第三話 声の主
「あらあら、おいたはいけませんよ、アル。
人をむやみに襲うのは感心できませんね」
水の壁で守られた俺の耳に真後ろから声が聞こえる。
その声はなぜかは分からないが俺を安心させるような声色であった。
待てよ、真後ろだと?
俺は今、湖のふち、若干足元に水のかかる位置にいるはずだ。
足元のひんやりとした感覚からもそれは確かなはず。
にもかかわらず今の声は俺の後ろから聞こえてきた。
ならば、相手も水の中にいるはずであり、それならば水の中を歩く際にぴちゃぴちゃといった様な音がきこえるはずだ。
がしかし、そのような音は一切聞こえなかった。
(何者だ?)
後ろを向きたいが、今危険なのは前側だ。
恐らくさっきの声の主は俺を傷つけようという意思はないだろう。
なんとなくではあるが、声の感じが俺にそう思わせた。
しかし、その一方で声の主は恐らくアルラウネの知り合いであるということもセリフから予想できる。
加えて、むやみにと言っていることから、すべての人類の味方ということもないのであろう。
そのことから俺の理性は後ろにいる声の主も警戒すべきだと告げているのだが、声の主が敵であった場合、俺は詰みだ。
一応確認だけはしておくかと思い、後ろを振り向こうとした瞬間、新たな敵影を俺の眼が捉えた。
「野犬が五十頭、だと!!」
俺の目に移ったのは正直に言って絶望的な数。
先ほど襲ってきた物と同じであれば、俺の力では三匹を相手にする程度が限界であろう。
加えて、森の入り口付近には未だ眠ったままの俺の父親と従士たちがいる。
恐らく、こちら側に来るのであれば、何匹かは父さんたちを狙ってしまうだろう。
どうする、どうすればいい。
「あらあら。
私の勧告が聞こえていないのですか?
それは少々問題かも知れませんね?」
なぜか声色からにっこりと笑っている顔が想像できるような声で彼女が告げる。
がしかし、やはり返答はない。
その間にも野犬と俺たちの距離はどんどんと狭まってくる。
先ほどの蔦をはじいたこの水の壁は俺の目の前に残っている。
恐らくは俺の矢すらをもはじいてしまうであろう。
せめてこの壁だけでも解除してもらおうそう思い、今度こそ振り向こうとした瞬間、更に声が発せられる。
「「「陽滅」」」
若干エコーがかった声が聞こえる。
その声が聞こえた瞬間、本能的な恐怖が俺を襲った。
逃げ出そうという気持ちになるも、その時には一切の身動きをとることができなくなってしまう。
身体全体が硬直し、指一本動かすことができない。
がしかし、それは相手の野犬も同じのようで、こちらに対して姿を見せる気配はない。
身体の硬直のせいか、喉の渇きもひどく、ちくちくとした痛みが断続的に俺を襲う。
この痛みのままに俺の命は尽きてしまうのではないか、そんなことさえ思わせる痛みであった。
その痛みがどれほど続いたであろうか、急にその痛みが治まり、身体を自由に動かすことができるようになった。
しかし、俺はひざに全く力が入らず、そのままひざを地面についてしまう。
両手を地面につき、荒い息をつく俺。
頭の方向、つまり、立っているときには前方の位置で、ドサッという音がする。
そちらに少しだけ目を向けると、なにやら、少女が一人倒れているようである。
(あ、あれがアルラウネか?)
そう思う俺をよそに、俺の後ろから、声の主がそちらの方向へと向かっていく。
先ほどの影響をまだ受けているためか、未だに顔を上げることはできないものの目の端に映った声の主の姿は髪の長い女性のようであった。
彼女は倒れていた少女を抱え上げると、なにかを二、三言つぶやき、そのまま少女と共に姿を消してしまう。
それと同時に俺の目の前にあった水の壁もパシャリと崩れそこには何も残ってはいない。
先ほどいた多数の野犬も一匹残らずこの場所からはいなくなってしまっているようで、辺りにある程度大きな動物の影はない。
ほっと一息つきたいところではあるが、その前に父さんたちのことが心配だ。
そう思い、俺は急いで父さんのところへとかけていく。
その途中、わずかな音と共に、体に残っていた倦怠感は完全になくなる。
それと同時に、父さんのほうも意識を取り戻したようで、起き上がってくるのが見える。
「父さん、大丈夫?」
「あ、あぁ、ウィルか。
一体何があったんだ?」
「よく分からない」
「そ、そうか
まぁ、仕方ないだろう。
全員無事か?」
「はい、俺は大丈夫ッス」
「俺も問題はありません」
「大丈夫です」
「そうか、全員無事でよかった。
本当ならば直ぐにでも帰ったほうがいいんだが、ここまで来たんだ。
水汲みをやってしまうぞ。
急げ」
「「「うっす」」」
こうして、泉での水汲みを終えた俺たちは村へと戻っていくのであった。
なんというか、この話だけを見るとすごい消化不良ですよね。
何一つとして明かされていないし。
若干いらっとくる人もいるかもです。
ごめんなさい。
反省はしていません。
追記:因みに、次回この話のカバー回ですのでお楽しみに




