バカップルな彼と彼女
「ちょっと,いつまでそこにいるつもり!!」
少女の大きな声で,木の上に寝ていた少年が目を覚ます。
「うるせぇよ。なんだよ樹里。」
ふわあと欠伸をしながら,少年は体をぐっと伸ばした。
樹里と呼ばれた少女は木下から少年を見上げながら,腰に手を当てる。
「あんたがいつまでも帰って来ないから迎えに来たのよ。わ・ざ・わ・ざ。」
「そりゃ、どーも。」
「もうホームルームも終わっちゃったから帰るわよ。」
「わあった。」
少年は木から軽やかに飛び降りると,樹里の正面に立つ。
「今日は一体何があったの?」
「小動物いじめているやつらを蹴散らして,時間が過ぎてたから寝てた。」
「馬鹿ね。遅れてでも授業に出なさいよ。」
「面倒になった。」
「もう。ほら,あんたの荷物よ。」
樹里は少年に学校指定のかばんを手渡す。
「ありがとな。」
「もう,私はあんたのお世話係じゃないわよ!」
「俺は助かるな。」
「もー。」
樹里は不満そうに頬をふくれさせながらも,少し嬉しそうだ。
「そういえば,利隆。先生が早く提出物出せって言ってたけど、何のこと?」
「ん~?進路選択だな。」
「あんたまだ出してなかったの?」
樹里が利隆を見上げる。樹里も普通の女子より高めな165㎝だが,利隆は180㎝の長身だ。樹里は長時間利隆を見上げると首が痛くなる。
「あー,どっち行くか決めかねてる。」
「へ?あんた外に出るんじゃなかったの?」
「・・・おまえ、すぐそこんとこだろ?」
「ん~、そうするつもりだったんだけどね。」
少し困ったように微笑む樹里に,利隆は目を丸くして驚く。
「変えたのか?」
「うん。私一人だと心配だけど,利隆と同じとこなら大丈夫だろうって両親が言ってくれた。」
「おう?じゃあS大か?」
嬉しそうに微笑む樹里に,利隆は驚き、安堵し,少し照れながら尋ねる。
「うん。でも,利隆が行かないなら行けないなぁ。」
「いや,樹里が行くなら俺はS大に行く。そもそも,おまえが外でないって言ったから悩んでた。」
「・・・私、あんたの家政婦じゃないわよ。」
利隆が真面目に話しているのはわかっているが,樹里はどうしても気になってじと目を向ける。
「そんなことはわかってる。おまえこそわかってんのか?俺がいない大学なんて,獣だらけだろうが。」
「・・・あんた大学に何求めてるのよ。」
「男女差の考えの違いが被害の拡大を招いてんだな。」
「何の被害よ。大学は学問をしに行く所よ。多少の遊びはあるでしょうけど。それに、私は利隆でいっぱいいっぱいなんだけど。」
樹里が頬を染めて利隆を見上げると,としたかも樹里を見下ろしてにやりと笑う。
「はっ。当たり前だろうが。おまえは俺のもんだ。」
「なんか腹立つ!この俺様やろう!」
「勝手に言っとけ。俺だっておまえだけで十分だ。」
利隆が言うだけ言ってそっぽを向くのを見て,樹里はくすくす笑った。利隆の耳が赤くなっているのを見たのだ。
「うふふ。お互い様ね。私がS大行くの,わかったんだから早く進路の紙、出しておきなさいよ。」
「わかった。」
二人はてくてくと軽やかな会話を交わしながら帰って行った。