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一章1-1 サイド:結城


 俺の朝は、早い。

 衣食住があった水守家での生活の時は、朝の六時に起きてジョギングを始める。スポーツで成績を残すための体力作り。その習慣は、悪の幹部候補生となった今では、体力作りと新しい体の慣らしの意味も込めて行われている。


 水色の髪を見られたくないために、小さいポニーテイルに纏めて、その上から野球帽を被る。服装は、自分の体に合ったスパッツとジャージ。最初は、スパッツの密着感と男だった頃の重要なポジションの空席も次第に慣れてしまった。


「はっ、はっ、はっ……おはようございます」

「はい、おはよう」


 真黒人材派遣会社の社員寮から地域の地理を覚えるために、大回りで走る俺は、家の前で掃除している老人たちに挨拶を交わす。

 俺の言葉に、最初は珍しそうに眼を丸めた人々も数日続けば、朝の日常の光景となったのか、目を細めて、嬉しそうに挨拶を返してくれる。


 思えば、芳野の老夫婦と一緒に住んでいた時は、老夫婦の知り合いは可愛がってくれてたな。二人が死んですぐに居場所のない水守の家に行ったから今更ながらに挨拶をしていなかった気がする。


 過去には、囚われたくないのだが、やり残したことや後悔は意外と多いようだ。だからと言ってあのままという訳にもいかない。

 俺は、感慨に耽りながら、中間地点の公園へと足を向けていく。

 途中の中間地点として定めた公園の水道で随分補給して、また走り出す。


 ドクター曰く、異能者としての身体能力は、基礎的な能力と異能としての補強レベルで変わるらしい。補強レベルが高ければ、基礎的な身体能力は低くても戦えるが、日々の異能としての身体補強を行わないランニングのようなトレーニングも能力の底上げになるんだとそうだ。

 今の身体能力は、新しく作り出した身体であるために、以前よりも調子が良い。フルマラソンで十五歳としては、良いタイムを出せそう。というくらいだが、女子の体力では、非常に高い方だ。


「はぁ、はぁ……少し休憩」


 芝生の上に座り込み、公園の風景を眺める。頭が汗で蒸れているために、人が見ていない事を確認して、帽子を外す。寮に帰ったら、シャワーを借りて朝食の手伝いをしないと。

 寮の食事は、寮母である女性戦闘員35号さんを中心に持ち回りで行われる。それは、俺も例外では無く、今日はその日。男だった時は、料理など食べれれば良いと言った感じだが、組織の人間と共に囲む食事に自然と笑みが零れる。


「さて、続きの走りを続けるかな」


 帽子をかぶり直して、再び立ち上がる。入れ違いの様に深くフードを被った少年とすれ違う。その時は特に何も思わなかったために、そのまま走り、寮へと戻った。


 シャワーでは、自分の体にも見慣れ、特別な思いなど抱く事も無い。ただ、毎朝の体温測定の義務や体調報告などを六華さんを中心にやって貰ったり。

 そして、調理場。



「おはようございます。朝食の準備に来ました」

「早いわね。じゃあ、レタスを洗ってちぎって頂戴。四十人分出来れば良いから」


 寮に入っている人は、四十人。その他は、アパート通いだったり、自宅通いだったりする。

 俺は、その指示を受けて、レタスをお皿に盛り分ける。他に来た朝食係りの人と一緒に準備する姿は、まるでライン工場のように生野菜や大鍋で一度に作ったスープをトレーに乗せていく。


「おはよう、結城ちゃん。今日も可愛いね」

「おはようございます。はい、朝食です」

「いやー、今日も元気に戦闘員稼業が出来るよ」


 そして、俺は、朝食が始まる時間に朝食のトレーを渡す係に配置換えされる。

 どの戦闘員さんたちも俺に挨拶をして、優しい笑みを浮かべるので、それに同じように言葉と笑みを返す。

 皆、朝食が待ち遠しかったようで、受け取る姿に悪の戦闘員とは思えない和みを感じる。


 俺が、この朝食を直接渡す係に配置された理由は、分からなかった。だが、俺の予想だと新参者を組織に馴染ませて、戦闘員の名前や顔を覚えさせる事が目的だと思う。まだ全員は覚えていないが、その内、朝の会話で相手の戦闘員番号を正確に当てられるようになることが、幹部の重要なスキルの一つだと思う。


「おー、結城くん。おはよう。どう? 昨日までの研修は?」

「ドクター、おはようございます。戦闘部署は、今日までです。まぁ、あまり自信は有りませんが……」

「だよねー。前までの結城くんなら戦闘部署に優先的に回そうと思うんだけど、今は、裏方の方に適性があるかもな。最終的には、俺の所属する化学部署に所属するルートがあるけど、若いうちは若いなりの適性もあるし……まぁ、見て行こうか」

「はい。ドクター」


 朝から真面目な話をドクターとした俺。それだけ期待されていると思い、今日の研修にも一層の気合を入れる。

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