第26話:カリブの超鉄人、キューバ戦の衝撃
世界大会「ワールド・サイバー・クラシック」予選ラウンド第1戦。侍ジャパンの前に立ちはだかったのは、アマチュア野球の雄にして、今や世界最大の「バイオ・アスリート」輩出国となったキューバ代表だった。
彼らの肉体は、ナノマシンによる筋線維の強化と、重力制御を応用したスパイクによって、人間の限界を遥かに超越していた。
「……これが、世界か」
ベンチのしみまるは、目を見開いた。
キューバの遊撃手が、三遊間の深い打球を逆シングルで捕球したかと思うと、空中で体を反転。そのまま時速165kmの送球をファーストへ叩き込んだのだ。
「アウトッ!」
生身の日本代表打者たちは、その「物理法則を無視した守備範囲」に、ヒット1本を打つことさえ困難な状況に陥っていた。
0対2。日本はキューバの豪腕投手、ガルシアの前に無安打に抑えられていた。
6回裏、1アウト二塁。ここで監督が、ついに「切り札」を投入する。
「――代打、しみまる」
スタジアムが、異様な緊張感に包まれる。
マウンドのガルシアは、不敵に笑いながら自身の首を鳴らした。彼の首筋には、薬液を注入するためのポートが埋め込まれている。
シュゴォォォォ!
ガルシアが放った初球。それは、空気の断熱圧縮で白球が焦げるほどの熱を帯びた、168km/hの「ヒート・ファスト」だった。
(……くる。でも、怖くない)
しみまるの右腕、**『オーガニック・アーム』**が静かに脈打つ。
以前のバスター・アームのような轟音はない。ただ、しみまるの神経とガルシアの放つ殺気が、一本の糸のように繋がった。
「――同調、開始」
バキィィィィィンッ!!!
爆音。しかし、それは打球音ではなかった。
しみまるの振り抜いたバットが、168km/hのエネルギーを「逆流」させ、ガルシアの球威をそのまま倍返しにして弾き返したのだ。
打球は、音速を超えてライトスタンドへと消えていった。
「……嘘だろ。ガルシアの剛球を、あんなに軽く……」
キューバベンチが、初めて静まり返る。
ダイヤモンドを回るしみまるの右腕から、見たこともない「黄金の輝き」が漏れ出していた。
黒金博士が、ベンチでタブレットを握りしめる。
「……やはりか。オーガニック・アームは、ただの義手ではない。……周囲の『エネルギーの波動』を吸収し、自身の力に変換する恒常性維持機構……大和の本当の目的は、これだったのか!」
相手が強ければ強いほど、そのエネルギーを吸い取り、自身の出力に変えてしまう。
それは、終わりなき軍拡競争を止めるための、究極の「平和のからくり」。
しかし、その輝きを目にしたキューバの監督が、ニヤリと笑った。
「……面白い。ならば、我々の『真の姿』を見せてやろう。……第2形態、解放だ」
キューバの選手たちの全身から、赤い蒸気が噴き出し、彼らの瞳が不気味な光を放ち始める。
野球場は今、人類の進化を賭けた「聖域」へと変貌しようとしていた。




