prologue
昔々の物語。
どんな歴史書にも書かれなかった国が存在したそうだ。
歴史学者たちが研究を続けているが、存在したという証明になるものは未だに見つからず、ごくわずかな地域にのみ言い伝えとして残る、伝説の国。
名前は地方によってバラバラで、またそのことが学者たちの頭を悩ませている。
その国は地上には存在せず、空に浮かんでいたという。
「国に立ち入った者は二度と帰って来なかった」―――。
それは死を意味する言葉ではない。
国に住み着いて二度と地上に戻って来なかったのだ。
その国は、とても平和的で、長く王政国家として栄えていた。
珍しい動植物があり、地上にはない文化が存在し、人々は魔法が使えたという。
魔力のある者は位を得て、魔力のない者は技術を磨いて位を得た。
実力がすべての世界。
そんな国の最後は案外あっけないもので、魔力を持つ者同士での内乱の末、宙に浮かんでいた国は落下し、海の底深くに沈んだそうだ。
名前も分からない、場所の特定も出来ない、証明となる発見物もない幻の国の伝説には、どの地方であったとしても共通する話が存在した。
それは、内乱の最中に響き続けた美しい歌声の話。