遭難?
「いてててて」
どれほどの時間を寝ていたのだろうか。
俺は痛む体をさすり異変に気づいた、裸なのである。
そして右腕。
「え? なんだこれ?」
俺は肩のあたりから金属になっている腕を回したり振ったりしてみる。
思い通りには動くが完全に金属にしか見えず、継ぎ目もなく滑らかに動くのにその表面は固かった。
そして左腕。
俺が今居るのは、木々に挟まれた山道で周りは暗く、空に輝く星と月で今が夜であることを認識する。
その月明かりでも分かるほど俺の左腕は黒く変色していた。
「これはやばいだろ」
明らかにやばいと思うほどの黒で右手の異常を忘れる程だった。
病気か? やけどか?
だが痛みはないし気分も悪くない。
むしろ調子がいいと思うほどだ。
そして胸に張り付いた不気味に光る宝石。
それをコンコンと叩きながら呟く。
「なんで裸なんだよ、なんなんだよこれは」
俺の声は森に染み込むように消えていく。
返事など返ってはこない。
俺はとりあえず服を着ようと周りを見渡すと、木の根本に置かれた荷物を見つけた。
その荷物に近寄って手を伸ばした時だった。
グルルルゥ
唸り声と共に現れる巨大な獣。
(お! おおかみ?!)
そう思って怯んだ瞬間、その獣は勢いよく飛びかかってきた。
グァオッ!
口を目一杯広げ、鋭い牙をとっさに出した俺の右腕に突き立てる。
そして、飛びかかる勢いに押されるまま俺は地面に、......倒れなかった。
爪を立てられている素肌に痛みは感じるが、噛まれている金属の右腕は全く痛みを感じない。
今も右腕にガチガチと牙を突き立てられている感触はあるのだが痛みは無いのだ。
薄い鉄板なら引き裂きそうな爪も、僅かに食い込むだけで肌に傷を付けるほどではない。
そして大人の男性ほどの重さがありそうな獣に押されても俺はびくともしなかった。
だんだんと犬がじゃれているような感覚にもなってくるが獣の目には俺への敵意がはっきりと見えた。
俺は右腕をブン! と振り、獣を木の幹に向かって投げ飛ばす。
ギャウン!
と獣が吠えて、その痛みから少し動きが止まったところに俺は右拳を握り突き出した。
獣は寸前で身をかわして、拳はそのまま音を立てて木に突き刺さった。
俺は拳を木から引き抜いて、再び獣に向かって構える。
獣は唸り声を上げながら後ずさりして、俺との距離が開くと身を翻して木々の間に消えていった。
俺は急いで服を着ると荷物を背中に担ぐ。
獣の遠吠えを合図に、俺は山道を駆けだした。
俺は息を切らすこともなく、夜が明けるまで山道を駆けていた。