幕間 死告鳥
仲間を引きずり込み、男は窪みに横たわった。
倒木が蓋のように覆い被さり、外からは彼らの姿は殆ど見えない。
毒に犯され、意識は朦朧とし、視界は幾重にも重なりぶれていた。
何とか助かる術を見出そうと、溢れ出す記憶の中を駆け回った――
しかし……いつしか男は座り込み、飛び立とうとする意識にただただしがみついていた。
――ふと、胸の上に何かが舞い降りた。
(戻って来たのか……)
奇跡だと思った。
ポーチから布紙引き出し、それに引きずられ溢れ落ちたペンに手を伸ばした。
……だが、毒の回った体はそれを拒んだ。男の手は幾度か空を掴み、力尽きたように地面へ横たわった。
微かに動く首を傾け、隣に横たる仲間に目を向けた。何とかここへ引きずり込んだ時、彼は確かに生きていた。
彼は――半分開かれたままの目に光はなく、呼吸をしている様子もない。自分達を探し回る敵の足音だけが、執拗に耳を這い回った。
(クソッ……! クソッ!!)
登録証が緑に変わった時、試験を担当した試験官の言葉が頭の中で繰り返された。
『人間族の支配地域を一歩でも出たら、そこはダンジョンだと思え。決して油断するな。死神はその瞬間を見逃さない。何故なら――』
……もう随分と昔に聞いた言葉のような気がする。
男は顔を歪め、自嘲するように呟いた。
「……死神は己の中に居る。決して背を見せるな」
(油断した……)
溢れ出した涙が頬を伝い、耳を撫でた。
(こんなところで……あんな連中に……)
朦朧とする意識の中、遠い記憶の中を彷徨った。
両親が健在で幸せだった頃――友人や妹とただ遊んでいればよかった日々――母が倒れた日の事、妹と二人で生きて行かねばならなくなった事、冒険者になる決意をした日の事……。
もう手を持ち上げることもできず、拭われることのない涙は一つ、また一つと、滴となり頰を離れた。
冒険者登録を行ったあの日、いつか何処かで野垂れ死ぬかもしれない。その覚悟はしていた。その時が来ただけだ。ただ、ほんの少し唐突だったというだけだ……。
唯一の救いは、自身が相棒と呼ぶあの男がこの場に居ないことだ。だが、それが寂しくもあった……。
ぶれた視界は涙で滲み、胸に乗ったそれはぼやけた白い塊に見えた。
もう自分は助からない。例えペンを掴み字を書けたとしても……。
だが、自分達を見舞った事態の一辺でも……せめて、あの男に自分の死を――
(知らせてくれるか……?)
心で語りかけ、男は最後の力を振り絞った。
「行け……!」
空に向かって進むそれを見送り、男は目を閉じ唯一の肉親を想った。
「……フィー。……フ…ー……ない」
2017/08/01再編集 2020/11/02微修正




