ある男の記憶7
五歳になった。
エクソシストをエクソシズムして以降は特に事件はなく、我が家は平穏だ。
漸く新居も完成し、また親子三人の生活が始まった。もちろん、祖父母――特に祖母は俺に会いによく顔を出す。
我が家を巻き込む事件は無かったが、俺個人には大きな事件があった。
蒸し暑い、寝苦しい夜だった――
夜中に目覚めた俺は尿意を催し、トイレへと向かった。
そして、両親の部屋の前を通った時――扉の隙間から弟だか妹だかをこしらえる両親の姿を見た。
想像を絶する光景だった……。
小さな母に覆い被さる親父の巨体。激しく出し入れされるカノン砲――
母の口から何か飛び出してくるのではないか? 母の体が破裂するのではないか? バラバラに千切れてしまうのではないか?
恐怖におののき、腰を抜かしてぶるぶると震えた。小便など引っ込んでしまい、口から出てきそうだった。
這いつくばって自室へ戻り、布団に包まって朝まで震えた。
この日を境に、か細い女や小さな女の子に恐怖を感じるようになった。
唐突に「パン!」と破裂したり、触ると「クチャ」と潰れたりするのではないかという恐怖に襲われ、近づけなくなった。
俺はこのトラウマを今でも引きずっている。
でもまあ……考えてみれば俺が出て来たのだ。入らなくはない。それにしても――、女とは凄い生き物だ……。
三歳を過ぎた辺りから成長が加速し、今では剣の稽古も出来るようになった。喋るのも問題ない。
自由に動けるようになり、積極的に情報収集に乗り出したのだが……この村には本当に情報がない。
二百年の引き籠もりは伊達じゃぁない。
世界地図とやらを見せられたのだが、前の世界の地図を見慣れた俺にはただの落書きにしか見えなかった。
地理情報と言えば、ここはエルフ領と呼ばれる地域らしいと言う事と、超が付くど田舎であると言う事だけだ。
ただ、ごくごく稀に行商が来る……と言うか、迷い込む事があるらしいので、気長に待ちながら剣と魔法の訓練に打ち込むことにした。
ペリー提督でも現れてくれれば良いのだが……。
剣の訓練をしていると、親父が稽古を付けてくれるようになった。親父は剣士だったのだ。剣――鬼が持っているいぼいぼの付いたアレだ。
だが、動きは確かに剣士だった。巨人族は一度しか見た事が無かったので知らなかったのだが、巨人族の剣士はみんなこんな感じらしい。
俺の上達が早いと喜ぶ親父を見て、チクリと心が痛んだ。最初の人生で、俺は一応国に名を轟かせた剣士だったわけで、記憶に合わせて体を最適化してるに過ぎないのだ。
母と祖父も魔法を教えてくれるようになった。祖父は一流の魔術師らしい。
でも俺はシンボル魔法は覚える気はない。すまない。
シンボルの授業はのらりくらりと躱し、知識としてのみ記憶に留め、魔力量アップの訓練は真剣に受けた。
とにかく魔力を使いまくる事が一番らしい。
魔力切れになると暫く動けなくなってしまうので、切れるギリギリの所まで出し、そこから回復と消費の量が同じになる様に魔力を消費し続けるのが最も効果的なのだとか。
限界ギリギリまで魔力を使い、紋様や魔法陣を描く要領で全身からチョロチョロと魔力を放出しながら日々を過ごした。
――そして壁にぶつかった。魔力を大きく消費するには、魔法を使わなくてはならない。
だが、表向き俺は魔法を使わない。いや、使ってはいけない。
庭で剣の稽古を始める前に、こっそりと木々の隙間から空に風を起こして魔力を消費していたのだが……魔力の総量が増えてきたらしく、魔力を吐き出し切れなくなってきたのだ。
あまり威力を上げるとバレてしまうし……村から出歩かせてもらえれば解決出来るのだが……。
剣の稽古をしながら悶々と過ごし、十歳を迎えたある朝、親父に連れられて初めて村の外に出た。
親父の下顎から突き出た牙に掴まり、肩車されて高い視点を楽しんだ。森を歩く内に、悶々としていた気分も少し晴れた。
たまにはこんな時間を過ごすのも良いものだ。
――思えば、これまで日々訓練訓練と全力で走っていた。エルフ達は長寿な所為か、生活もそれに比例して引き延ばしたようにゆったりとした時間を過ごす。
毎日毎日飽くことなく訓練に精を出す俺はなかなかの変わり者だ。
二回も人族として生きた俺には、間延びした様な時間がどうにももったいなくて、時間を惜しむように日々せかせかと過ごしていた。
しかし、短い寿命の中でせかせかと時間を惜しむように過ごすからこそ、人族の発展は早いのだ。
関係ないが、俺はある日を境に村の殆どの女性を極端に避けるようになり、男にしか近づかないので色々と噂も囁かれていたようだ。
お前らが細すぎて怖ぇんだよ!
――ところで、この無駄にでかい牙は他に使い道はあるのか?
二時間程歩き――森が途切れ、木が少なく岩が目立つ急斜面へ出た。
親父はそのまま斜面を登り、岩肌をくり抜いて作くられた家へ入った。
そして、俺は待ちに待った人物との邂逅を果たした……。
ペリー提督は既に来ていたのだ。
別に開国を迫りに来た人物という訳ではないのだが、彼は俺の求めていた情報をふんだんに持っていた。
男の名はババム。ドワーフだ。
親父と比べると小人の様だが、体は分厚い筋肉で鎧われ、力比べとなれば良い勝負をしそうだ。
赤黒い髪を後ろで無造作に束ね、癖のある白いもじゃもじゃの顎髭は胸に届きそうだ。
顔に刻まれた深い皺と癖のある口髭は、頑固な性格が滲み出ているようだった。
村の戦士達が持つ剣やナイフは殆どこの男が作っているらしい。親父は俺に持たせる短剣の制作依頼に来たのだった。
俺も戦士達に混じり狩りの訓練などを始めるらしい。
俺の知るドワーフ達は、例外なく語尾に「!」が付きそうなでかい声をしていた。
そういう種族なのだろうと勝手に思っていたのだが、そんな事は無かったようだ。
ババムは頑固ないぶし銀の職人、と言った低い声でボソっと話す男だった。
ああ、そうだ。前の世界で語られるエルフとドワーフの関係は犬猿の仲とされるものが見受けられたが、そんな事はない。好む環境が大きく違う為に交流が少ないというだけで、仲は普通だ。
ただ、エルフは変化をあまり好まない為、同じ村の中で生活する事は少ない。
ギースとして生きていた頃、最も多く見かけた他種族はドワーフだ。彼らは職人であり、エンジニアだ。
技術の探求に貪欲で、新たな技術を求めて旅に出る者が多く、その先に根を下ろす者も多かった。
寿命は五百年前後、千年生きた者も居たとか居なかったとか……。
ババムは俺の手をふにふにと弄くり、じっと見つめ――、奥の工房へ引っ込み早速制作に取りかかった。
ババムの弟子という、ムームと言うドワーフの女の子が入れてくれた茶を飲みながら待った。
ムームは歳は俺より五つ上だったが、身長は俺とさほど変わらない。だが、体はがっしりしている。丈夫そうでイイ。これなら唐突に弾けたり潰れたりしないだろう。
浅黒い肌で、ちょっと癖のある赤毛を編み上げ、天辺よりで一纏めにしていた。小顔で目のクリっとした可愛らしい子だ。丈夫そうでイイ。
ムームは時間を持て余していた俺を書斎のような部屋へ連れて行き、色々と本を見せてくれた。
――部屋の壁に沿って置かれた棚にはビッシリと本が並び、入りきれずにその上や床に山積みにされたいた。
カウンターと眼鏡の白髭爺さんを置けば古書店といった雰囲気だ。
情報の山を前に歓喜し、早速飛びついた。
どれから読もうかと物色していると、床に積まれた本の間に挟まっている物が目に入留まった。
手に取ってみると、それは折りたたまれた古い地図だった。数百年前の地図の写しなんだとか。
何の気なしにそれを広げ、俺は固まった。この地図に見覚えがあったからだ……。
そう、ギース・トレントとして生き、傭兵団を率いていた頃――俺は同じ物を持っていた。
やはり、俺はギースとして生きた世界に戻ってきたのだ。
――そう確信すると同時に、衝撃的な事実を知った。
ムームによると、この地図の原本は、少なくとも八百年は前の物らしい……。
単純に福田浩之として生きた四十二年を足した位だと思っていた俺は愕然とした。少なくとも八百年……。
地図を見て固まる俺を、ムームが不思議そうに見ていた。
八百年……。
暫く固まっていたが――、ここまで来ると何もかも諦めがつく。
俺を知っている、俺が知っている、そいつらは間違いなく死滅しているだろう。
それに、俺が死んだ後、嫁が誰それとくっついたとか聞かされたり、四十を越えたオッサンやオバハンに「お父さん!」なんて言われる心配もない。
――俺はリセットボタンを押した。そういう事にしておこう。
だが、少なくとも八百年も先の未来へ来たというのに、何故この世界はもっとこう、爆発的に進歩した感じが無いのだ?
俺は答えを求め、目に付いた本に片っ端から目を通した。
――空に赤みが差した頃、ババムから短剣を受け取り、家路に就いた。
身幅の広い刀身。諸刃造りの切っ先は湾曲しスッと細く伸び、鍔はなく刀身と柄が一体の作りだ。
柄の両側面に、柄と刀身の境に僅かな隆起があり、手が刀身へ滑らないようになっている。飾り気は一切無く、刀身の峰よりに樋が一本あるだけだ。
いや、飾りなど必要ない。この剣はこれで完成されている。剣そのものが装飾品のような美しさを湛えていた。
磨き上げられた金属の放つ、冷たくも美しい独特の輝きに目が吸い付く。
僅かに波を描く柄は俺の手には大きすぎるのだが、手に吸い付く様に馴染む。
親父曰く、手がこの柄をすっぽりと覆う大きさに成長してもそれは変わらないらしい。むしろ良くなると言っていた。
親父の肩の上で、俺は飽くことなく短剣を眺めた。
――その日の夜。俺はベッドに胡座をかき、短剣を前に腕を組んで瞑目していた。
時折乱れる思考を短剣を眺めて落ち着かせた。そして、ババムの家で得た切れ切れの情報を使い、ギース・トレント死後の歴史を組み立てた。
俺が地底湖に没してから数百年後――
人間族は大いに繁栄し、世界の隅々までその版図を広げていた。
そして絶頂を迎えていたその時、侵略者が現れた。
俺がギースとして生きていた頃、俺の居た大陸と海を挟だ隣にも陸地があることは知られていた。稀に言葉も文化も全く違う連中が漂着する事があったからだ。
中央大陸という記述が見受けられたが、おそらくそこの事を言っているのだろう。
そして噂程度にそのさらに向こうに『魔窟』と呼ばれる海域があると言われていた。通過する船をことごとく沈める化け物が住み着いていると。
どうやら、その更に奥にも大陸があるらしい。そしてそこに独自の発展を遂げた文明があったようだ。
そして、こいつらがこちら――東側へ侵攻してきた。
『抗魔戦争』だ。
魔族という呼称は、この抗魔戦争で西の大陸勢力――西側の者、西側へ与した者達を『魔族』と呼んだようだ。
この戦いが、世界を滅ぼした。
どちらかが放ったのか、宇宙から飛来したのかは不明だが、何かが世界中に降り注いだらしい。
何だったのかは分らないが、世界を破壊し焼き尽くし、住まう者達を絶滅寸前にまで追いやった。
これにより中央大陸は一部を残して消し飛んだらしい。
そして破壊し尽くされた世界は、石器時代へと巻き戻された……。
俺だけでなく、世界もリセットボタンを押したらしい……。
こんな所だ。ただ殆ど俺の推測なので正確ではないだろう。
だが、人間族が世界中にその版図を広げていた事は確かなようだ。そして、それを支えた文明が根こそぎ失われてしまった事も……。
翌日から、狩りに向かう戦士達に付いて数日間村を離れ森をあちこち歩いた。
森の探索は俺の悲願の一つであったのに、心はさえなかった。その間俺の頭にあったのは――
ババムの所に行きてぇ……だった。
――狩りから戻った翌日は親父と剣の稽古をした。そこでダメ元で親父にババムの所に行かせてくれと頼んでみた。
すると、意外な事に親父はあっさりと許可した。
しかし、当然と言うか母は俺が一人で出歩く事に猛反対した。
だが、俺の剣の腕前なら危険は無いと親父が太鼓判を押し、渋々ながら了承してくれた。
事実俺の剣の腕は大人顔負けだった。なんせこれまで習得した技や経験を引き継いでのニューゲームだからな。
翌日、早速ババムの家へ向かおうとする俺に、親父が剣を送ってくれた。親父の手作りらしい。
俺の身の丈に合わせた――釘バットだ。楔の様な金属をふんだんに使った一品だ。
この世界の釘バットとは、かくも凶悪な姿をしているのか……。
……本当に巨人族の剣士はこんな物を使うのか? 何か騙されている気がする……。
ババムの家は、岩をくり抜いて作った洞窟だ。玄関付近は煉瓦の様に加工した石を積み上げ、隙間に白い漆喰が詰められている。
木製の扉には丸いのぞき窓。その脇からキノコのように突き出たT字型の煙突。
今にも妖精さんが飛び出して来そうだ。
実際は無口で無愛想な髭もじゃドワーフだがな。
玄関から顔を出したババムに本を見せてくれと頼むと、頷きながら「ん……」とだけ言って俺を招き入れた。
家の中は家具や柱、扉に窓枠と木が使われ、岩に囲まれている事を感じさせない暖かみがある。
玄関を入ると直ぐに目に付く丸テーブルにムームの姿があった。彼女の手の間で、球状に舞う砂のような物が魔法陣に囲まれてサラサラと回っていた。
サラサラと回るそれから、時折ぽつりと何かが落ちる。金属の様だ。
――物質精製の魔法だ!
理解すると共に、目立たない魔力の消費手段を得たとほくそ笑んだ。
同時に――初めて、ギースとして生きていた頃より進歩した技術というものを目にした。
あの頃は鉱石をくべた炉を魔法陣で囲み、数人がかりで行う作業だった。
ムームが回していた砂を脇の袋へ中へ落した――
ババムはテーブルに残った小さな金属の粒を手に取りじっと見つめ、ムームが顔色でも窺うようにその様子見守っていた。
結果は――不合格であったらしい。肩を落すムームにババムはちらりと目で俺を指し、「んっ」とだけ言って奥の工房へと引っ込んだ。
書斎へと通された俺は、本来の目的は一先ず置き先程の物質精製の魔法に関する本を幾つか開いた。
あらゆる物から目的の物質を取り出す。石や砂などに限らず、植物や骨からも取り出せ、この方法でしか手に入らない物が多数存在するようで、特定の場所に湧く水からしか採れない物質という物もあるらしい。
取り出す物は鍛冶に使う鉱物ばかりではないようだ。非常に興味深いものだ。
とりあえず今再現出来るものを実際にムームに見せて貰った。いくら呪言といえどもイメージを創れなくてはどうにもならん。
ムームに一通り見せてもらい、満足した俺は本来の目的――昨夜の仮説をより正確な物にする記録を探した。
――当然だが、ここの蔵書は鍛冶や冶金に関する物が殆どで、俺の求めるような情報はそれに付随するついで程度の物ばかりだった。
だが、見た事の無い言語で書かれた物が幾つかあり、興味を引いた。
俺は主立った種族の言語はある程度知っている。グリムと旅をしている時に教わったのと、傭兵団に居た連中からも教わったからだ。ちょっとした依頼を受ける程度のやり取りは出来た。
たが、この言語には見覚えが無かった。床に広げた本を前に、俺は首を傾げた。
そしてムームに尋ねてみたところ、天人族の言葉だと言う。
俺は興奮した。天人族は一度も見た事が無いし、実際に会った事や見た事があるという者に出会った事もない。
その存在を言葉で伝え聞くだけで、本当に存在しているのかどうか怪しい種族であった。
俺がそう思っているだけでは無い。天人族とは、都市伝説と言って良い存在なのだ。
しかも、たまにババムを尋ねてここへ来ると言うではないか!
ムームは本を覗き込み事も無げに読み上げ始めた。
興奮する俺を他所に、無遠慮に体を寄せてすらすらと読み上げるムーム。
――鼻先にある彼女の髪から漂う微かな香りが鼻腔をくすぐった。
俺が本当に十歳児であれば、この状況にときめき、時折大人びた仕草を見せる彼女に恋心を抱いただろう。
だが、中身は二度も死を経験したトータル八十七の爺さんだ。目の悪くなった祖父の為に、本を読み上げる孫を見つめる気分だった。
本の中身は大した事は書かれていなかった。だが、ムームによると彼らは非常に博識で、古い歴史などにも詳しいと言う。
俺がここで得た歴史を組み立てるのに使った情報の大半は、彼らから得た物だと言う。
言われてみれば、確かに注釈のように走り書きされた物が多かった。
俺は目を血走らせ、ババムに天人族と引き合わせてくれと懇願した。
しかし、彼は頑なに拒否した。それに、会わせようとしても向こうが嫌がるだろうと言った。
彼らは外界との繋がりを極端に嫌うそうだ。ババム自身、偶然に知り合った天人族の一人がたまに鍛冶仕事を依頼しに来るだけで、仲が良いと言う訳ではないと言う。
だが――俺は引き下がらなかった。
心の奥から何の根拠もなく、確信を持って突き上げてくる声。これを無視してはならない。二度の人生を経て学んだ事だ。
(天人族に会わなくてはならない)
何でも良い、彼らが俺に興味を持つ何か――
三度目の人生――異世界の事――何か――こじつけでも良い……。
俺は意を決し、ムームに外して貰いババムと二人になった。
他言無用と釘を刺し、ババムの前で呪言を使った――
ムームが物質精製の訓練に使っていた砂の入った袋がテーブルの上へ舞い上がり、水を注ぐ様に口から砂を垂らした。
砂はサラサラと球状を描いて宙を舞い、ムームが精製したのと同じ金属がパラパラとテーブルに落ち――ババムはその様子を目を剥いて見守っていた。
やがて砂は袋へ戻り、元の場所へ戻った。ついでに袋の口も縛ってやった。
「これについて彼らに尋ねたい」
と言うのは口実だ。博識だと言う彼らでも呪言は知らない可能性が高い。これをを見せればきっと俺に興味を持つはずだ。
ババムはテーブルに散らばった金属をつまみ上げ、低く唸りながらもじゃもじゃの顎髭を絞るように撫でた。
――黙って考え込むババムに痺れを切らし、俺は声を掛けようと口を開きかけた。
「呪言……か?」
ババムがぼそりと呟いた。
何でだよ! 何でエルフが知らなくて、ドワーフが知ってるんだよ!
俺は心の中で頭を抱えてのたうった。
――だがまぁ、落ち着いて考えてみれば、新たな技術を求めて旅に出るドワーフ達は、鍛冶に使う魔法の探求も行っただろう。そしてその過程で耳にしたのだろう。
知識を貪欲に求める彼らと、変化を求めずひっそりと暮らす者達の差か……。
だが、結果的にババムは天人族に俺と会うように頼んでみると言ってくれた。ただ、彼らがどうするかは分らんと付け加えた。
そしてもう一つ、いつ来るか分らんからマメに顔を出せと。
――この日から、俺は足繁くババムの家へ通った。
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