克治、国と魔法について知る(基礎知識編)
仕事から帰ってきたセリアはベッドに横になりながら、この町についてや国について。
俺は「うんうん」と生返事をしながら、横向きになっても重力に負けることなく豊かな膨らみを維持する丘陵の先端をつついていると......。
「いてててて!」
セリアが頬を膨らませながら、こめかみをグリグリしてくるので真面目に聞くことにする。
怒った顔も可愛いな......。
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まずは、俺たちが居る国。
『ワルドハート王国』
建国の父、英雄王ワルドの名前から付けられた国で、現在統治するのはワルド7世陛下だそうだ。
最近、王国最強の騎士が姫に呪いを掛けた邪悪なドラゴンを倒したとかいう噂が、この辺境の町にまで届いてきているらしい。
宗教としては主神ルシアを頂点として多くの神を崇める多神教だそうだ。
太陽神や月の女神に始まり、鍛冶に料理と多くの神が居るそうだ。
ちなみにトイレの神様は居ないそうだが、汚物の神は居るらしい。
邪神だそうだが......。
主神ルシアと対を成す、メリベアという闇の邪神の名前を聞いたときには何故が胸がざわめくような感じを覚えた......。
王国の西を領地とする『ラヴェーラ辺境伯』
その領地の西の外れに、俺たちが住む港町『グレイポート』はあった。
グレイポートを中心とした一帯を治めるのは辺境伯の4男、エステリオ。
変わり者と言う噂で未だに独身らしいが、色々なアイデアを出して町に人を呼び込むことに成功しており、異民族との交流や農業改革なども積極的に行い地域の発展に努めているらしい。
漁業と林業が主産業で、貧しい地方の1都市だったグレイポート。
そんな過去は嘘のように町は活気に満ちていた。
その原動力となっているのが、うちの窓からも微かに見える海に浮かぶ島。
『迷宮島』
この地に人が住む以前からあるという古代の遺跡。
突如海から浮き上がったとも、今よりも大きな島が財宝の重みで沈んとも語られ、人々を引き寄せてきた。
かつては海を隔てた大陸に住む異民族との争いのための海上要塞のしようと、軍隊を送り込んだ歴史もあるが、難攻不落の迷宮はその悉くを退け今も冒険者の挑戦を受け入れているそうだ。
かつてから存在する、この迷宮島が脚光を浴びたのは領主のエステリオが打ち出した、
「迷宮攻略者には白金貨1000枚を与える」
という王国中に広めた大々的な宣伝の効果だったらしい。
セリアに貨幣について訪ねると、
金貨:1万円
銀貨:5千円
鉄貨:1千円
銅貨:100円
といった感じの貨幣感覚に置き換えれた。
ちなみにセリアの給料は一月金貨20枚で家賃が半額、国が負担して月に金貨5枚だそうだ。
そして白金貨は金貨100枚相当になるらしい......。
「見てみたい?」
セリアは可愛らしく口の端を上げながら、そう聞いてきた。
俺が頷くと、セリアは裸のままベッドから飛び出して鞄の中から綺麗な布に包まれた物を取り出す。
裸で身を屈めているので、大事なところが丸見えだ。
(ほんとに恥じらいが......)
「じゃ~ん!」
セリアが笑顔で布を開くと、手のひらほどもある輝くコインがそこにあった。
「こ、これが?」
「うん、白金貨。前に話した任務の報奨金」
「あ、危ないよ。お金を預かってくれるところとかないの?」
「そんなものあるわけないじゃん」
セリアはおかしな事を言うもんだと笑っていた。
この世界には銀行が無いらしい。
そのため商人は警備を雇い、市民も最低限の武装は欠かさないという。
(なかなか物騒な世界だな)
それでもセリアは、この町は治安が良い方だと言う。
この町に来て数日だが、毎日喧嘩を目撃しており刃傷沙汰もあるほどなのだが、それでも治安が良い方だと言われた。
衛兵の任に着いている彼女が言うのだから、きっとそうなのだろう。
「でもどうやって迷宮を制覇したか分かるんだ?」
「さあ? 私も行ったこと無いから分からないや」
そう言いながらセリアは白金貨をしまい、ベッドに戻ってきた。
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迷宮島と呼ばれるグレイポートから沖合いに船で1日程の距離にある島。
そびえる迷宮の壁の外には冒険者目当ての宿泊施設や商人のテントが立ち並んでいる。
迷宮の入り口にはゲートが作られ、入場料を払えば身分を問わず誰でも入れるようになっていた。
その入り口に立つ石碑には古代文字でこう書かれていた。
『迷宮の最奥の扉を開けた者の名を石碑に刻もう』
その下の文は未だ解読できていない......。
『超リアル体験型アトラクション 作:マディウス』
迷宮の前に立つ飯屋で皿を懸命に洗う老人と少女が言い争いをしていた。
「なんで、自分の作った物に入るのに金を払わなけりゃならんのじゃ!」
「いいから、早く洗え。ボケウス」
「ぬわ~! 様を付けんか!」
「......。」
(本当にボケたかな?)
「残った皿をよこせ、......マディウス様」
「う、うむ。すまんの」
「でも、なんでまた此処に来たんだ?」
「ん? 前にも来たのか? ......覚えておらんな」
(いよいよ、まずいかな?)
老人と少女は賑わう迷宮前を尻目に、せっせと皿を洗っていた......。
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セリアは浴槽に俺と一緒に浸かりながら魔法について話をしてきた。
俺は「うんうん」と生返事をしながら、俺の前に背中を向けて座るセリアの胸に手を回し、グニグニと揉んでいた。
「うぐっ!」
俺の腹にセリアの肘が突き刺さる。
身体の変化に伴い上がった防御力など、お構いなしにダメージを与えてきた。
俺は仕方なく胸から手を放して真面目に聞くことにする。
魔法は魔力と呪文によって発動される、そして周囲の環境と個人の適性によって、その効果は大きく変わってくると言う。
海の上では大地の魔法は威力が下がるどころか発動も難しく。
砂漠では水の魔法に同様の事が言えるという。
そして俺が以前やったように呪文を唱えずに魔法を発現させるのは非常に高度な技術だと言われた。
まあ、俺が無詠唱で使える魔法は火と闇だけだったのだが......。
ちなみに呪文は発音が難しく、一つも修得していない。
高度な呪文になるほど呪文は長く難しくなり、消費される魔力も大きくなるそうだ。
そして、この世界で魔法使いを名乗れるほどの使い手は、とても少ないと言う。
「カツも修行すれば凄い魔法使いになれるかもよ。火と闇だけでも、それだけ使えれば凄いんだけどね」
セリアは俺の金属の手と黒い手を触りながらそう言った。
そして周囲の環境に左右されない無属性魔法というのもあるらしい。
「まずは文字を覚えないとな。今のままじゃ本も読めないよ」
「そうだね、頑張って」
セリアは俺に振り向いてそう言うと、軽く口づけをした。
俺は彼女を抱き寄せてもう一度......、長めの口づけをした。
「後ね......」
セリアはまだ話があると言った感じで俺から身体を離す。
「配属された部隊で歓迎会をしてくれるみたいなんだけど......。隊長がカツの事も呼べって」
「え? 俺も?」
「う、うん......、嫌?」
セリアは上目遣いでそう聞いてくる。
俺はそんな瞳に断ることもできず、歓迎会への参加を了承した。