逃避行
異世界に放り出され、気付けばあちこち改造されてしまっていた。
そして偶然の結果、セリアという少女と行動を共にすることになっていた。
「カツ! 川」
セリアはそう言って馬車を川沿いに停める。
馬に水を飲ませ、彼女をさらった男達の死体から剥ぎ取った服や皮鎧を洗っていく。
俺もそれを手伝おうとすると、
「カツはココア」
と言われてしまった。
俺は木の枝を集めて火を起こすと、お湯を沸かし始める。
セリアは洗濯が終わると、ココアを入れる準備をしている俺に。
こっちを見るな。
といった仕草をしてくる。
俺が頷くと、背中の方から布が擦れる音が聞こえセリアが水浴びをしていると思われる音が聞こえてくる。
そして再び川の流れや鳥のさえずりに混じって、布が擦れる音が聞こえてくる。
俺はセリアを見てもいないのに顔が赤くなるのが分かった。
ちょうど出来上がったココアをセリアが濡れた髪を拭きながら受け取ると、
「カツ、水」
と言って川の方を指さした。
今度は俺に水を浴びてこいと言っているのだろう。
俺は頷いて腰を上げる。
俺はセリアの視線を背中に感じながら服を脱いでいく。
(俺には見るなって言ったのに......。ガン見してやればよかった)
なんて思いながら、冷たい川に足を踏み入れた。
水の冷たさに我慢しながら今までの汚れを落としながら右腕、そして左腕に目を向ける。
そして胸の石にも......。
セリアも少し頬を赤くしながら、興味深げに俺を見ていた。
(これはなんなんだろう)
考えたところで答えは出ないだろう。
視線を落とすと川を泳ぐ魚が目に入る......。
何気なく右手を出してみると、自分でも驚く素早さで俺は魚を掴んでいた。
その日は川魚を夕食にして、この川沿いで一晩過ごすことにした。
俺たちは揺れる火を前に言葉を交わしていく。
セリアは俺に一生懸命この世界の言葉を教えてくれた。
俺もそれに答えるように言葉を覚えていった。
それは交代で眠りにつくまで続けられた......。
****
馬車に揺られて進むセリアを横目に、俺は馬の背中に乗っていた。
昨日、馬に乗ったことはないとセリアに伝えると、今朝になってセリアは目を輝かせながら俺を後ろに乗せて馬を走り出させた。
(なんとスパルタな......)
必死でセリアの細い腰にしがみつく。
そして少しの練習だけで、今俺は自分だけで馬に乗っていた。
「どう、どう。いい子だ」
半日も乗れば、馬に親しみも沸いてきて可愛く思えてきている。
そして数日の後、俺たちは小さな町に辿り着いた......。
****
セリアは町に着くと馬を1頭売り、金に替えた。
そして、
「カツ! 来て」
そう俺を呼ぶと宿屋と思われる建物へと入っていく。
俺はまるで中世のヨーロッパを思わせるような町並みに目を奪われながらその後をついていく。
俺は今、セリナをさらった男達が着ていた服を着ている。
セリアもドレスから男達の服に着替えていた。
多少セリアには服が大きく裾を捲っていたが、お陰で町の人々から、おかしな目で見られるような事はなかった。
荷物を宿に運び終えると、セリアは馬車も馬も全て売ってしまった。
少し悲しそうにしていた俺のおでこにセリアは軽く口づけをして慰めてくれた。
なんとなく彼女の状況は分かるので仕方がないのだろうが、今は売られた馬がいい主人に出会えることを祈るばかりだ。
そして、馬や馬車を売った金で新しく服も買い換えた。
セリアはシャツとスカートに身を包み、いかにも町の娘といった服装になり。
俺もセリアの見立てで旅人に見える格好になる。
そして宿に泊まるのかと思っていたら部屋で荷物を纏めると、すぐに町から旅立つのだった。
****
岩場でその日の夜は過ごす事になり、二人で木の枝などの薪を集める。
そして俺は魔法を目にする事になる。
セリナが薪の前に屈んで、何気なく指先から炎を出した。
俺が驚いていると、セリナは逆に今まで俺がどうやって火を付けていたのかを聞いてきた。
俺がライターを見せると、今度はセリアが驚く番だった。
今までは俺が薪に火を付けていて、偶然にもセリアはそれを目にしていなかった。
すぐにポケットにしまわれるライターの存在に気付くこともなく、魔法で火を付けていたのだと思っていたらしい。
俺はもう一度、魔法を見せてもらった。
セリアが小さく呪文を呟くと、指先に火が灯る。
俺も真似をして左手の指先に火が灯るイメージを浮かべてみる。
セリアはそんなすぐには出来ないと言うように笑っていた......。
俺の指先から炎が放たれる......。
あまりの火力に薪は燃えつき、俺とセリアの前髪が少し焦げた。
そしてセリアは驚きで焦げた前髪を放置して硬直していた。
そして、俺は別の考えが頭に浮かぶ。
あの男達を殺したのは俺なんじゃないのか? っと......。