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勢い余って改造しちゃった

 神隠し......。

神域などで人間が忽然と消え失せる現象。



 俺は1人寂しく山を登っていた。

本当は圭子ちゃんと来るはずだったのだが、予定していた日を目前に見事に振られてしまった。


 気合いを入れて新型のデジカメを購入し、一泊のキャンプでは彼女を楽しませようとトランプの手品まで練習してきたと言うのに......。


「......っばっかやろー!」


 山に木霊が悲しく響く......。


(帰って寝よ)


 一泊分のキャンプ用品は用意してきたが、山頂で叫んだ俺はなんだか虚しくなり登ってきた山道を引き返し始めた。


 悲しみと怒りで俺の歩みは早くなっていたらしく、日はまだ高かった。

今から下山すれば、夕方には車を停めた駐車場にたどり着くだろうと俺は思った。


 鬱蒼と木々が茂った山道を下っていくと、虫の声や鳥のさえずりが聞こえなくなり山は霧に覆われ始めた。 


 霧は深く濃くなっていき、今では自分の足下もうっすらとしか見えない。

そして、突然足下にぽっかりと穴が開くと、俺は奈落の底へと落ちていく。


「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ......」


 霧は晴れ、山には虫の声と鳥のさえずりが戻った。


 男の叫び声が微かに響くが、それを聞くものは誰も居なかった。


****

 

 ドスン!


 落下した時間に比べれば、その衝撃は軽かったと言えよう。

だが、その衝撃は男の意識を奪い、全身の骨を砕くには充分な衝撃だった。


 その老人と少女が此処に居合わせたのは、全くの偶然だった。

その偶然は男にとって幸運だったのかもしれない。

ただ、その老人が狂気の魔法使いと呼ばれる存在であったのは不幸だったのかもしれないが......。


「マディネウス。人間が降ってきたぞ」

「様を付けんかサニティ。......ふむ、人が空から降ってくるとは面白いこともあるもんじゃ。放っておけばすぐにでも死にそうじゃの......」

「うん、死にそうな男様だ」

「どこに付けとるんじゃ、儂の名前の後に付けるんじゃ」

「それはイヤ」

「......まあええ、どれ助けてやるかな」


 老人はそう言って手にした杖をブン! と振った。


「これで少しはましになったじゃろ。サニティ、家まで運ぶんじゃ」

「様を付けんか」

「なんと言った? 聞き間違いか?」

「様を付けんかと言った」

「な! いいから運ぶのじゃ!」

「様を付けんか」


 睨む老人に少女はそっぽを向いて様を付けろと繰り返す。

先に折れたのは血を吐いた男にもう一度、杖を振った老人だった。


「サニティさ......様、く! 男を運んで下され」

老人は悔しそうにそう言った。


「しょうがない、運んでやろう」


 少女はそう言うと、倒れた男を軽々と頭上に掲げて歩きだす。

老人はぎりぎりと歯を食いしばりながら、その少女の後ろ姿を睨んでいた。


****


「それにしても、脆い男じゃの」

「それにしても、ボケたジジイじゃの」

「真似するでない! ボケとらん! ......どれ傷を治してやるか」


どこかの地下室で老人は男に向かって両手をかざして呪文を唱える。


「ふむふむ、新しい魔法陣はなかなかの出来じゃな。魔法の効果がいい感じに高まっとるわ」

「うむ、いい感じじゃ。ジジイ様は回復魔法が下手だからな」

「ジジイと呼ぶな!」

「マディネウス、男の様子がおかしいぞ」

「様を付けんか!」


 その時、男の左腕が弾け飛んだ。


「ぬお! いかん!」

「あ~あ、やっちゃった~」

「むむむ、ま......魔神の腕を移植してやろうと思っていたのじゃ。この男、弱そうなのでな」

「あの腕は自分に付けるんじゃなかったのか?」


 少女は老人を訝しげに見つめながらも、その手には魔神の黒い腕が握られていた。

サニティと共に一ヶ月に渡る不眠不休の激闘の末に、なんとか切り落とした魔神の左腕。

闇と炎を自在に操り、僅かな供物で辺境の村を魔物から守護していた心優しき魔神。

切り落とした腕が、ニョキ! っと生えた瞬間に心が折れて、切り落としたその腕を持って逃げ出したのだが......。


「......準備がいいのう」

「うむ、......右もだめになるぞ」

「え?!」


 老人は少女から魔神の腕を受け取ろうとした所で、その言葉に驚いて男の方を振り向いた。


 長い髭がブン! と振られて少女の鼻をくすぐる。


 そして男の右腕も弾け飛んだ。


「くしゅん! 目を離すから......。あと、髭切れジジイ」

「な! 自慢の髭を馬鹿にするとは!」

「で、どうするのじゃ?」

「ぐぬぬぬぬ。......義手を......魔法の義手をつけるんじゃもん」


 少し泣きそうになっている老人に少女は黄金色に輝く金属製の腕を差し出す。


 数ヶ月の探索の末にたどり着いた古の遺跡の最奥に立つ守護者。

金色に輝くボディは特殊な金属で出来ているようで、どのような攻撃にも傷一つ付かず、その形を時には剣に、時には槍に、時には盾にと自在に変えることも出来た。

二人はその姿を見た瞬間に勝ち目無しと諦め、秘密の扉の奥にあったスペアパーツらしき腕を持って古の遺跡を後にした。


「......準備がいいのう」


 老人は悲しげにその腕を受け取ると、先に魔神の左腕を移植して次に魔法の義手を取り付けた。


 男が突然苦しみ出す。


「今度はなんじゃい!」

「魔神の血に男の心臓が耐えられない」

「ええい貧弱めっ! こうなればこっちも意地じゃ! ドラゴンの心臓を持って来るのじゃ!」


 邪悪なドラゴンと王国最強の騎士......。

人里離れた荒野で行われた激しい戦いは周りに人が近づく事を拒んだ。

老人と少女は、相打ちとなって気を失っている騎士を横目に倒れたドラゴンから今なお動き続ける心臓を抜き取った。


「大きすぎないかの?」

「そこは腕で何とかしちゃるわい!」

「頑張れジジイ!」

「頑張るジジイ!」


 悪戦苦闘する老人を少女も手際よくサポートして、ドラゴンの心臓はなんとか男の胸に収まった。


「ぜえぜえ......。どうじゃ」

「上手く行った。でも......」

「え~! まだ、問題あるの~?」

老人は天を仰いで吐くように言った。


「うん、この男。......魔力が無い」

「え? そんな人いるの?」

老人は少し虚ろな目でそう聞いた。


「全く無い」

「......本当じゃのう」

「これじゃ魔神の腕も魔法の義手も役立たず。もう立たないジジイと一緒」

「まだ現役じゃい! むむむむむ。......星を、メリベアの星を持ってくるのじゃ」

「ほい」


 少女はすっと、夜の闇のような色に輝き、ヒトデの足を多くしたような不気味な形の宝石を差し出した。

 世界創世にも関わっているという邪神メリベア。

その邪神を崇める秘密の集団から、命辛々盗んだ秘宝中の秘宝。

この中には無限の魔力が込められているという。

そして、これ一個で小国が買えるほどの価値があるとも言われている。


「用意がいいのう」


 老人は泣いていた。

 もう老人に出せる物は無い。


 ドラゴンの心臓を移植した傷跡を隠すようにメリベアの星は男の胸にはめ込まれた。

老人は目の前の、新たな力を得て眠り続ける男を眺める。


 すでに魔神の腕や魔法の義手はピクピクと動き、ドラゴンの心臓は力強く鼓動している。

メリベアの星もその輝きを強めていた。

そして、それらは男を浸食して作り替え始めていた。


「サニティ、この男はもう平気じゃろう。見つけた場所に置きに行くとしよう」

 老人は男に与えた物にも男自身にも興味が無くなったようで、少女にそう声を掛けると、男を見つけた置き去りにして立ち去って行ってしまった......。


「様を付けるのじゃ」


 老人は杖で少女の頭をコツンと叩いた。

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