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レベル1



 こんにちは、魔王です。

 レベルは2くらいです。

 勇者が来るそうです。

 逃げたい。


 魔王の座について数日が経つ。

 先代魔王、こと祖父が打ち破られてからの日数と同じだ。

 魔王の伝統だか何だかしらないが、勇者に負けた魔王の祖父は隠居し、その座を譲った。

 その座が親父ではなく俺に回ってきた。

 理由は親父が逃げたからだ。逃げんなダメ親父という俺の叫びは届かなかった。

 やっと成人した若造にこの仕打ち。もちろん俺も涙目で嫌だと叫んだが、祖父は涙を呑んで俺に譲ってくれた。押し付け同然に逃げられ、俺はちょっと泣いた。

 伝統のごてごてと飾りこまれた漆黒の服を着て、黒フードつきマントをつければ若葉印の魔王ができあがりだ。眩暈がする。

 ちなみにレベルは2。

 1ではないいが、2だ。

 そこらの妙な動く草相手に殴り合って負ける魔王。

 泣くぞ。

 泣いても負けるんたが。


 大きな杖を指先にひっかけ、重い足を引きずって魔王の城へ、玉座の間へ帰り着く。

 石畳に杖先がカラカラと鳴り響いた。

 魔王ってなんだよ魔王って。レベル80の祖父が勝てなかった勇者に勝てるわけがない。こちとらレベル2なんだ。実家に帰って本よんで飯食いたい。

 どっかりと魔の玉座に体を投げ出す。

 ぐったりしていると、祖父の部下さんが蒼白で駆け寄ってきた。

「ご子息様、勇者がきました!」

「あぁ、うん……はい……」

 諦めきって薄く笑うと、部下さんが気の毒そうに始終まで報告をしてくれた。

 勇者は一人で魔王城へ入り込み、強靭な魔物をかるーい感じで蹴飛ばしてこの玉座へ向かっているらしい。

 力なく返事をした俺を残して、部下さんは玉座の間から出て行った。

 直後、扉が吹っ飛び、爆音が体に響く。

 衝撃のあまり音が聞き取れなかった。視界に白い煙が満ちて、チカチカした光が明滅する。

 唖然としていると、煙の中から一人の男が出てきた。

 金色の髪をし、口元に爽やかそうな笑みを携えている。伝説に分類される武具を身に着けていて、ああこいつが勇者なんだなと悟った。悟りと同時に口から魂が顔をのぞかせた。

 そしてやっと衝撃から立ち直った体が音を拾う。

 ガラガラと壁が崩れる音が耳につく。細かく見る暇などないが、広間の半分が崩壊している。

「……レベル2の魔王?」

 高めの声が、疑問を浮かべる。

 いつのまにか詳細分析の魔法でもかけられたのだろうと思う。レベルが低い者は、高い者からの魔法にかかり放題だからな。

 高笑いでもあげてやろうかと口端をつりあげて悪どい表情をつくってみる。ひきつっているかもしれないが、生憎と確認する鏡は無い。

 全体重を背もたれに預け、大きく息を吐く。

「……痛くないように、やっつけてください」

 決死の宣言だった。

 痛いのは嫌だ。生まれてこのかた大きな怪我などしたことはないし、最近も転んで涙が出るくらいだ。何より痛いのは怖くて、大嫌いだ。

 男のプライドなんぞ無痛のためにいくらでも売り払ってやろう。

「レベル2ですって?」

 勇者の表情が険しくなる。

 もう乾いた笑いしか出ない。

「魔王討伐でレベルカンストできないじゃないか!」

「知るかよ!!」

 俺でレベルカンストさせるなよ!! カンストって、今99かよありえねぇ!

「このために半年、漆黒の森でレベル上げにいそしんだというのに……っ」

 世界救えよ勇者。もうちょっと急げよ。

「何故……せめて30あれば」

 それはね、動く草にけちょんけちょんにやられて、やる気を失い続けて戦えなかったせいさ!

 膝をついて嘆く勇者を、死んだ目で見つめる魔王……俺。

 ぶつぶつと呟き続ける相手に、重い腕を動かす。

 指差した先から、紅蓮の炎が吹き出た。またたく間に勇者を飲み込む。

 炎に埋もれた勇者を見失い、目標を失った炎が黒煙を噴き、とぐろを巻く。


 その中から勇者が平気そうに立ち上がる。


 うん知ってたけどね。

「もう少しレベル上げをなさい!」

 魔王に伝わる伝統の技、見せ掛けは派手な炎の魔法だ。

 見た目だけは腰を抜かすほど派手だが、中身は熱風程度。しかも魔力の消費はそれなりに多いので、今ので俺の魔力はほぼ空だ。知らないだろうけど魔王って燃費悪いんだぜ。

「大体、こんな薄暗い城で不健康ですよ!」

 魔王を見かけたら優しくしてあげてください。

「聞いているんですか!?」

 全力で無視してる。

 気づけよ勇者。打ち負かされて魔王引退したい。

 乾いた笑いをこぼすと、勇者の眉が跳ね上がった。

 俺の心拍数も跳ね上がった。

 怖いよ勇者。

 炎を足蹴で吹き飛ばし、勇者がこちらに手を伸ばす。反射的に後ろに避けたが玉座に防がれる。

「さあ、行きますよ魔王!」

 首元がぐいと引っ張られる。

「えっ」

「第一目標はレベル10です。ゴブリン程度なら囲まれても平気にならないといけませんね」

「はぃ!?」

 引っ張られて苦しい首元をなんとかおさえつつ、転びそうな足取りで先をいく勇者についていく。

「ゆ、ゆうしゃが魔王を倒さなくていいのかッ!?」

「育ててから倒します!」

 勇者しろよ!

「なんなんだよお前!」

 涙声で叫ぶが、綺麗に無視される。

 よたつくままに城の外に連れ出され、魔物のはびこる平原への道を連れて行かれる。

「まずはポーンラビットですよ!」

 それ俺が命からがら逃げ出してるやつですよ勇者さん。


「い、嫌だ! 魔王やめる!!」





 この後、魔王は勇者の見守る元レベルを8まであげた。

 そして――変わり者の勇者と旅をはじめることとなる。





完読おつかれさまです。

 元Pixivで書いていたものでもあります。

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