序1-1
「化け物発見、ポジションに就け!」
GYAAAAAAAAAAAAAAAA――!!
化け物は、短い足と胴長の身体をした恐竜と言った感じだ。太い尻尾で身体を支えている姿はは、テーマパークの着ぐるみのようなシルエットだろう。
しかし、並ぶ歯は鋭利で、凶暴、そして身体は優に五メートルを超え、両手も(・)恐竜の頭になっている化け物は、聳え立つビルの上に立つ人物へと咆哮を上げている。
【三つ首持つ恐竜】と対峙する者たちは、六人。それぞれが自らの色のボディスーツにヘルメット。若干の統一感に欠けるが、大凡チームだということが分かる。
手には各々の武器が構えられ、今すぐにでも飛びかかれそうな雰囲気が両者から漂う。
睨みあう両者は、僅かな沈黙を経て、専制するのは【三つ首】だった。
近くに置かれた自動車をその強靭な顎の持つ右手で掴み、ビルへとぶん投げた。
軽く、自動車を投げる場合、到底ありえない速度でビル屋上へと突き刺さるが、既に屋上の六人は、居ない。
【三つ首】があたりを探すが、彼らは、見事な連携で赤い鱗に覆われた身体に傷を与えていく。
炎の剣が、氷の銃弾が、風の魔法が、不壊の金属ドリルが、幾重にも増える棍棒が、影から出る槍が。
傷をつけられ続け、苛立つ【三つ首】は、再び咆哮を上げると、大量の涎の垂れる両手を地面へと突き刺し、アスファルトの地面を引き剥がし、投げる。
回転を伴ったアスファルト片を捌く為に、何人かが、足を止め、それを迎え撃つ。
小さくなり飛び散るアスファルトが、周囲のビルや建物に突き刺さる。
しかし、止まらない【三つ首】の攻撃。
近くの建物の柱を掴み、引きちぎり、投げる。
地面の土を食べる右手と食べた土を弾丸にして発射する左手。
中央の頭は、時折恐竜ではありえない炎を吐き、破壊によってガス管から漏れ出たガスに引火し、大爆発を起す。
六人の人間は、そんな激しい攻防でボディースーツが煤け、ヘルメットが罅割れ、血が垂れる中で、右の頭を破壊し、敵を追い込む。
一度傾いた戦況は、一気に進む。
各頭を潰し、尻尾を切り落とし、動けなくなった恐竜の頭を最後に六人の必殺技によって
、完全に殺し尽くす。
最後の最後まで徹底的に敵を叩き潰すプロフェッショナル。
しかし、その瞬間を邪魔をする者たちも居る。
「き、貴様ら!」
怒気を孕んだ声は六人の誰かだろう。
突如現れた統一感のある黒のボディースーツと気の抜けるマスクで顔を隠す集団に必殺技の邪魔をされる。
「あんたら、回収の準備! 急ぎな!」
リーダーと思われる女性は、露出度の高めた黒の服装に、戦闘では不向きなヒールの高い靴。そして、黒の鋭角なヘルメットと黒尽くしな集団。
集団は二手に別れ、彩り豊かな六人を押さえ込む者たちと【三つ首】を回収する者たち。
戦闘で極限まで高めた集中力さえ、一瞬で脱力させる顔の戦闘員なのだが、甘く見たために幾度と無く手痛いしっぺ返しを受けてきた。
「何故、我々の邪魔をする!――悪っ!」
「ふん。そんなのに理由など必要か!?――正義の!」
互いが互いを憎しみ合うような叫びを上げ、正義の赤と悪の黒。
正義の赤が全力を出して、闇を纏う悪へと切りかかるが。それを真っ向から切り返してくる。
赤の炎が吹き出し、黒の闇が炎を喰らう。
全力を出す赤だが、先ほどまでの【三つ首】との戦いが響いたのか、悪に押し負けてしまう。
「姐さん! 撤収準備できました!」
「でかした! 引くよ!」
その短いやり取りだけで撤収を始める悪の人々。それを追撃しようとする正義だが、皆一様に戦闘員の攻撃で多少のダメージを追っている。
こんな状態で深追いをすれば、自分たちは負ける。と判断したリーダーの赤は、仲間を押し留める。
目の前で弱りきった【三つ首】を連れ去る黒尽くめの集団。
足元の闇が彼らを覆い隠し、次第に萎む闇。その後には誰もいない。
卑怯と言う言葉が赤の中に過り、しかしその卑怯に負けた事実に気が付く。
「くそっ! くそぉぉぉぉぉぉっ!」
誰もいなくなった破壊された町並み。そこで敗北の悔しさを赤の声だけが虚しく響く。
今から三十年ほど前。
ある科学者が、とある論文を発表した。
論文のタイトルは――九点五次元(9point Fifth Dimension)理論。略して9FD理論と名づけられた。
これは、とある空間の頂点八つのポイントとそれとは別の九番目の座標ポイントへの転移理論。を応用し、指定ポイントを異次元とした場合の仮説と実験結果に一部の学者から注目を集めた。
だが、それは不幸を呼ぶ原因でしかなかった。と後の世は語るだろう。
人類が宇宙を目指す上で注意しなければいけない物はなんだろうか。スペースデブリか、それとも広大すぎる宇宙を漂流する覚悟か、それとも未開の惑星を地球化するための技術と時間だろうか。
いや違う。人類以上に高度な科学力を有した知的生命体の存在との接触であると。
高度な知的生命体に言葉を交わすことなく、一方的に蹂躙される可能性があるからだ。
つまり【9FD理論】の実験は、異次元に存在する生命体に、人類が存在する場所を教えてしまったのだ。
彼ら――異次元からの侵略者にして、言葉交わすことの出来ない敵――【外敵】と名づけ、人類は抗った。
抵抗する人類だが【外敵】には、如何なる重火器も効果を表さず、蹂躙し尽くすと、次元を引き裂き、門のような物を生み出し帰って行く。
世界が核兵器による焦土作戦を実施しようとする直前、彼らは現れた。
炎を、水を、空気を、金属を操り。
気力を、生命力を、声を、剣戟を飛ばし。
物を、人を、心を、体を癒し。
異能に目覚めた者たちの能力だけが【外敵】へと有効打となった。
異能は、人の考えうる形を取り、その発現は発達途上の子どもたちのみが限定であった。
子どもだけが夢見ることの出来る能力。
子どもは心の底から信じる存在はまるで、そう――【正義の味方】たちのように。
正義の味方になる力を持った子どもたちは、人々を助けるためにその力を振りまく。
しかし、人は愚かで、非情で。理外の存在を、科学で証明できない存在を排除する。
町が【外敵】に壊され、幼い少年少女に助けられたのに、残った少年たちに心無い言葉や物を投げる。
異能といえども子どもたちだ。そんな子どもたちを囲い込もうと動く大人。利権、金、象徴。様々な少年たちが食い物にされる。
英雄譚は、悲劇に終わることが多いように、正義の味方として振舞った少年らもまた自らの理想と現実の差に磨り潰されていく。
そんな先人たちを見てもなお、人類を守ろうとする者達は、自らを、そして後輩を守るために、異能者の異能者による互助組織――【ヒーロー協会】を設立した。
磨り潰された先人は、組織を運営に従事し、
現役の戦士は、次元より現れる【外敵】を打ち倒すことで広告塔となり、
後輩は、そんな先人を見て、戦いの場に胸を焦がし、日々鍛錬に励む。
そうして、三十年の間に居場所を作り、異能者のセーフティーネットは完成される一方で、取りこぼされる者たちも存在する。
異能だからと捨てる親が。
【外敵】によって全てを奪われたにも関わらず、手を差し伸べない地域が。
甘い顔して、一度の失敗で手の平を返す社会が。
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い……そんな怨嗟を持って集まった者たちが互いの傷を舐め合い、復讐を誓う。
それは、特撮の世界に存在する悪役――【悪の秘密結社】のように。
取り残された者たちを集め、うち捨てられた者たちを拾い、嘆き悲しむ者たちに手を差し伸べる。
使えるものは、貴賎問わず使う。
利用できるものは、敵味方問わず使う。
こうして世界は、【正義の味方】と【悪役】と【外敵】の三つ巴の戦いを繰り広げている。
ノリと勢いで投稿。
プロットなしで。
更新不定期で時々更新。