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屋上少女

作者: 異空世之

 私は、叶わない恋をしていた。分かっているけれど、諦められない。そんな恋を。

 考えてみれば、これは私の初恋だった。そう思うと少しばかり悲しくなるが、仕方ない。せめて、今のうちにあなた達に聞いてもらおう。この悲しみをもらってくれるのなら。全て無くなれば良い。

 今私を支配しているのは悲しみだけだ。あなた達は、この悲しみを食べ、笑い話にすることだろう。どうでも良い。

 私はただ、この失恋話を聞いて欲しいだけなのだから。



 七月。何日かなど覚えていない。だが、蝉の大合唱が聞こえ始め、とても暑い日だったと思う。騒がしい声をあげながら、愉快に学生達は廊下を歩く。私は隅の方でそんな学生達を見る。あのバカな学生の頭には、バカンス気分を味わいたいと思っていること以外、頭にないのだろうか。

 笑ってしまう。

 まだ、夏休みなど遠いのだ。

 そんな事を思いながら、私は学生達から離れる。今は昼休みだ。あの場所へと行く。廊下を少し歩き、左へ曲がる。そこにある階段をゆっくりと上がり、私は扉に手をかける。その扉を開いた先には、目が痛くなるほどの晴天。夏らしい、太陽だけが顔を出す、青空だ。

 ……そう、ここは屋上。私の秘密の安らぎの場。少し熱いコンクリートに寝っ転がる。そして、昼休み中、見ていると吸い込まれてしまいそうなこの空を眺める。いっそ、吸い込まれてしまいたい。ゆっくり、しかし確実に時刻は過ぎ、午後の予鈴が鳴る。それを聞くとのっそり私は起き上がり、誰にも音を聞かれないよう、静かに校舎の中へ戻るのだ。


 そんな、特に変化も刺激も無い毎日は、一人の人物によって、変化があり、刺激のある毎日へと変わった。



 ある日。いつもの昼休み。いつものように屋上へ行った私は、いつものようにコンクリートに寝っ転がっていた。でも、その日は確か少し曇っており、どんよりと灰色がかった雲が、視界を邪魔していた。そんな天気なので、私も少し気分が落ち込んでいたと思われる。

 その時。


 ―――――ガチャッ


 唐突に扉が開く。開かないはずなのに。まだ中坊かと思うぐらいの幼い顔の男子が、扉から顔を出した。私は瞬間的に、壁の方へ身を潜めた。


「うっわー。やっぱ、今日は雲ばっかしだな。……にしても、誰もいないって良いなあ。はー」


 ここにいるが。と思いながらも、口には出さず、彼を観察する。――どこかで見た事がある顔のような気が、しないでもない。


「よーし。記念なる第一回だ。ちょっと探検でもするか」


 彼は、きょろきょろと辺りを見回す。


「うんっ、こっちからだ」


 そう気合いのような言葉を言うと、彼は私が隠れている方へと来る。


「誰かいるような気がする……。気のせいか?」


 それを聞くと、私はもっと縮こまり、室外機に身体をつけた。と言うか、さっきから思っていたのだが、この男子、独り言が多すぎだ。はっきり言って五月蠅い。まあ、相手は誰もいないと思っているのだから、しょうが無いが。


「意外と広いんだなー。探検だけで、昼休み終わるな、きっと」


 また独り言を言いながら、だんだん私が隠れている場所に近づいてくる。バレやしないかと、あるはずもないことを思った。


「んー、もうこっちは何もなさそうだな…。あっち行くか」


 そう言うと、くるっと回れ右をして、今度はだんだん私から離れていった。安心した私は、思わず「ふー」と、言ってしまっていた。しかも、まあまあ大きく。


「!?やっぱ、誰か居んだろ!」


 驚いた。絶対に気付かれないと思っていたのだ。

 これ以上隠れていても、どうせ見つかるかもしれないし、逆ギレされてもめんどくさい(今まで、されたことは一度もないが)。しょうがなく、室外機から私は姿を現した。


「――!!」


 さっきの私が驚いたのとは比べものにならないぐらい、目の前にいる男子は目を見張り、口をあんぐり開け、固まった。

 なにも、そこまで驚かなくても良いじゃないか、と思うほどに。でも、私自身も少し驚いてしまった。


「こんにちは」


 ひとまず、挨拶をしてみた。だって、基本でしょう?


「えーと、隠れてごめんなさい。独り言もたくさん聞いてました」


 二つ目に、白状してみた。ああ、これは逆に怒らせてしまうか?他人に独り言など聞かれたくないだろう。それを聞いたというのなら、なおさらだ。


「あ、やっぱりひとりごとは聞いてませんでした。探検しようなんて、誰か言ってましたっけ?」


 三つ目に、嘘をついてみた。これ、絶対失敗だ。


「ごめんなさい。嘘つきました」


 また白状した。私ったら、下手くそだなあ。上手く人とも話せないなんて。でも、人と話すの久しぶりだし、まあ、それにしては上出来じゃない?

 ……今のは、自分を励ましているだけなので、どうか見過ごして欲しい。


「ぷっ、あははははは!」


 前でさっきまで驚いて固まっていた男子が、我慢できないとでも言うように、笑い出した。というか、笑い泣きしてるし。私の困惑した表情に気付き、男子は笑うのを止めた。でも、笑いを抑えられていない。


「いや、ごめん。ぷっ!いや、君がさあははっ!面白くて、ふふっ!思わずねがはっ!」


 なんとか言葉を繋いでいるが、ほぼメチャクチャだ。最後の『がはっ!』ってなに?ここだけ読んだら、というか、前文を読んでも、気持ちの悪いことしか思いつかないよ?


「ええと、大丈夫ですか」


 まあ、心配はしておいた。


「うん、ありがとう」


 どうやら、ようやく笑いが止まったようだ。まだ顔がにやけているのが気になるが。


「あのさ、君、明日も昼休みここ来る?」


 私は無言で頷いた。嫌な予感がした。


「じゃ、俺も明日から昼休みここ来るわ!逃げるなよ?」


 半分、というか絶対無理矢理に約束をさせられた。嫌という感情を全面的にだしても、意味はないようだった。


「あ、俺の名前知っとく?」

「言わないで」


 私は即答した。こんな私には、人の名前を聞くなどNGだ。少し不思議そうな顔をしながらも、男子は次なる提案をした。


「そっか……。でも、呼び方なかったら困るよな」

「別に、そんな呼ばないし、どうでも良いですよ」

「じゃあ、俺のことは『ヒョウ』って、呼べよ」


 完全に無視された。どこまで自分勝手なんだ。


「……どうしてですか」


 あまりにも「理由を聞いて欲しい」という顔だったので、仕方なく聞いた。


「動物で、一番かっこよくて好きだからさ」


 少しでも何か重要なことなのかと期待した自分が馬鹿だった。

 でも、男子『ヒョウ』は、周りのものまで輝やいて見えるほどの笑顔をしていた。


 これが、ヒョウと私の始まりで、私の地獄の始まりだった。



「よう!」


 今日も元気よくヒョウは屋上へ来る。


「まーた昼寝か?いつか火傷するぞ」


 毎回毎回、大真面目でそんなことを言うのだから面白い。いい加減飽きないのかと思う。


 私がヒョウと知り合ってから、一週間が経っていた。

 初めて会った日の次の日、私はちゃんと逃げずに彼に会った。ちょっと話して、ヒョウはこの頃転校してきたのだと知る。転校に何か理由があるらしいが、そういう話になると、珍しくヒョウの口は閉ざされる。だから、私もしつこく追求しないようにしていた。

 そして、何故だかヒョウは私を『カノ』と呼ぶようになった。聞いてみたら、


「なんとなくだよ。やっぱ、呼び名がないと困るし」


 などと答え、なんとなくはぐらかされた気がした。

 まあとにかく、ヒョウと会ってから一週間が経っていた。


「なあ、あとちょっとで夏休みだよな」


 言い忘れていたが、私はあまり質問に答えない。というか、話さない。大体がヒョウの独り言だ。まあ、少しは悪いと思っているが、別に良いだろうみたいな感じで、結構私自身は適当だった。

 でも、確かに夏休みまであと一、二週間ぐらいだ。ヒョウといると、色々速く感じる。


「あー、青春してー!」


 隣にいたはずのヒョウが、いつの間にか立ち上がり、校庭に、というかどこへともなく叫んでいた。


「な?」


 私を見ながら、ヒョウは同意を求めた。残念ながら私は一切そう思わないので、首を横に振るほかなかった。少し眉をひそめ、ヒョウは口を突き出す。面白くない、というときのヒョウの癖だ。

 でも、すぐに違うことを聞いてきた。


「なあ、カノは夏休みとかどうするわけ?」


 ついにきたか、と私は思った。ヒョウと話していたら、いずれこんなことを聞いてくるだろうと思っていたのだ。

 これを聞かれたら、私はあの計画を実行させなければいけない。自分の意志に関係なく。この計画は、義務のようなものだった。


「……………知りたい?」


 ヒョウは少し驚いたような顔をした。いつものように、返答はないと思っていたのだろう。

 覚悟を決める。今から私がやることは、とても残酷で残忍で恩知らずなことだ。


「私は、一人でいるの」


 ヒョウが首を傾げる。


「俺が会いに行くよ」


 私は、静かに、大きく息を吸った。


「ヒョウとは縁を切る。良い機会だから言うけど、私は一人だったからここが良かったの。でも、ヒョウが来てからはメチャクチャ。五月蠅いし、休息もできない。いつもいつも話しかけてきて、本当にウザイ。私があまり答えたりしないの、話すのが苦手だからとでも思ってた?違う。ヒョウと話したくなかったの。転校してきたばかりで友だちがいなかったから、私と仲良くしたんでしょ。だったら、私、もういらないじゃない。ヒョウはもうたくさん友だちできてるし、私はいらないんでしょ?どうせ、一人で可哀相とか思ってて、私のこと憐れんでるんでしょ。ほら、もう縁を切る理由は揃ってるよ」


 ヒョウの傷ついた顔がちらつく。全て、予想通りだ。


「俺は……、俺はそんなこと思われてるって知らなかった。でも、カノのことを、可哀相とか、憐れんだりしたことはないよ」


 ヒョウの、真っ直ぐな瞳が私を見つめる。

 イタカッタ。イタカッタ。

 でも、この計画は、絶対に成功させなければ。


「じゃあ、私が嫌だ。ヒョウと、話したくない。いや、一緒にいたくない。元々ここは私の場所よ。出てってよ。早く!」


 私の勢いに押されたのか、ヒョウは口をつぐんだ。


「それは、本心か?」


 しつこい。早く出てけ。


「もちろん。もう、顔も見たくない」


 ヒョウは、何か考えているようだった。私に彼が何を考えているのか分かる日は、きっと来ないだろう。


「……分かった。じゃあな」


 去って行くヒョウの背中を見て、自分でこういう状況を作っておきながら、あっけない、と思った。初めから期待していたわけではない。二週間そこらで作られた友情など、この程度だろう。でも、あっけない。もしかしたら、全力で「俺ら、友だちだろ」などと言ってくれるのではないかと思っていた自分が馬鹿馬鹿しい。ふと、思った。私はまた、一人きりになるのだろうか。他人に嫌なことをしたら、自分に返ってくるとよく言うが、その通りだ。ヒョウといた時間はあまりに騒がしく、楽しい時間だった。しかし、また一人だ。ヒョウがいたときに比べれば、孤独な時間がくる。

 静かすぎて、寂しくなった。今まで、一度もこんなことを思ったことはないのに。ヒョウに対する罪悪感が湧いてくる。


「ごめん」


 一人しかいない屋上で、私は小さな声でいない相手に謝った。





 ヒョウと会わなくなってから1週間後、私達は奇跡的に、いや、意図的にいつもの屋上で会うことになった。

 丁度、夏休みの1日前だった。

 私はいつもと同じく、屋上で寝っ転がっていた。


 ―――――ガチャッ


 その音がしたとき、私は何故だか安心してしまった。今日は、一人じゃない、と。

 しかし、すぐにそれがおかしいことに気付いた。飛び起きて、扉の方を向く。そこには、ヒョウがいた。


「よう!」


 一週間前と全く同じように話しかけてくる。まるで、何もなかったかのように。


「いや、ごめん。今日だけ良い?そしたら、これからは絶対に来ない。最後だって約束するから」


 ヒョウは、そう言いながら、私の隣に座った。

 最後、か。


「いつも、いや、前みたいに俺が話し続けるだけで良いからさ」


 私は頷く。

 だって、最後というのだから。


「まず、カノが俺のこと嫌いって言ったの、本音じゃないだろ?……いや、そう思いたいだけかもな。、まあ、俺たちは確かにここで毎日のように会ってきたけど、『本当のこと』は一回も言ってこなかった。これから俺が話すのは、その『本当のこと』、俺の過去なんだ」


 ヒョウは話し始めた。自分の過去を。本当の顔を。今まで触れまいとしてきたことを。


「まず、俺がこっちに引っ越して来たのは、あることがあったからだ。

 俺には、前、カノジョがいたんだ。――丁度、お前みたいなヤツだったんだ。そいつは、静かだけど、何でも受け入れてくれる。、一緒にいて、すごく安心できたんだ。でも、俺はそいつが抱えてたことを何も知らなかった。あとから知ったことだけど、そいつの家は、ちょっと複雑だったみたいで、義理の父さんが酒癖が悪くて、そいつは母さんと一緒にいつも、……暴力を受けてたんだって。時々、そいつの腕に痣があるの見たんだ。でも、何でもないって、ちょっとぶつかっただけだって、いつも、言ってたんだよ。俺、それで納得して、何も疑ったりしなかった。でも、ある日、そいついなくなっちゃったんだ。………自殺だよ。いや、心中かな。母さんと一緒に首吊ったんだ。遺書には、もう、我慢できないって。父さんと一緒にいるのがツライって。痛いって。俺に向けても残してあった。たったの二文だったけど。

『あなたといたときは幸せだった。私が死んだのは、あなたのせいではでは全くないけど、でも、気付いて欲しかった。』

 そう、書いてあったんだよ。『あなたのせいじゃない』って言われても、俺が殺したみたいじゃんか。俺が、気付いてたら、何か、あいつが死なない未来があったかもしれない。俺は、あいつに相談のってもらって、でも、あいつの相談なんか、されたことなくて。最後まで、あいつに何もしてやれなかった。自分だけが良い思いして、あいつはずっとツライ思いしてて。馬鹿みたいだよな。本当に、……馬鹿みたいだよな」


 ヒョウは泣いていた。きっと、誰にも言ってこなかったのだろう。そんな話を私にすること自体が馬鹿みたいだと思うが。でも、会うことはもうないだろう相手に言えば、詮索されることもないだろうし、安心して話せるのかもしれない。

 でも、やっとヒョウが私のことを『カノ』と呼ぶ理由が分かった。前のカノジョと、私を重ねたのだろう。まあ、私にうってつけの役と言えばその通りだが。


「それで、俺の落ち込み方が半端なかったから、両親が引っ越しを提案して、俺はここに来た。ま、転校初日にここに来たのはたまたまなんだけどな。前のカノジョを忘れたくて引っ越して来たはずが、いつのまにか、前のカノジョに似ていたお前と話すようになってた。運命って不思議だよな」


 ヒョウは最後にそう言って話を締め切った。


「お前は、何かある?昔の思い出とかさ」


 急に話を振られても、困惑するだけだ。昔の思い出など、ありすぎて覚えていないというのに。


「そーいや、あいつが死んでから何だよなー、見えるようになったの。最初は怖かったんだけど、悪いやつばっかじゃないって分かってきて。お前も、その一人だし」


 ……良いやつか。

 まあ、他の仲間連中に比べれば、私は『良いやつ』に入ると言える。全く、人間を驚かして何が楽しいのか、理解不能だ。人間たちは、一通り驚いたあと、すぐに面白おかしく他人に教える。私達にとっては、面倒くさいだけだ。

「なあ、カノっていつぐらいなの、()()()()


 全く、こいつはプライバシーってものを知らないのだろうか。まあ、会うのはこれで最後。餞別として答えよう。


「今から、七十年ぐらい前。この学校が全焼したときに巻き添えをくらって死んだ」


 ヒョウは考えるように言った。


「この学校、一回全焼したのか……」


 いや、考えるとこそこか。普通、励ましたりしてくれたって良いと思うが。


「なんで、巻き添えにあったんだ?」

「たまたま、図書室で一人、勉強してたから。図書委員だったし、私以外誰もいなかった」

「わー、最悪だな。じゃ、出火元は?」

「ゴミ置き場」


 わー、よくあるやつだな。

 ヒョウはそう言って、目でドンマイと私に語りかけた。死んでから大分経つから、そう思われたって何の慰めにもならない。


  キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


 予鈴が鳴った。ヒョウが、ゆっくりとした動作で立ち上がった。


「終わり、か。……もう会うことはないだろうな、カノ。ふっ、こう呼ぶのも今日で最後だな」


 私は無言で頷く。何か言った方が良いと思ったが、言葉が出てこなかった。


「なあ、本当に最後の質問だけど…。お前は、いつまでここにいるんだ?」


 私は、自分の顔が歪むのを自覚した。こんな質問、何の意味もない。


「ずっと。いつまでも。誰が来ても、どんなことがあっても、私はここにいる」


 ヒョウは、目を見張った。口も開いている。


「本令が鳴る。早く行きなよ」


 私は、ヒョウを急かした。早く、いなくなってほしかった。


「お前は、……俺のことも、いつか忘れるよな?」

「もちろん。もし覚えていたとしても、私はヒョウが死んでも生き続ける。覚えていても、意味なんてない」


 わざと、突き放した言い方になってしまったのは、何故だろうか。


「……そうだよな」


 ヒョウは、少し哀しそうな顔をした。


 ―――じゃあな


 そう言い残し、ヒョウの姿は扉の向こうへ消えていった。


 気付くと、頬に何かが流れていた。触ってみたら、それは涙だった。なんで流れてくるのかが分からなかった。でも、涙は止めどなく溢れてきて、長いこと止まることはなかった。

  その温度は、温かかったのだろうか。冷たかったのだろうか。

  私には、分からなかった。


 涙がようやく止まったとき、やっと分かった。私は、きっと、ヒョウのことが好きだったのだろう。だから、突き放しといて、でもヒョウが来たとき、とても安心して嬉しかった。いなくなってしまうとき、苦しみたくなくて、早くいなくなってくれと願った。

 でも、意味などない。

 全て、忘れてしまう。

 昔、好きだった人も、嫌いだった人も、全部全部。いつかいなくなり、忘れていく。

 さっき、ヒョウにいつまでここにいるのか、と言われた。それに私は、いつまでも、と答えた。その答えには、もう一つ、ヒョウには言わなかった答えがある。

  私は、ある意味でのこの学校、いや、この土地の守り神なのだ。ここを、離れるわけにはいかない。ここがなくなってしまうのなら、私も破滅しよう。ここがあり続けるのなら、私も、居続けよう。


 この屋上で、何かを、待ち続けながら。

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