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マニピュレイション!  作者: 立花 葵
覚悟と戦いの記憶
44/72

幕間 死告鳥

 仲間を引きずり込み、男は窪みに横たわった。

 倒木が蓋のように覆い被さり、外からは彼らの姿は殆ど見えない。

 毒に犯され、意識は朦朧(もうろう)とし、視界は幾重にも重なりぶれていた。

 何とか助かる術を見出そうと、溢れ出す記憶の中を駆け回った――

 しかし……いつしか男は座り込み、飛び立とうとする意識にただただしがみついていた。


 ――ふと、胸の上に何かが舞い降りた。

(戻って来たのか……)

 奇跡だと思った。

 ポーチから布紙引き出し、それに引きずられ溢れ落ちたペンに手を伸ばした。


 ……だが、毒の回った体はそれを拒んだ。男の手は幾度か空を掴み、力尽きたように地面へ横たわった。


 微かに動く首を傾け、隣に横たる仲間に目を向けた。何とかここへ引きずり込んだ時、彼は確かに生きていた。

 彼は――半分開かれたままの目に光はなく、呼吸をしている様子もない。自分達を探し回る敵の足音だけが、執拗に耳を這い回った。


(クソッ……! クソッ!!)

 登録証が緑に変わった時、試験を担当した試験官の言葉が頭の中で繰り返された。


人間族(ヒューマン)の支配地域を一歩でも出たら、そこはダンジョンだと思え。決して油断するな。死神はその瞬間を見逃さない。何故なら――』


 ……もう随分と昔に聞いた言葉のような気がする。

 男は顔を歪め、自嘲するように呟いた。

「……死神は己の中に居る。決して背を見せるな」

(油断した……)

 溢れ出した涙が頬を伝い、耳を撫でた。

(こんなところで……あんな連中に……)


 朦朧とする意識の中、遠い記憶の中を彷徨(さまよ)った。

 両親が健在で幸せだった頃――友人や妹とただ遊んでいればよかった日々――母が倒れた日の事、妹と二人で生きて行かねばならなくなった事、冒険者になる決意をした日の事……。

 もう手を持ち上げることもできず、拭われることのない涙は一つ、また一つと、滴となり頰を離れた。


 冒険者登録を行ったあの日、いつか何処かで野垂れ死ぬかもしれない。その覚悟はしていた。その時が来ただけだ。ただ、ほんの少し唐突だったというだけだ……。

 唯一の救いは、自身が相棒と呼ぶあの男がこの場に居ないことだ。だが、それが寂しくもあった……。


 ぶれた視界は涙で滲み、胸に乗ったそれはぼやけた白い塊に見えた。

 もう自分は助からない。例えペンを掴み字を書けたとしても……。

 だが、自分達を見舞った事態の一辺でも……せめて、あの男に自分の死を――

(知らせてくれるか……?)

 心で語りかけ、男は最後の力を振り絞った。


「行け……!」



 空に向かって進むそれを見送り、男は目を閉じ唯一の肉親を想った。

「……フィー。……フ…ー……ない」

2017/08/01再編集 2020/11/02微修正

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