出会いとは唐突なもの
跳ね橋を流れる人々を横目に、カルア一行も身支度をしていた。
自分の毛布を畳むカルアの隣で、ぐずるルチルナからローレンスが毛布を剥ぎ取っている……。
ふと、カルアの目が跳ね橋を渡る一人の人物を捕らえた。
――裾の長い貫頭衣を纏い、すっぽりとフードを被っている。一見するとごく普通の出で立ちなのだが……ただ一点、顔に付けた奇っ怪な面が強く印象に残っていた。
(昨日、湖で突っ伏してたハーフエルフ……)
一瞬、日が暮れてもじっと突っ伏してる彼の姿を想像したが……直ぐに振り払い毛布を畳んだ。
カルアの目に奇っ怪に映ったその面は、とある異世界の日本と言う国ではおなじみの物――狐面だ。
詰まっていた人々が捌け、混雑に一段落付いた頃――漸くルチルナの支度が整いカルア一行も町へ入った。
※
「――それでは、我々はここで」
ローレンスが胸に手を当て深いお辞儀をする。
「はい、ありがとうございました」
カルアはローレンスとルチルナへ深々と頭を下げた。
「いえいえ、それよりも……本当に宜しいのですか?」
「はい」
ローレンスは戸惑いがちに、手にしたヨモ草の詰まった袋を見つめた。
「くれるって言うんだから貰っとけばいいのよ」
ルチルナが鼻でもほじっていそうな声を挟んだ。
「お嬢様……」
ルチルナ達が受けていたのもヨモ草の採集依頼だった為、カルアが半分わけたのだった。
カルアの好意には感謝しつつも、ローレンスの心中は複雑であった。
採集依頼をこなしているのはルチルナの試験対策であって、依頼の達成実積を稼いでいるという訳では無いからだ。
「――それはお礼ですから。次ぎは手伝わせて下さい」
ローレンスは昨夜、ルチルナと旅をしている理由のあらましはカルアに話していた為、瞬時に彼女の意図を汲み取った。
「お願いできますか?」
「はい。是非」
「では、何卒宜しくお願い致します」
ローレンスは深々と頭を下げ、意味を知らぬルチルナは訝しげに二人のやり取りを見守った。
ルチルナが報告の前に着替えと風呂に入りに宿へ帰るとの事で、中央広場で二人と別れてカルアは一足先にギルドへ向かった。
……後にこの選択を悔やむ事になるとは、この時は思いもよらなかった。
ギルドへ依頼品を納め、スケルトンの報告を行うつもりだ。
スケルトンの事は、昨夜門に居た衛兵には伝えてあるので、各方面に伝わってはいるはずだ。
しかし、ギルドで尋ねられる事は目に見えている。頭の中を整理しつつ歩を進めた。
東へ進み――、神殿に差し掛かった時だった。
昨日来た時は冒険者登録に向かう緊張もあり、よく見ていなかったのだが……。
足を止め、神殿の様子を眺めた。
出入りする人々は、信徒ではない者が圧倒的に多いようだ。
水が目当てであれば入り口の水汲み場で十分なはずだが……。
石段を上る人々を見つめていたカルアは、ふとある物に目を留めた。
(煙……?)
巨大な白い石柱に支えられた、同じく白い石で出来た三角形の庇。その正面の格子状の部分から白い靄がふわふわと漏れ出していた。
(煙突……かな?)
その時、陽射しが遮られ、振り返ったカルアは見上げた目を大きく見開いた――
(飛空挺!)
小さいが、ガレオン船を思わせる船体。その上に帆はなく、飛行船の気嚢の様な物が付いている。
気嚢は等間隔に紐で縛ったように表面は波を描き、船尾で船体の下まで届く巨大な舵と一体になっている。
舵の少し手前から突き出したポールの先に、魔法陣が見えた。
ポールに先に取り付けられた卵形の物体の後ろで、見た事の無い帯状の魔法陣が互い違いにゆっくりと回転していた。
気嚢に大きく描かれたエンブレムは、あるおとぎ話に登場する架空の鳥をモチーフにした物だ。
一組の大きな翼と、その直ぐ下に生えたもう一組の小さめの翼。大小四枚の翼をくの字に曲げ、羽ばたく一羽の鳥。
頭から出た、尾まで届きそうな太く美しい飾り羽根が特徴的だ。
世界を廻り、旅し続けるというその鳥を、ある者達の生き方に準えた物――
冒険者ギルドが掲げるエンブレムだ。
数枚の羽根のようなオールをゆったりと羽ばたかせ、水面を漕ぐように空を進んでいる。
空を漕ぐ度に――虹色の光の粒子がふわりと舞い、船首の下からもそれは流れ、水面を進む船が起す波紋のように広がった。
僅かの間――、独特の駆動音と虹の波でその軌跡を残し、飛空艇は南の空へ吸い込まれて行った。
暫くの間……カルアは飛空挺の飛び去った南の空をぼうっと眺めた。
(何時かは乗ってみたいな……)
ある程度ランクを上げれば、高額だが金を払えば乗ることが許される。そして、最上位になれば制限はあるがタダで乗れる。
気合い込めて袋を担ぎ直し、ギルドへと向かった。
――依頼を受けた時と同様に登録証をかざすと、依頼票に彫り込まれた〈受注者 カルア・モーム〉の文字が消た。
書かれていたその他の文字も全て消え、何も書かれていない未使用の依頼票に戻った。
消えた文字は、そに下に敷かれていた透ける程ぺらぺらの物に全て移っており、〈受注者 カルア・モーム〉の下に日付と〈完了〉の文字が追加されていた。このぺらぺらは数年間保管されるそうだ。
「お疲れ様でした」
報酬を乗せたトレイを押し出し、受付嬢はにっこりと微笑んだ。
冒険者になって初めてこなした仕事。そしてそれに対して支払われた報酬は、物理的な輝きの他に言い表せぬ美しい光を放ち、カルアを魅了した。
初仕事で得た報酬で何を食べようかと、にまにまと口元を緩めて三つ並んだ頑丈なベルトポーチへと仕舞った。
「スケルトンについての話を詳しく聞かせて頂けますか?」
「えっと――」
受付嬢は話しだそうとしたカルアを制し、
「こちらへ」
――と、昨日上がるなと言われた階段へカルアを誘った。
てっきり受付けで話して終わると思っていたカルアは、きょとんとしながらも受付嬢の後に付いて階段を上がった――
階段は途中で右に直角に曲がり、広い部屋に出た。
正面の壁には幾つかの硝子窓、一番左にはテラスへ出る扉が見える。右奥の壁には両開きの扉が見えた。
それぞれの窓の両脇に開け放ったカーテンが括られ、射し込む光で室内は明るい。
中央の窓の前に高そうな大きなテーブルと、それを挟むように縦長のソファーが置かれていた。
木目の美しいテーブルが光を弾き、ぴかぴかに磨かれている事を窺わせた。
壁には絵やら絨毯やらが掛けられ、粗野な雰囲気が漂う一階から上がってきたカルアは、思わず入る場所を間違えたのではないかと不安になった。
だが、ここまで一本道だ。受付嬢に続いて階段を真っ直ぐ上がっただけだ。なにより先導した彼女も居る。
落ち着きなく首を回すカルアを、受付嬢が例の高そうなソファーへ座らせた。
ふかふかな座り心地に感動したが、尻に泥など付いていなかっただろうか……などと不安になり、どうにも座り心地が悪くなってしまった。
案内した受付嬢は座らずに一歩引き、体の前で手を揃えて控えた。その為なおさら座り心地も居心地も悪く、もじもじと過ごした。
暫くして――奥の両開きの扉が開き、すらりとした初老の男性が現れた。
礼をする受付嬢を横目で捉え、腰を浮かしかけたカルアを制して男性は向かいのソファーに座った。
「お待たせして申し訳ない。当ギルド長のロイ・コールダーです」
「カルア・モームです……」
「早速ですが、東の森でスケルトンに遭遇した時の事を詳しくお聞かせ願いたい」
ギルド長と名乗った男は、慣れた様子で雑談でもするように話した。
服装も白いシャツに焦げ茶のベストを羽織り、お堅い雰囲気はない。
少しだけ緊張がほぐれたカルアは、昨日最初にスケルトンに遭遇した所から始め、ルチルナとローレンスに助けられてザシャへ戻るまでをかいつまんで話した。
自分は途中で魔力切れで伸びてたと言う事にした。
(うん、嘘では無い……)
ギルド長は腕を組み、時折顎を摘まむように触りながらカルアの話にじっと耳を傾けた――
※
「――暴君が人助けね……」
ポツリと溢したロイの声は、敬意よりも嘲りを多く含んでいた。
カルアは思わずムッとなった。巷でどう呼ばれていようと、ルチルナは命の恩人だ。
ローレンスからルチルナが『暴君』と呼ばれるようになったあらましは昨夜聞いた。そして、カルアはこう思っている。
(ちょっと我が儘なだけで、ルチルナは暴君などと呼ばれるような凶悪な人間ではない)
ムッとするカルアに気が付いたロイは、咄嗟に繕った顔を歪め……苦々しく笑った。
「いや、すまない。君にとっては彼女は命の恩人だ。その恩人を悪く言うつもりはない。ただ――」
「本当に色々あったんだよ……」
何処か遠くを見つめ、溜め息混じりに呟いた。
――話を終え一階に戻ったカルアは、何か依頼を受けておこう考えたが……東の森へ入る可能性のある依頼は、三人以上のパーティーを組まないとダメだと言われた。
スケルトンの大量発生の原因が究明されるまではそうなるらしい。
ならばちょうどよい。ローレンスとルチルナと組めば良い。早速ルチルナの試験対策を手伝える。
ギルドを後にし、二人が逗留する宿へと向かったのだが……日は高く昇り、腹がきゅるきゅるとうるさい。
(ごはん食べてからでいっか……)
そう思い、一昨日泊まった宿へ足を向けた。
せっかくだから他の所を探してみようとも思ったのだが、あそこの雰囲気が気に入ってしまったのだ。
◆
デール・シムズは、真っ昼間から酒を飲みに来た数人の常連客が囲むテーブルに「ドン」と両手に持った太いワインボトルを置いた。
軽く世間話をし、カウンターへ戻りながら昨夜衛兵から聞いた話を思い出していた。
なんでも、東の森の奥にスケルトンの大群が発生したらしい。
これが群れをなす魔物やモンスターなどであれば、もっと緊張感のある話なのだが……。
スケルトンは行動範囲が狭い。一定の範囲から出る事は無く、わざわざ獲物を求めて押し寄せたりする事はない。
発生したのは森のかなり奥な上に、スケルトンは日が沈んでいる間しか行動しない。衛兵の話では領主も多少は動くだろうが、おそらく冒険者ギルドへ丸投げだろうという予想だった。
彼は、一昨日泊まりに来た少女の事が気がかりだった。
彼女が冒険者登録を行いに行ったその日の夜にスケルトンの発生が確認されたらしい。新米はまず、周辺の森での採集依頼を受ける事が多い……。
犠牲者は出ていないと聞いたが、巻き込まれていないか気に掛かっていたのだ。
カウンターにもたれるように肘をつき、店内を何気なく見回した。
ふと――、店の入り口に立つ緑色のローブ着た人物が目に入った。フードをすっぽりと被り、入り口に出した立て看板を熱心に見ていた。
自分の心配が杞憂であった事を「フン」と笑い飛ばすと同時に、昨日彼女を見た時には無かった物を二つ見つけた。
首元の冒険者を示す証、ローブの裾に跳ねた泥の後だ。
(仕事もこなして来たか)
ジョッキを一つ手に取り、背に積まれた樽からエールを注ぐ。その樽には、この店で一番良い物が入っている。
エールを注ぎながら横目で彼女が何処へ座るのかを追った。
――宿として使っている部屋へ向かう階段脇の、少し奥まった席へ彼女が座るのを見届けた。
彼女の元へ行こうとする給仕の女性を制し、ジョッキを持ってカウンターを出た。
――ドンッ、と目の前にエールをなみなみと湛えたジョッキが置かれ、カルアはきょとんと店主を見つめた。
「奢りだ」
そう言って、ぽかんと見つめる彼女の登録証に視線を滑らせた。
「ありがとうございます」
「飯までは無理だぜ?」
「ヘヘ」
笑顔を浮かべ、早速エールへ口を付けた。
(どんどん大人の階段を登っている気がする)
何か少し得意な気分になった。
「何にする?」
「本日のお勧めピラフを」
早速報酬で貰った硬貨で支払った。村を出るときに持ってきた分がまだ残っているのだが、報酬で貰った方を使いたかったのだ。
店主はカルアから受け取った代金をポケットに仕舞い、代わりに取り出した釣りを彼女の手に落した。
「待ってな」
店主がカウンターの方へ戻って行くのを見送り、再びエールを口へ運んだ。
――二口三口とジョッキを傾けるカルアの横目に、階段下のスペースに鎮座する異様な物が映った。
真っ黒い巨大な全身鎧が台の上に座るように置かれていた。
全体的に太い。腕も足も胴も太い。兜だけが少し小さい。
(巨人族用……?)
興味を引かれ、あちこち見回しながらそっと触れてみた。
金属のようでもあり石のようでもあった。全体的にずんぐりとしており、立ち上がれば二メートルはあるだろう。
しかし、巨人族が着るには背が低いし、全体的に太すぎる。
ちょっと鎧の背が足りないが、ルチルナのゴーレムが着ればちょうど良いかもしれない。
兜には同じ材質と思われる鶏冠状の飾りがあり、胴からせり上がった面頬は分厚く、受け口の様に厳つく迫り出している。
額から目にかけて貼られた分厚いバイザーは、鼻へ向けて緩やかに三角を描き、先端は中程から面頬に隠れて見えない。
その為、面頬との間に鋭く睨むような細いスリットを作り出していた。
つるんとした樽の様な胴。首の周りに取り付けられたプレートが、襟を立てて服を着ているようにも見せる。
腕は筒を二つ繋いだような作りだ。その上を肩から二の腕に掛けて二枚のプレートが覆っている。
肩を覆うプレートは、胸とその後ろで留められた一枚と、二の腕の中程でその下から迫り出したもう一枚を使い肘の近くまで覆っている。
肩を持ち上げれば折りたたむように引っ込むのだろうか?
肘から先は、肘に付いた半球から生えている様に見える。
足も筒を二つ繋げ、腕と同じ様な作りだ。
腰から膝の辺りまでを、二枚プレートが重なる様に伸びて覆い、股の外側をカバーしている。
腰の中央に、プレート同士を繋ぐバックルの様に短いプレートが下がっている。脛にはそれぞれ正面を覆う分厚いプレートが一枚。
脛のプレートに僅かな模様がある以外装飾の類いは殆ど無い。兜の鶏冠と、プレートを縁取る金色にバイザーと面頬を縁取る赤ぐらいだ。その他は黒一色だ。
――そして妙なのは、各部位の継ぎ目が見えない事だ。上手く重なっているだけとも思えるが、どうやって繋がっているのだろう?
首を傾げ、身をかがめて指先を観察していると後ろに気配を感じた。
身を起した拍子に――首からお守りが飛び出し鎧へコツンとぶつかった。
やはり妙な音だった。石を叩いたような金属を叩いたような……やや金属よりのように思えた。音の感じからすると、かなり分厚いようだ。
お守りを仕舞い、振り返ると店主が立っていた。腕を組み、まじまじと鎧を眺めていた。
「でけぇだろ?」
「これ、誰か着てたんですか?」
「分らん。俺が店を継いだ時にはもうあった。重すぎて動かす事もできねぇ」
「そうなんですか……」
カルアは残念そうに呟いた。実際に着ていた者が居たのなら、どんな人物だったのか知りたかったのだろう。
「ここは元々曾爺さんがやってた店なんだが、その頃からあったらしい」
そう言って、店主は肩を竦めてみせ、後ろ手に指を差した。
「冷めちまうぜ」
テーブルの上に、既に料理が運ばれていた。
カルアはテーブルに戻り、エールを飲みながら海の幸満載のピラフを頬張った――
――初仕事で得た報酬で食べる食事は格別に旨かった。
だらしなく口元を緩ませ、
(もう一杯飲んじゃおうかなぁ……)
などと考えながら、ふと顔を上げると……周囲の人々が口をぽかんと開きカルアを見ていた。
カウンターから身を乗り出し、店主までもがぽかんと見つめている。
訳が分らずカルアもぽかんと人々を見回した。
だがよく見ると、視線はカルアではない。その後ろへ向いているようだった。
視線を辿り振り向くと、黒い壁があった。いや、これは―――
さっきの全身鎧だ。
あまりの驚きに声も出なかった。目を剥いて後ずさるように椅子からずり落ちた。
そのまま尻で床を擦りながら後ずさった。
黒い全身鎧は一定距離を保つように、のしのしとカルアへ向けて歩いた。
あまりの出来事に固まっていた者達が我に返り、動き始めた。
全身鎧に近い者は飛び上がり、逃げるように後ずさった――
店主がカルアへ駆け寄り、全身鎧を横目で警戒しつつ彼女を庇うように立たせた。
その後ろで、数名の冒険者らしき者達が剣を抜き、杖を構えた。
「デール下がれ!」
身幅の広い両手剣を構え、声を上げた冒険者がカルアと店主を全身鎧から隠すように立った。
腰を抜かしていたカルアが我に返り、少しだが落ち着きを取り戻した。
「大丈夫か?」
デールの声に、カルアはぎこちなく頷いた。
動きを止めた全身鎧と、剣を構えた冒険者の肩越しに対峙し、二人は動くに動けずじっと全身鎧の動向を窺った。
――どの位時が経っただろうか……警戒し、武器を構えていた者達は違和感を感じ始めていた。
黒い全身鎧からはまるで敵意を感じないのだ。普段から魔物やモンスターと対峙している冒険者は特にだ。
カルアの移動が止まると全身鎧も動きを止めた。
ただ付いて行こうとしているだけなのでは? そう感じ始めていた。
カルアと全身鎧の間に割り込んだ冒険者が剣を下ろし、カルアを振り返った。
「マリオネット化したとか……」
カルアは首をぶんぶん振った。
「そんな魔法使えないです!」
言いながら、つい足が一歩前へ出た。
――目前に迫っていた全身鎧が一歩下がった。
「……」その場に居た、カルア以外の全員にそんな吹き出しが付いただろう。
不意にデールがカルアの背を押し、バランスを崩したカルアが数歩前へ進んだ。
すると――、それに合わせる様に全身鎧が数歩下がった。
カルアが距離を置こうと下がると進み、近づくと下ろうとしたり、道を空けようとする……。
武器を構えていた者達はそれを仕舞い、その様子を怪訝な顔で見守った。
「――何なんですか……これ?」
カルアが泣きそうな声でデールへ尋ねる。
店の中を動き回ってみた結果……、全身鎧はやはりカルアへ付いていこうとしているようだった。
カルアにピッタリと付き従い、進行の邪魔になれば脇へ避け、カルアをやり過ごしてその後に続く。
「んんんん~……」
と考え込んでいたデールは、ふと何かを思いついたように手を打った。
「そうだ、こういうのの専門家が居るじゃねぇか!」
「だ、だ、誰ですか!」
カルアが取りすがる様に飛びついて尋ねた。
「暴君とか呼ばれてる、メイフィールドの次期当主ってのが居ただろ?」
「ああ!」
(そうだ! そうだった! メイフィールドと言えばゴーレムとマリオネットに関して右に出る者は無い名門だ!)
慌ただしく店を飛び出したカルアを、全身鎧がずんぐりした巨体からは想像のつかない軽快な動きで追って行った――
「……床たわんでたぞ」
先程の冒険者がぼそりと溢し、
「ああ……」
と、デールが間の抜けた返事を返した。
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