第六話 師匠と調合と幼馴染
遅れました~。
「ただいま~」
森から村へと戻った俺と父さんは獲った獲物をおきに家へと戻った。
「おかえりなさい、あなた、ウィル。
その二つが今日の獲物?」
「ただいま、リズ。
あぁ、どちらもウィルがしとめたんだ。
ウィルもなかなかの腕前になってきたぞ」
「あら、そうなの?
すごいわね、ウィル。
やったじゃない」
父さんの言葉に反応した母さんがよしよしと頭をなで、俺を褒めてくる。
もし俺が心も子供だったらとても嬉しかったんだろうけど、俺は大人な心を持っている。
こんな風になでられても嬉しくはなく恥ずかしいだけだぞ、えへへ。
ほ、本当だよ?
ともあれ、なでられている間にいろいろと話が進んでいったようでどうやら、獲った猪のおすそ分けをすることになったようだ。
というわけで、俺は師匠のところに薬草を持っていくついでに猪の肉を少し持っていくことになった。
少しとは言っても結構な大きさなんだけどな。
今現在の俺の格好は背中に薬草なんかをつめたリュックサックを背負い、両手で切り分けられた猪の肉を持っているという状況だ。
うう~、もうちょっと筋力がほしいよ~、重たいよ~。
くそ~、やっぱり背が伸びないことを理由に筋トレをサボるべきではなかったか。
もう少しやっぱり筋肉をつけよう。
そんなことを決意しつつ師匠の家(小屋といったほうがいいのかな?)へと向かっていくのであった。
村の中を猪を持った俺はゆっくりと歩く。
持っている猪の重さに歩みが遅くなっているのだ。
それにしても、父さんはどうしてあんなに重そうな猪を持っていけるのだろうか?
今日獲った猪は間違いなく百キロは超しているような大物だ。
さすがに二百キロには到達していないとは思うものの、それでも普通の人間が、いくら大人とはいえ持てるような重さではないだろう。
それをかなり長い距離、しかも山道で背負って歩いてくるというのは個人的におかしいと思う。
まぁ、あくまで前世基準だから、本当におかしいのかどうかは分からないんだけどな。
もしかしたらこの世界では重力が本来よりも小さかったりしているのかもしれないし、人の体を構成しているのがタンパク質じゃない可能性だって無きにしも非ずだ。
まぁ、今のところ俺に確かめるすべはないので保留としておこう。
そんなことを考えつつ、村の様子を眺めながら、俺は師匠の家へと向かうのであった。
コンコン。
「師匠~、師匠~、いる~?」
師匠の家のドアを叩く。
もちろん猪は今現在横に下ろしてある。
ちなみに、師匠がいるのは村の少し外れのほう、森からほど近い場所にある家であった。
いろいろと材料調達をするのに都合がいいんだそうだ。
まぁ、昔は中央に住んでいたんだけどな。
師匠はちょっぴり怪しげな雰囲気を漂わせているその小屋の一室でなにかを煮込んでいるようで、窓から湯気がもれ出ている。
そんな小屋の扉を俺が叩くと中からトタトタと少し早足気味にこちらへ向かってくる音がする。
ガチャリ。
鍵が外れ、扉が開くとともに、俺と大体同じぐらいの身長の金色の髪をした少女が扉の影からひょっこりとこちらに顔を出した。
「あら、いらっしゃい」
「おっ、クレアか」
この少女の名前はクレア。
俺の幼馴染で、俺が記憶を取り戻したときにはすでに仲がよかったようだ。
俺よりも少しだけ年下で(大体十日ほどだ)、感覚としては妹みたいな感じだ。
ちなみに、クレアはこの村のトップであるアリンガム家の子どもであり、俺の家はその従士であったため、年も近いことから、小さい頃から一緒に育てられたのだそうだ。
「最近よくここにいるんだね」
「なによ、いちゃだめなの?」
「ん?
そんなことはないよ。
ただ、いつもここで何をしてるのかな~って思って。
クレアって調合とかあんまり興味ないでしょ?」
「うっ……。
別にいいじゃない。
私が好きでここにいるんだし、それに、ここはおばあちゃんの家なんだから」
そう、俺の師匠とはクレアの祖母のコレットさんなのである。
始めのうちはコレットさんが薬草なんかを摘みに行っているのをクレアとソフィーとともに追いかけていただけなのであったが、しばらくしてから、師匠が調合も行っているということを知り、俺もやってみたいなぁと思い、お願いをして教えてもらうことにしたのである。
ソフィーは調合に興味があったらしく、俺と一緒に師匠に教えてもらうことになったのだが、クレアのほうは特に興味もなさそうなのであるが、俺が来るときは殆どの確率でここにいる。
それで、大体俺の近くで俺が調合している様子を眺めているのだ。
それで面白いのかな~と思わなくもないのできいてみたのだが、今の返答からしてクレアは楽しそうなのでそれならばそれでいいのであろう。
それにしても、最近のクレアは、最近といっても一年ほど前ぐらいからなんだが、若干反抗期気味なのである。
よく俺に対して噛み付いてくるというかなんというかなのであるが、大人な心を持つ俺は優しく受け流している。
なにせ、俺も一度は経験していることだからな。
反抗期って言うのは特に理由もないけれども、反抗したくなるもんなんだよ。
大人たる俺から見れば可愛いもんだね。
同年代であったら喧嘩の原因にもなりかねなさそうだけどな。
それになんだかんだいって撫でたりすればブツブツ言いつつもおとなしくなるしな。
とまぁ、そんなこんなで少し話をしていると、師匠が部屋から出てきた。
「おや、ウィル。
今日は森に行ってきたのかい?」
リュックサックを持った俺を見て師匠がそう聞いてくる。
「はい、師匠。
あっ、これ森の中で見つけたのでとってきました」
「おっ、いいもの拾ってくるじゃないか」
俺が渡した薬草を見て嬉しそうににやりと笑った師匠は俺から薬草を貰うと中に招き入れてくれた。
「こんにちは、ウィル。
はい、これ」
部屋へと入り、その真ん中においてある机に座ると、黒い髪の少女、ソフィーがお茶をいれてくれた。
ソフィーもクレアと同じく、俺の幼馴染の一人で、こっちは従士の家の一つであるペリシエ家の子どもで、やはり俺とほぼ同年代(こっちは二十日後ぐらい)で、クレアよりも年下ながらかなりしっかりとしたいい子である。
料理だったりも得意で、俺と一緒に調合なんかも習っているのだが正直に言って俺よりも才能がありそうである。
まぁ、今のところは俺のほうがまだまだ上なんだけどな。
さすがに大人の心を持った俺が子どもに負けちゃぁ世話ないでしょ。
えっ、大人の心を持っているくせに子どもと競い合うなんて子どもっぽいんじゃないかって?
そりゃぁ、俺は子どもだからな、しょうがないだろう。
えっ、なんか矛盾してないかって?
……。
おっと、猪の肉を外に置きっぱなしにしちゃったぜ。
とりにいかなくちゃな。
「ありがと。
そうだ、肉を持ってきたんだった。
ちょっと待ってて」
お礼を言ってから一度家の外に出て肉を持って戻ってくる。
「これ、猪の肉なんだよ。
俺がしとめたんだ」
肉を持ってソフィーに話しかける。
「すご~い、ウィルがしとめたんだ~。
どうやってしとめたの」
「ふふふ、それはね……」
そんな感じでソフィーと話していく。
ソフィーは基本的にいい子で純粋なので、なにかと俺をよく褒めてくれるのだ。
聞き上手ってやつだな。
まぁ、ソフィーばっかり褒めているがクレアもいい子なんだよ?
最近は少し反抗期なだけで数年前までは超優しいいい子だったんだから。
ちなみにソフィーよ、もっと褒めてくれてもいいんだぞ?
俺は褒められると伸びる子だからな。
いろいろと話をした後で師匠のほうに向き直り話しかける。
「今日は何を教えてくれるんですか?」
「そうだねぇ、まぁ今はとりあえず攪拌の仕方をマスターするのが先だから攪拌だね。
ついてきな」
そういって俺は奥の部屋へと連れて行かれ、夕方まで攪拌作業の練習をやらされることになったのであった。
腕が、腕が~。
主人公が若干ずれているだけで、主人公の持っている肉の大きさも実はかなりの物です。
少なくとも十歳の子どもに持たせるようなものではないことは確かだね。
次回、二人の祝福、お楽しみに~