第25話:日の丸の重圧、孤独な試作機
宮崎。燦々と降り注ぐ太陽の下、日本代表「侍ジャパン」の強化合宿が幕を開けた。
球場に集まったのは、各球団を代表する至宝たち。その中にあって、右腕に包帯を巻き、まだ実戦復帰も果たしていない「ルーキー」しみまるの存在は、明らかに異質だった。
「おい、あれが噂の『からくりボーイ』か」
「和歌山では英雄かもしれないが、ここは日本代表だぜ。客寄せパンダなら、パンダスタジアムに帰ってもらいたいもんだな」
すれ違いざまに聞こえる、パ・リーグの首位打者や、セ・リーグの守護神たちの冷ややかな声。
しみまるは、自身の胸に手を当てた。そこには、黒金博士が心臓の直上に埋め込んだ、新しいバイタル・インターフェースが静かに拍動している。
伝説の継承、オーガニック・アーム
キャンプ初日の夜。しみまるは一人、室内練習場にいた。
黒金博士が手渡した「最後の贈り物」、『オーガニック・アーム』。
それは以前のような武骨な銀色の金属体ではない。特殊なバイオ・ポリマーと人工筋肉で構成され、見た目は生身の腕と見紛うほどに滑らかで、しみまるの皮膚と完全に同化していた。
「……これは、機械じゃない。僕の『体』そのものなんだ」
父・大和が最期に辿り着いた結論。それは「機械を人間に近づける」のではなく、**「機械を生命の一部にする」**ことだった。
しみまるがバットを握ると、右腕の「細胞」が意思に呼応して硬化し、しなやかに収縮する。以前のような駆動音(モーター音)はもうしない。聞こえるのは、血流が加速するような微かな「脈動」だけだ。
洗礼のフリー打撃
翌日。しみまるの「実力」を測るべく、代表監督が命じたのは、日本最高の左腕・霧島連とのフリー打撃対決だった。
霧島は、鋭いスライダーと「消える」と称されるチェンジアップを武器に、メジャーからも熱視線を浴びる現役最強の投手だ。
「おい、ルーキー。壊さないように投げてやるから、死ぬ気で振ってこい」
霧島が放った初球。それは、打者の手元で急激に変化する、150km/h超の「高速スライダー」だった。
しみまるの脳内チップは、以前のように「強制演算」を行わなかった。
代わりに、新しい腕が、霧島の投球フォームから発せられる微かな「殺気」と「リズム」を、神経を通じて直接しみまるに伝えてきた。
(……見ようとするな。……感じろ。……今だッ!)
バキィィィィィィィンッ!!!
静寂を切り裂くような、芯を捉えた快音。
打球は、宮崎の空をどこまでも高く突き抜け、外野の防球ネットを越えて遥か彼方の防風林へと消えていった。
「なっ……!? 霧島の初見のスライダーを、あんな……」
練習を見守っていた代表メンバーが、言葉を失う。
霧島自身も、グラブで口元を覆い、驚愕の表情でしみまるを見つめていた。
共鳴から「共生」へ
しみまるは、ゆっくりとバットを下ろした。右腕は、熱く、そして心地よい重みを持っていた。
「……これが、父さんの目指した野球……」
機械の力を借りるのではない。機械と一つになり、人間の可能性を極限まで引き出す。
孤立していたルーキーの周りに、一人、また一人と代表選手たちが集まり始める。
「……おい、今のはどうやったんだ?」
「しみまる、だったか。もう一度、振ってみろ」
技術への嫉妬が、純粋な「野球への好奇心」に変わる瞬間。
しかし、その光景をネット裏から見つめる、不気味な男たちがいた。
星条旗のバッジを胸につけた、アメリカ代表のスカウトマンたちだ。
「……データ通りだ。日本のNO.19は、我々の『プロジェクト・ゼウス』にとって、最高のサンプルになる。……拉致してでも連れて帰るぞ」
侍ジャパンとしての船出。それは同時に、全世界の「兵器開発」に転用を企む影との、国際的な知略戦の始まりでもあった。




