序1-3 サイド:悪
――真黒人材派遣会社。
これが、表の世での組織の名前。真の姿は裏世界に数多に存在する悪の秘密結社の一つなのだ。
この人材派遣会社に偽装された悪の秘密結社の日常は、常に激戦である。
世に恨み辛みを持ち、不当差別された者たちを集め、組織の構成員として教育を施す。
「不景気で、会社から有能だから次の雇用先が見つかるだろうとリストラされた社会人を、再雇用して社員教育するんですね」
悪の構成員として、何時如何なる場面でも対応できる能力を強引に植え付ける。また、適性によっては、戦闘員向けの超人カリキュラムを実行。
「社員への資格制度もばっちり。更に一部では、悪の戦闘員向けの肉体改造カリキュラムと称した土木事業への派遣もあるんですね」
日本社会の戦闘員といえる消費しない有給休暇の社員や社畜などと呼ばれるワーカー・ホリックどもを根絶するために、悪の組織では、福利厚生や有給休暇。更に、育児休暇などを強制的に与えている。
「つまり、悪の秘密結社は、超優良企業ってことですか」
この悪の秘密結社は、現在近隣に存在する同種会社との潰し合いにより、この地域の派遣事業を掌握したのだ!
「あー、この資料の同種の会社って超絶ブラックで労働環境劣悪だから労働組合が潰した所だ。つまり、自滅だ」
そして、地域を制圧するために休日の地域活動へ強制介入し、我が組織が地域を活動し易い様に手を加えていくのだ!
「休日は、社員総出で地域のボランディア活動で町の清掃や老人宅への訪問して地域住民から支持を得てるんですか」
以上、悪の秘密結社のドクターと呼ばれる人物による組織の実態の説明だ。
俺は、貰った資料と話している内容を一つ一つ直訳していった。
「ちょっと、もう少し恐れ戦いて欲しいんですけど!」
「はぁ、すみません。なんか、俺の悪の秘密結社のイメージを違って」
「まぁ、良いけどね。結城くんは、幹部候補生としてこの会社でアルバイトしていくんだから」
俺――芳野・結城――は、今日からこの悪の秘密結社でアルバイトをすることになった。
何故か、と言われると俺自身に様々な事情があるが、簡単に言うと、自暴自棄になっており、正義など糞くらえ、な状態でスカウトされたのだ。
「結城くんは、異能持ちだから、即戦力だね!」
ニコニコと棒付きのキャンディーを咥えて、白衣に両手を突っ込むドクター。
彼の髪は、灰色。異能者は、異能と共に髪の毛が染まり、染め直しても、異能の色に戻ってしまう。
そういう俺も髪の毛は変化している。
根本はまだ半分ほど黒いが先っぽの方は、澄んだ銀のような光沢の水色。
見方によれば、一部脱色した不良っぽい感じなために、周囲の冷ややかな反応が余計に自棄を加速させた。
「まだ、半人前です。ですから期待には添えませんよ」
「良いんだよ。今日から悪の社員向けの寮に入って、戦闘員向けのプログラムをこなして、表業務のバイトすれば。最悪、ただの戦闘員として拾ってやるから」
カラカラと笑うドクター。
だが、その顔もすぐに真面目を色を帯びる。
「結城くんの異能は、創造系の常時発動能力だ。しかも俺の見たところ、放置するには危険なレベルの強さだ。創造系は、異能者によって大きく左右される。君の深層心理を映し出す」
「はい」
「それが能力の望む、望まないに関わらず映し出す。君が望まない形で自身の異能と触れるだろう。そういう覚悟もないままに放置は、正義と悪両方の陣営としては見過ごせない」
「……はい」
俺の能力は創造系の常時発動能力という能力だ。自分の意志ではどうしようもない。感情に左右して、物を勝手に作り出してしまう。
最初に発現したのは、五歳の頃――溺れそうになった時、必死に助けを求めた。その結果現れたのが、当時俺の好きだったヒーローの姿をした水の化身。
それから髪の毛先が少しづつ色に侵食される。
今は、髪の毛の半分が水色に染まる。
異能が完全に目覚めれば、異能の名を得る。ただ誰かに教えられるわけでもなく、得るのだ。
「さぁ、同じ創造系で任意発動な異能者であるドクターの異能レッスンだ。まぁ、君には俺の後継者になって貰いたいのが本音かな」
「えっ? 今なんて、無茶ブリを」
「さぁ、、バイト研修にレッツゴー。あっ、ついでに裏切るようなら、殺すから」
俺を脇に抱える中年のおっさんが俺の耳元で小さく囁く。
「あんた! それでも人間か! ここは優良企業だろ!」
「はははっ、悪の人間でマッドなドクター。悪の秘密結社にそんな理想は抱くなよ!」
騙されたかもしれない。そんな思いを抱き、俺は連行される。
不定期更新。気分が乗ったら書き進める