「父上!」
怒りを抑えられないルイードはアルパジカ伯爵の部屋に乗り込んだ。
伯爵は少し驚いた顔で息子を見たが、すぐにソファーに座るように促す。
「何をそんなに怒っているのだ?
いつものクールなお前は何処へ行った?」
「父上、どういうおつもりなのですか!」
ルイードはタバコを吹かす父親に叫んだ。
「どういうつもり、とは?」
「フェミュールのことです!
無理はさせていないものの、あれでは旅芸人と同じ。
貴族の娘の扱いではありません!
縁談も父上が全て断ってしまわれる。
もうすぐ結婚適齢期を過ぎてしまいます。
父上は彼女を可愛い娘とは思ってはおられないのですか!」
伯爵は息を切らす息子を冷ややかな目で見た。
ルイードは身震いした。
この目をよく知っている。
幼いころから何度も見てきた目だ。
伯爵にとって下等だと思うものに向けられる目。
利用するか考えている目だ。
伯爵は欲しいものは何でも手に入れてきた。
だがそれは正攻法だったとは限らない。
「私の可愛い息子よ、何を言っているのだ?」
冷ややかで凍り付くような目で、伯爵は口を開いた。
「あの小娘が、私の“可愛い娘”だと?
まぁ、間違ってはいないのかもしれないな。
アレは金も名誉も運んでくる幸運のカナリアなんだよ。
わざわざ両親を殺して家も燃やして手に入れたものだ。
働けるだけ働かせて、金を搾り取って、要らなくなったら誰かにくれてやるさ!」
そう言って伯爵は大笑いをしながら部屋を後にした。
ルイードは呆然として、自室に帰ると数日籠ってしまった。




