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マニピュレイション!  作者: 立花 葵
出会いと追憶
26/72

まだまだ探す気ですか?2

 何時もの如く、開門と同時に起き上ったカルア。聞き慣れた朝の憚るような喧騒に、何時もとは違う音と匂いが混る。

 階段を下りながら、出入り口の外へ目を向けた。

(雨……)


 既に起きていたホセが中程のテーブル席に座り、巨大なジョッキでエールを(あお)りながら朝食が運ばれるのを待っていた。

 何時もの光景だが、今日は少し違った。何時もなら荷車を置いて戻って行くヘッジがホセの向かいに座っていた。


「姐さん。おはようございます」

 歩み寄るカルアを認め、ヘッジが立ち上がった。

 毬栗のような髪型、色合いもよく似ている。服装も倉庫で働く者たちと同じ物を着ているのだが、どうにもこの男には育ちの良さというか――上品さを感じる。


 髪型や言葉遣いでそれを覆い隠そうとしているように見える。

 ひょっとすると、元々は何処か良い所のお坊ちゃんだったのではないだろうか?


「おはようございます」

 笑顔でそう返し席に着いた。それを見届け、ヘッジも腰を下ろした。

「姐さん、実は今日入る予定だった荷がまだ届いてなくて……」

「お休み――って事ですか?」

「ええ、そうして頂けると……」


「わかりました」

「明日の朝で依頼を出し直しておきやすんで、宜しくお願いしやす」

 頭を下げるヘッジの姿には、やはり何処か取って付けたような印象を受ける。

「ホセさんは――」


 依頼が無いということは、護衛のホセを戻さなくてならないのではないか? 依頼を請け負っている間は、護衛を付ける。そういう約束だったはずだ。

 それを口にしかけたカルアを遮ってホセが答えた。

「姐さんから離れるな。社長、言った」

 ヘッジがカルアへ頷く。


「でも、ホセさん……。その、マドックさんに逢いに行かなくても……」

 ホセは不思議そうな顔でカルアを見た。

 噛み合わぬ二人を見て――、ヘッジはハッと声を割り込ませた。

「あ、もしかして――姐さん、社長に……」

「え、ええ……」

「それ嘘なんで、気にしないでくだせぇ。俺も最初騙されたんすよ」

 からからと笑うエストの声が聞えた気がした。



 ――次ぎにエストに会ったらなんと言ってやろか? そんな事を考えながら、何時もよりほんの少し賑やかな朝食を済ませた。


 お茶を飲みながら――、外を眺めた。雨は徐々に激しくなってきているようだった。

 行ってみたい所はたくさんある。しかしこの雨では……。

 ぼんやりと外を眺めるカルアの向かいで、ホセは二杯目のエールに口をつけていた。



 ――カルアとホセの以外の泊まり客が、一人二人と雨に顔を顰めながら出かけてゆく様子をぼんやりと眺めた。

 ヘッジはもう倉庫へ着いた頃だろう……。

 カルアとホセ、デールの三人になった店内に――ふらりと立派な髭を蓄えた常連客の老人が現れた。既に顔が赤い。


 カルアとホセの姿を認めると、数本欠けた前歯を見せてニカっと笑った。

 師匠とは違い、この老人の欠けた前歯には愛嬌を感じる。使い古されたハンチング帽もよく似合っている。

「今日は休みか?」

「はい、そんなところです」


 冒険者に休みはない。常に仕事はある。その仕事をやるか否かは自由だというだけだ。


「そうか、そうか――」

 続けて何か言っていたが、ふにゃふにゃとしていて何と言っているのかは聞き取れなかった。

 老人は何時もの席――カウンターから左斜めのテーブル席へ座り、デールが置いたボトルを手酌で飲み始めた。


 ――雨は弱まる気配はなく、ザンザンと降り続けた。

 例の老人は、ちびりと酒を含んでは幸せそうな息を吐き出している。

 ホセは巨体に似合わず読書が趣味なようだ。

 全身鎧(フルプレート)は元々鎮座していた階段下のスペースにじっと座っている。

(そのまま止まってくれたら良いのに……)



 ――雨が石畳を叩く音に、行き交う人々の足音や馬車の走る音が混じり始めた。

 カルアは外を行き交う人々をぼんやりと眺めながら、もう冷めてしまった三杯目のお茶に口を付けた。

 ぽっかりと開いた空白に取り残されたような……、妙な感覚に囚われていた――


 最初は本当に嫌だったのに、今は商会の仕事へ行けない事に寂しさを感じていた。同時に、あれほど怯えていた全身鎧に慣れてきている事に、自分でも呆れてしまった。


 雨は激しさを増し――石畳を叩く音が、それ以外の音をうっすらと包み込むんだ。

(神殿……旧世界……)

 カルアはカップの中で揺れる自分を見つめ、ぼんやりと昨日のエストの話を思い出していた。


 エストの語る歴史は、しばしばカルアの知るそれとは大きく異なる。

 所謂、歴史の逆説やとんでも説と言うやつだ。カルアはそう言ったものはあまり信じてはいないのだが――聞くのは好きだ。それも専門家が語るものとなれば、興味が湧いてくる。


 

 雨は少し勢いを失ったようで、雨音以外の音がはっきりと耳へ届いた。

 カルアは三口分程残っていたお茶を流し込み、席を立った。

「ちょっと出かけてきます」

 そう言って出口へ向かったカルアへ続こうと、ホセが立ち上がった。

「大丈夫ですよ。ゆっくりしてて下さい」

 ホセは、止めようとするカルアへのしのしと歩み寄った。

「慣れた。一番危ない」


 ……おっしゃる通り。ちょっと気を緩めすぎだなと、カルアは反省した。

「じゃぁ――お願いできますか?」


 外へ出たカルアは、自分とホセの頭上に円盤状の魔法陣を描き、中央を上から摘まんで引っ張ったように少し変形させた。

障壁(ヴレウ)

 傘のように〈障壁〉が展開され、雨を遮った。


 傘代わりの〈障壁〉が人や物にぶつからないように気を配りながら道の端を歩いた。薄く脆く調整しているとはいえ、腐っても〈障壁〉だ。ぶつかればかなり痛い。

 ホセは、自分より背の高い者は滅多に居ないため、カルアのように人を避けたりする必要はない。


 右に、左にと避けながら歩くカルアに合わせ、ゆっくりと後に続いた――



 ◆



 ――商会の倉庫は、出入りする人も荷車もなく、いつもとは違う雰囲気を纏っていた。

 搬入口の巨大な両開きの扉は左側だけが開かれており、数名が中程で何かの仕分け作業をやっていた。


 カルアは、作業をしている者達の中にローデックを見つけて歩み寄った。

 気配に気が付いたローデックが顔を上げ、驚いたように声を上げた。


「あれ? 姐さん。どうしなすったんで――あ! ヘッジの野郎説明せずに――」

「いえ、違います! 私が勝手に来ただけで……」

 今にもヘッジを締め上げに行きそうなローデックを慌てて押しとどめた。


「あの、エストさん――居るかなぁ……と」

「ああ、社長なら二階におりやす。どうぞ」

 そう言うと、ローデックはカウンターへ通じる扉からカルアを二階へ導いた。全身鎧はカウンターの隅に待たせた。


 ローデックが扉を

ノックする。

「社長。ローデックです」

「どうぞ」

 エスト返事を待ち、カルアを連れたローデックが社長室兼書斎へ入った。


 ――正面に置かれた机の向こうに、椅子にもたれて本を読むエストの横顔が見えた。

 会釈をしてローデックが部屋を出ると同時にエストが顔を上げ――カルアの姿を認めた。


「やあ。どうしたんだい?」

「え――と、どうって言うほどの……」

 何やら照れくさそうに口ごもるカルアへにっこりと微笑み、机の向かいに椅子を用意してた。

「どうぞ」

 芝居がかった仕草でカルアを促した。

 彼女が腰を下ろすと同時に――扉がノックされた。


「社長。ローデックです」

「どうぞ」

 と言うエストの声に続き、開かれた扉からローデックが顔を出した。

「一人分追加で頼むよ――いや、面倒だから来てもらいなよ。どうせみんな来ちゃうだろうし」

 エストはカルアへ目を戻した。


「お昼は食べて行くよね。流石に今日は持ってきてないでしょ?」

「え? いや、そんな――」

 一旦は断ろうとしたものの、ニコニコと笑うエストに押し切られるように

「――いいんですか?」

 と、もじもじと尋ねた。


「もちろん」

 エストは微笑み、「それと、ローデック君。彼女に――」と何かを言いかけて、自分も腰を下ろした。


 ローデックは持ってきていたティーセットを机へ置くと、二人へお茶を注ぎ始めた。

「流石だね。君は出会う人が少し違ったら、何処かで執事か秘書でもやってたんじゃないかい?」


「滅相もない。あっしにそんな立派な仕事は務まりやせん」

 そう返し、茶を注ぎ終えるとするりと部屋を出て行った。

 ヘッジとは違い、身に染み付いた感じの独特な彼の立ち振る舞いは、長年荒くれ者に囲まれて生きてきた事を窺わせる。


 カップを口へ運び、エストが呟いた。

「しかし、よく降るね……」

 釣られるように目を向けた窓越しに、勢いを取り戻しザンザンと降り注ぐ雨が見える。

 帰り道の事を思い、沈鬱な気分になったカルアを――口内に広がる香りがゆったりと解した。


「神殿には行ってみたかい?」

 エストが尋ねる。

「まだ……でも、今夜か明日にでも行ってみるつもりです」

「そうだね。一度下見はしといた方が良い」

「泳げるくらい広いお風呂ってどんなんだろう……」

 期待に満ちた顔でカルアが呟いた。


 カルアの呟きを拾ったエストがきょとんと彼女を見つめた。

 視線に気が付いたカルアもきょとんとし、不思議そうにエストを見つめた。


 ややあって……、「アハハハ!」とエストが身を反らして笑い出した。

「いやぁ、ごめん。うん。確かに、ここ(ザシャ)の神殿には大きなお風呂があるよ」

 そう言ったエストの口の中にはまだ笑いが残っている。

 カルアはそんなに可笑しな事を言ったのかと、訝しげにエストを見つめた。


「随分とあのストーカー(フルプレート)には慣れてきたみたいだね」


 それを聞いて、カルアはかみ合わぬやり取りに合点がいった。

(エストさんは結界の話をしてたんだ……)

 急に恥ずかしくなり、赤く染まった顔を俯けた。

「何でも慣れた頃が一番要注意だよ」

 からかうようなエストの声に、カルアはしおしおと縮んでゆく。


「ホセさんにも言われました……」

 己の言葉でカルアは更に小さくなった。

 今朝、慣れすぎだと己を戒めたばかりであったにも関わらず、もうこれだ……。


 思えば、前ほどあの二人(ルチルナとローレンス)を熱心に探していない……。

 これが全身鎧が張り付いた初日などであれば、雨だろうがなんだろうがあの二人(ルチルナとローレンス)の姿を求めて駆け回っていただろう。


 風に煽られた雨が時折窓を叩き、雨音に混じり「クスクス」と笑うエストの声が聞えた――


 ふと、もう一つの音が混じった。聞き覚えのある独特な音――

 低い、低い鐘のようであり、鼓動にも似た音。それに混じり、グラスを弾くような――澄んだ透き通った音色が幾重にも重なり、溶けてゆく――

 

 ――飛空挺の駆動音だ。


 音は頭上を通り過ぎ、取り残された雨音が室内を満たした。

「――飛空挺……魔導技術を象徴する物……」

 窓を見ていたエストが呟いた。

「僕はね、旧世界は魔導技術によって繁栄した文明だったと考えているんだ」

 エストはカルアへ顔を戻した。


「神殿――龍神教は旧世界の生き残りであり、魔導技術を新世界へ伝えた者達だと考えている」

「それじゃ、神殿の結界は――」

「魔導技術によるもの――魔導具による結界だと考えている」

「流石にそれは……何か根拠があるんですか?」

 エストの顔を窺うように、カルアは尋ねた。


 彼は待ち構えていたようにニッと笑い、机から本を取り出してパラパラとページを捲った。

「これはね、決して公開される事のない文書。その写しなんだ」

 エストは本をカルアの前へ置き、開いたページを指差した。


「これは抗魔戦争が勃発する前に、彼の英雄ジークが書いたもの。ほら、ここ。神殿とその周辺で使われていた魔導具について書かれている。

 魔導具は魔術ギルドが開発し、冒険者ギルドがそれに続いたとされているけど……この記述によると、抗魔戦争以前――つまり、魔術ギルドが創設されるより前に、魔導技術が既に存在していた事になる」


「本物なんですか……? これ」

 本を覗き込みながら、胡散臭そうにカルアは尋ねた。

「もちろん。それに、これはほんの一部だ。こういった決して一般には公開されない記録が、この世界には無数に残っているんだ」


 限りなく怪しい……。


 だが、カルアは何やら楽しそうだ――

 エストは本棚から本を引っ張り出しては開き、次々とカルアの前に広げた。

 雨音が籠もる部屋に、二人の楽しげな声が響いた――




 ――その頃。




 ザシャ北門にほど近い岡の上。

 海龍リヴァイアサンを象った台座を持つ立派なオベリスクが建っている。


 周囲の木々は程よく剪定され、下を通る北門から伸びる街道からもよく見える。

 左を向けばザシャの町とその北門が見える。出入りする人々の姿は、指の先で容易に隠せそうだ。


 あいにくの雨と、海に面した西側の斜面から吹き付ける風で、寒々しい雰囲気が漂っている。

 天候の良い日であれば、周囲の木々から零れる日差しと、海から吹く心地の良い風を受け、思わず横になってしまうかもしれない。

 しかし、この場所が何であるかを知る者ならば、そんな気は起さないだろう。


 ここは――墓所だ。


 中央に冒険者ギルドのエンブレムが彫り込まれたこのオベリスクの下には、無数の冒険者達が眠っている。


 ――オベリスクへ向かう、岡の東側にある石段を登る人物がある。

 裾の長いフード付きの貫頭衣をすっぽりと被り、顔は白い奇っ怪な面に隠れて見えない。

 カルアが見れば思わず振り返ったであろうこの人物は、出で立ちに不似合いな小さな花束を手にオベリスクへ歩み寄った。


 これだけの雨が降っていながら、全く濡れた様子がない。

 雨はこの人物を避けるように軌道を変え、地面へと落ちてゆく。雨だけではない、海から吹き付ける強い風も、この者には届かないようだ――


 

 冒険者ギルドは、本人の意志さえあれば国籍、種族、年齢、性別に関わりなく登録を受け付ける。

 登録時と登録後に、登録の際に申告された情報を元に身元がある程度確認される。その目的は、犯罪者やそれに連なる者であるかどうかの確認だ。


 その為、身元の確認が取れなくとも問題がないと判断された者はそのまま登録を受け付ける。

 故に、冒険ギルドが有する身元情報は必ずしも正確ではない。

 この墓所に眠るのは、そういった事情から縁者の元へ帰る事が叶わなかった者達だ。


 ――先程の人物はいつの間にか姿を消し、小さな花束だけが残されていた。

 小さな薄いピンク色の花をラベンダーの様に無数につける、比較的高所を好むこの花は、この世界の何処にでも自生し季節を問わず花を咲かせる。


 花言葉は「安息」死者に手向けられる花としてよく知られている。

 花の名は「ピレネ」知る者は殆ど居ないが、古代エルフの言葉で「贖罪」と言う意味だそうだ。





 ――ザシャの町に正午を告げるメロディーが響き渡る。それは降りしきる雨と海からの強い風を押し退け、商会の倉庫へも力強く流れ込んできた。

 倉庫の二階で何やら盛り上がっていたエストとカルアの耳にもそれは届いた。


 ――開いた状態で机に散乱し、積み上げられた本。開け放たれた資料室の扉。その床には所狭しと胡散臭い品々が散乱している。


 もしここが子供部屋か何かで、掃除に来た母親が見たのであれば目眩を催しただろう。

 その中に広げられた巻物を覗き込んでいた二人(エストとカルア)がハッと顔を上げた。


「もうお昼か」

 と呟いたエストは周囲を見回し、渋い顔になった。

 続いて周囲を見回したカルアはバツが悪そうにエストの顔を窺った。


 視線に気が付いたエストは肩を竦めて見せ、いつもの調子でニッと笑った。

「片付けはお昼を食べてからにしよう」

 そう言うと、ダンスにでも誘うようにカルアを一階へとエスコートした。



 倉庫には、いつの間にか商会の面々が集まっていた――

 屋台を引き込み、そこから大きな皿に盛られた料理を、並べられたテーブルへ次々と運んでいた。

 大きめの屋台では、頑固そうな初老の男が、手際よく次々と料理を仕上げてゆく。白髪坊主にねじり鉢巻が良く似合っている。


 入り口に立つカルアとエストの間から、ヌっと入って来たマドックが隣に立った。

「お前も来てたか! フハハハ! さぁ、食え!」

 腕を組んで仁王立ちのいつものスタイルで、再び豪快な笑い声を響かせた。


 マドックの笑い声が響いた途端――、倉庫はふいに表情を変え、いつもの顔をカルアへ向けた。

 正直鬱陶しい笑い声なのだが、カルアは優しげな顔でマドックを見上げた。


 ――その時、マドックの眼帯の紐が解け、はらりと落ちた。


(あれ?)

 カルアはてっきり、眼帯の下には大きな古傷でもあるのだと思っていたのだが……。

 傷は無く、目玉もしっかりと落ちた眼帯を追って下を向いた。

 マドックは無言で眼帯を拾って付け直すと、何事も無かったようにまた笑い声を響かせた。


 マドックを挟んで隣に立っていたエストも、眼帯が落ちた時確かにそれを追うようにちらりと目が動いていた。

 しかし、何事も無かったように配膳の様子を眺めている。


「あの、マドックさ――」

 マドックに眼帯の事を尋ねようとしたカルアを遮って、ローデックが割り込んだ。

「姐さん! あちらに席を用意しやした。どうぞ」

 と言うローデックの目が何やら語り掛けている。


(それ・には・触れる――な?)


 カルアの背を押し、席へと案内するローデックが声を潜めて耳打ちする。

「あれには触れねぇでやってくだせぇ」

「はぁ……」


「姐さんと出会う三日前まで、呼び名は「ボス」で、何を言っても「……ん」としか返さない人で、その前は「頭領」で語尾は「である」だったんでさぁ。

 もし、ある日突然振る舞いが変っても触れねぇでやってくだせぇ。そういうお人なんでさぁ……」


 第一印象の面倒臭そうな奴。っというのは間違いではなかったようだ……。


「……分りました」

 カルアは案内された席に腰を下ろし、周囲を見回した。

 席へ着いた者から順に、当然のように置かれた酒を呷り、皆次々と料理を頬張っている。


 スープや炒め物、どれも豪快にぶつ切りにされた肉や魚にゴロゴロとした野菜。食欲以外のものもくすぐられる。

 昼食のはずだが、皆酒を呷り、宴会のように賑やかだ。

 その様子に顔を綻ばせ、カルアも料理へ手を伸ばした――



 ――日が沈み始めた頃



 ホセに抱えられて眠るカルアの顔を、デールが覗き込んでいる――

「申し訳ありやせん。つい、あっしらのノリで……」

 ホセの隣で頭を下げるローデックとヘッジ。

「いや、俺に謝られてもよ……」

 困惑顔のデールはカウンターに頬杖をつき、カルアを眺めた。


 だらしなく口を半開きにし、真っ赤な顔でスヤスヤと眠っている。


 なんでも、昼食の後そのまま酒盛りへと突入し、おだてられるままに酒を飲みまくったカルアは、そのまま酔いつぶれてしまったのだとか……。

 ホセに抱えられ、ローデックとヘッジが付き添ってデールの宿まで運んできたのだった。


 カウンターに一列に座り、幸せそうな寝息を立てるカルアを見守る面々。

 デールは溜め息をつき、カルアの額をピンっと弾いた。ピクっと動くが起きる気配は無い。


 おもむろに立ち上がった常連客の老人が、カルアの顔を覗き込みひゃっひゃっと笑う。

「酒が飲めん女は好かん」

「ええ顔じゃ」と満足そうに頷き、またひゃっひゃっと笑った。

 外は日が沈み、街灯がともり始めていた。


 デールは溜め息と共にホセへ手桶を渡し、後ろ手に宿へ向かう階段を指した。

2016/05/09誤字修正・一部表現を修正 2016/05/10脱字修正 2016/06/18誤字修正 2016/07/07… 2016/09/28段落修正 2017/7/24再編集 2020/09/14微修正

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