レベル3
ようこそ魔王です。
現在のレベルは14で、珍しくも休憩の時間をもらっています。
まあ駄々こねて引きずり回されても動かなかったご褒美なんですけどね!
ズボン一枚でざぶざぶと泉に進み出て、少し深いところにつくなり頭まで落ちるように沈み込む。
三秒数えて飛び出すとすっげーきもちいい。ぶっはー!
そのまま水面に飛び込んで、派手な音としぶきを撒き散らしながら泳ぎだす。
「子供のようなことをするんじゃありません」
「知る、っか! がほぼぁ」
勇者の言葉に一喝して、バランス崩しておぼれた。
あわてて足をついて水を吐き出す。
鼻にはいって涙でそう。
「情けない……」
泉縁の岩場、その一つの岩に腰掛けた勇者が足を組みかえる。
キザったらしいがサマになっているので何も言えない。
金髪の美形は何をしても許されるって本当だな。
げほげほむせる息をなんとか落ち着けて勇者を睨みつける。
「知るかー!」
「……こちらも知りませんよ」
理解できない仲を振り切って、近くの縁に放り出していた漆黒のローブを片手で掴み、水面の下に引きずり込んだ。
そのまま手でごしごしとこすって泥をはがしていく。べっとりとついていた泥のせいでそのあたりが茶色に染まった。きちゃない。
川で洗濯する魔王ってなんか庶民的だ。いや、俺は庶民だけどさ。
ああ、ちなみに今ズボン一枚なのは、このローブを洗うためだ。湿った沼で盛大にひっくり転び余すところなく泥まみれのこのローブを。
唐突に説明するが歴代の魔王は総じて非肉体派だ。魔法使いタイプだ。
よって俺に筋肉がついていないのは仕方ない。
断じてレベルが低い所為では無い。
「あの程度で瀕死では、頭が痛くなります」
勇者の声がしたと思ったら、額に手をあて、ゆるゆると首をふってくる。
おい、あの魔物の群相手によく生き残ったと我ながら思うんだが、勇者はご不満か。結局助けてくれずに俺一人で撃退したんだ、が……。
何より、
「俺は帰るって言ってるし、魔王やめるとも言ってるんだが!」
「そんな事、許されるはずがありません」
むごい一刀両断。
魔王鍛えてる勇者のほうが許されるわけないだろ一般的に。
さっさと倒してくれ。
「魔物みたいに一撃で倒せばいいだろ!」
できれば痛くないように。
「倒しません」
勇者は変わらずの口調で、肩をすくめるばかり。
「レベル100まで鍛えてから決闘を申し込みます」
鼻水噴いた。
言葉無く口元をぬぐう俺に勇者が言う。
「がんばりましょうね」
キラッキラした笑顔でした。
俺の心臓は瀕死です。
首を横に振り続ける俺だが、勇者は肯定せずに次の特訓予定を告げはじめた。
あいつ勇者やめて大魔王になればいいと思う。