序1-5 サイド:正義2
「よぉ、具合はどうだ?」
火車は、自分の傷を見て貰うために医務室へと向かった。そこには、同じメンバーで俺より大きな傷を負った金剛と灰影の二人が既に着替えを済ませていた。
彼らに気軽に声を掛けると、それに対して、軽い声を返してくれる。
「腕の良い治癒系の異能者が居るからな。傷跡すら残らねぇ」
「けど、流れた血は、どうしても足りないから。お肉食べたい」
「分かったよ。今日は、俺の奢りで焼肉食べ放題だ」
「よしっ!」「やったね」
二人は、元気な声を上げるが、その前に俺の治療が先だ。
医務室の筆頭治療師である水仙先生に頼む。
「おーおー。今回は、頭か。見てやるよ」
メガネを掛けた気だるげな女性。髪の毛は、群青色をしている。
俺の包帯を取り外しながら、翳した手からひんやりと冷たい物が流れるのを感じ、そのまま流されるまま、受け止める。
そうして、開いた傷口がじくじくと音を立てて塞がり始め、数分もしない内に傷は感知した。
「はい。お終い。今日は一段と激しい戦闘だったようじゃないか」
「ええ、逃げられました」
悔しそうに呟くが、先生は俺に向かって、軽く拳骨をして来る。別に痛くは無いのだが、いきなりで面を喰らう。
「馬鹿野郎。生きてれば儲けもんだ。死んだら、何も残らねぇんだ。私の能力だって死者を蘇らすことはできない。だから、死ぬな。死ななきゃ、何度でも戦場に立たせてやる」
そう言って真剣な目で見つめる先生に、火車は気遣いを感じ、感謝の言葉と共に、待っている二人を連れて、外に出る。
ヒーロー協会を出た俺たちは、真っ直ぐに行きつけの焼肉店へと足を運ぶ。
その間に街頭テレビが俺たちの今日の活躍を放映している。火車は、これの失敗を何度も見て、苦々しく思う。
ヒーローは、絶対に人を守らないとならない。その熱い思いが燻る。
火車という男は、比較的幸運な立場に生まれたと言える。
両親は健在であり、異能者に対しての正しい理解を持ち、正しい力の使い方と真っ直ぐな心を持って大人になった。
周囲の人間は、彼の才覚を認め、彼の成長を助けた。世界に存在する害悪を見えない様に覆い隠して育てた。
容姿、実力、人間性。様々な要素で現在の熱血のヒーローの代表のような存在となった。
一般人は知らない。ヒーローは見ない。協会は認めない。
世界の裏側――悪という存在を。