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レベル4


 ゆうばんは魔王です。

 めでたくレベルが20になりました。もう何回死んだと思ったか。

 しぶとく生きてます。




 目の前には凛とした背中。金色の髪が光を反射してチラチラと輝いてる。まぶしい。

 そんな勇者が肩ごしにこちらを振り返り、背の関係で見下ろしてくる。

「魔王、もっと早く歩かないと陽が落ちてしまいます」

 あんた落ち着いて俺の身体見てみ?

「瀕死、瀕死だよ。俺瀕死だよ」

 杖片手にやっと歩いてる状態だよ。具体的にいうとお迎えの近いおじいちゃん状態。足元棺桶。

 細かい傷なんて数え切れないほどそこらじゅうについてるし、頬についた血なんて乾いてパリパリのままだ。魔力もからっから。

「そんなことでは私に勝てませんよ」

「勝つ気ないよ」

 ていうかこだわりすぎだろ勇者。

 魔王倒して風呂入って飯食って寝ろ!

 思ったことをそのまま言ってやると、鼻で笑われた。

 予想外にショックだった。すっげーショックだった。なんでだろう……。

 魔王だけど、レベル低いけどそのことにこだわりとか俺あったのかな。勇者が魔王倒すのは常識じゃないのか。よくわかんなくなってきた。

 黙り込んで考えるが、くるくるぽんな頭脳の俺に答えが出るはずも無い。というか出ても俺にしかダメージがないと思う。

 ため息をついて足を引きずり歩いていると、顔からぶつかった。

 勇者の背中にだ。

「って、いきなり止まるなよ」

 勇者を見上げると、なにかを見下ろしている。不審げにその視線の先を見ると、人間たちが居た。家もちらほら見える。あれは多分。 

「……村、か」

 たどり着いた丘の向こうに、村が見える。

 村の周囲には柵が巡らされて、ささやかにも魔物への対策が見られる。そのわりに子供たちがそのまわりで遊んでいるのが、危なっかしい。

「宿をとりますよ」

 勇者の言葉に顔を跳ね上げた。

 あの村で? 馬鹿言うな。

「お、おい。俺は魔王なんだぞ、人間の村にあががががが」

 顎つかまれたぞ痛いとれる。本気でとれる。

「私疲れてるんです」

 惚れ惚れするような無駄な動作で前髪を払い、勇者はゆるやかな坂をおりていく。魔王を引きずって。

 俺は顎がとれないよう、足を動かすだけだった。



「まあ、勇者様!」

 宿のカウンター。少女があげる黄色い声に、勇者が微笑んで返す。

 俺は回れ右をして入ってきたドアから出ようとするがフードを掴まれ、脱走は未遂に終わった。罰なのか首がいやに締まる。く、くるしい。

「こんにちは。七日ほど宿を借りたいのですが」

 おいおい本気か。

 振り返りながらもがくが、勇者の平然っぷりは変わらない。

 おさげの可愛い少女の視線が俺に当たった。その瞬間、輝きに満ちていた瞳が不思議そうなものにかわる。

「そちらの方は」

 さすがに魔王です、とは言えない。無意識に奥歯を噛む。

「賢者様ですね」

 息を呑むとも吐き出すとも言い表しにくい音が俺の口から出た。

「ええそうです」

「どぅぇ!?」

 あっさり勘違いした少女の言葉に乗る勇者。驚く魔王。

 なんだこの図は。

 し、しかし反論するわけにもいかない。

 反論すれば袋叩きの処刑だ。ひ弱な魔王なんて、よってたかって殴れば世界に平和が訪れる。そして俺は墓送りだ。

 硬い動作で、なんとか頷く。

「お二階の突き当たりのお部屋をどうぞ。ごゆっくり」

「ありがとうございます」

 フードごと俺を引きずって階段をのぼる勇者になんとかついていきつつ、肩越しに宿の少女を振り返る。

 目があうと、笑顔と共にひらひらりと手を振られた。ランプに灯された光のせいか、優しい色ばかりが目に入ってくる。

 警戒心がゆるむのを感じつつ、懐かしいことを思い出した。

 魔王を襲名する前って、畑耕してたんだよな。魔物だらけの中で。

 襲われることはなかったしライラックゴーレムによく耕してもらった。畑の近くを縄張りにしていたサーベルパンサーなんてよく背中に乗せてもらった。

 あ、なんか目頭がやばい。

 じんわり熱くなる。

 娘とサーベルパンサーがだぶって泣けるとか、俺は大概どうかしてるようだ。

 振り切るように、一段飛ばしで階段を登った。

 勇者が不思議そうな顔でこちらの横顔を見ている。こらえてさらに一歩踏み出すと、フードの布地が足りずに後ろに戻るハメになった。






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