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ようこそ劇団・神楽座へ!  作者: 夜丹 胡樽
『演じる』その意味
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第四節

 四楼さん曰く、ここは『東都の北の方にある山奥』なんだそう。


 結界術によって、神楽座の事務所といま私達がいる『稽古場』の空間を繋げて……みたいな説明をされたけど、正直雲の上の話過ぎてよく分からなかった。


 説明を聞きながら隣にいる唯一郎さんの方へ視線を向けると、


『俺もよく分からない。ただ、こういう系統の事が今後起こったら四楼さんだしな(・・・・・・・)って思うのが一番早いと思う』


 という何とも納得しきれない回答が返ってきた。

 四楼さんは不思議な雰囲気があると思っていたけど……私よりも付き合いの長い唯一郎さんが言ってることだし、他の団員からも驚きの声が上がっていないところを察するに本当にそう思っていた方が良さそう。


 といった感じで一瞬で私達は東都から離れた山奥の稽古場に来ている。


「……よし」


 そのまま建物へとみんなで入り荷ほどきが一段落したあと、私たちは建物の一番広い場所である『大広間』に集合となっていた。


 私も稽古着にと持ってきた赤と茶のもんぺにささっと着替え、少し伸びた髪の毛を後ろでひとまとめにして更衣室を出た。


 そのままの足で『大広間』へ入る――


「——ひ、広い」


 大人が百人くらい入れそうなほど広い空間。

 まだ真新しい板張りの床に、男の人三人分でも足りないくらいの高い天井には等間隔でランプが釣り下がっていた。


 こんな立派なところで稽古できるなんて……でも、こんなすごいところを借りれるお金が四楼さんにあったことに驚きだ。


 と、そんな部屋の中を、とてとてと走り回る蒼狛くんと白狛ちゃんが見える。

 周りには付喪神ぃずを従えて、机や椅子を運んでいるようだった。たぶんあれは四楼さんが言っていた『台本の読み合わせ』のための準備かな?


「それじゃあ自己紹介からするか! よし、そしたら俺からだな!」


 何か手伝った方がいいのかなと思っていると、そんな声が聞こえる。

 視線をそちらの方に向けると、先ほどの大柄な男の人が豪快な笑みを浮かべているのが見えた。


「俺の名前は折島 朗太(おりしま ろうた)だ! 今回は『カグツチ様』役をやらせてもらうことになってる! あとは……そうだな、彼女も絶賛募集中だ! みんなよろしくな!」


 黒の短髪に鍛え抜かれた体、それによく通る声質の男の人——もとい朗太さんが頭を下げると、周りからぱちぱちと労いの拍手が送られる。 


 大きな体だから威圧感があるかと思っていたけど、自己紹介の雰囲気的に明朗快活な人なんだろう。

 唯一郎さんが言っていた通り悪い人や、怖い人ではないようだった。


 そんな朗太さんは隣に立つ女性へ視線を送る。その視線だけで何かを察したのか、少し嫌そうに眉根をひそめた。


「じゃあ、次は妙だな!」


「はぁ……アンタの後だとめっちゃやり辛いんだけど」


 肩で息を吐き出し、やれやれといった雰囲気を出しながらも一歩前へ踏み出す。


「私は柴咲 妙(しばさき たえ)。今回は確か……女主役ヒロインのお母さん役だったかな? まだそんな年齢じゃないんだけど――って、何笑ってんのよ朗太! ぶっ飛ばすわよ!」


「いやぁ、ほんとにな! ハハっ、まだ二十代半ばなのに災難だなぁ!」


「マジでアンタ後で覚えときなさいよ……まぁいいわ。演技は多少の知識があるから、もしわからないことがあったら聞いてね」


 そう言って茶色がかった長い黒髪をなびかせて、妙さんは一歩後ろへと下がる。


 周りからも「確か柴咲って結構有名な劇団にいたよな?」という噂の話が聞こえた。

 そうなんだ……でも、何となく見たことある気がするから妙さんはこの業界じゃ有名人なんだろう。


 少しぶっきらぼうな言い方と表情だったけど、言葉自体に悪意はなさそうだった。

 それにさっきも私のことを心配してくれてたし、面倒見がいい人なのかもしれない。


 それに何より綺麗な人……一目見ただけで女優さんだってわかる風格みたいなものもまとっていて、私もあんな風になれたらいいなと思ってしまう。


 あとで色々聞いてみようかな、と私は頭の片隅で考えてみたりする。

 その後も何人かの自己紹介が続いていき――


「――お、そしたら残りは二人だな! どっちからにする?」


「じゃあボクが先にやるよ。大トリはそっちに譲るね」


 朗太さん残った私ともう一人の女の子に視線を向けると、すっと手を上げながら前に踏み出した。

 半目ながらも大きな二重の瞳が、私の方へ一瞬視線を送ってくる。


「ボクは菅原 八重人(かんばら やえと)。役は主人公の幼馴染だったかな。それとよく女の子みたいって言われるけど……男だよ」


「えっ、男の子なんですか?」


 私が思わず声をあげると、八重人さんは「うん」と言いながら人差し指と中指をぴっと立てる。


 確かに言われてみれば、今彼の身を包んでいる服装は青をベースにした作務衣のような物を着ている。

 背丈自体は私よりちょっと高いくらいで、肩口で綺麗に切り揃えられたおかっぱのような髪型だから、てっきり女の人かと思ってたけど……びっくりだ。


 八重人さんは驚く私から視線を切ると、みんなの方へ視線を戻す。


「元々は裏方志望だから……役者としてはまだまだ未熟者になるかな。だから妙さんとかにお世話になると思う」


「あれ、そうなの? 雰囲気的に舞台経験あると思ってたけど……確かに名前聞いたことないかも」


 意外そうな表情を浮かべる妙さんに、八重人さんはコクリと首を縦に振る。


「うん。だから妙さん以外にも頼っちゃうと思うけど、よろしくお願いします」


 ぺこっと頭を下げる八重人さん。


「よーし、よろしくな八重人! そしたら最後は京ちゃんだな!」


「は、はい!」


 いきなり呼ばれて、私は上ずった声で返事をしてしまう。

 恥ずかしさで後ずさりそうになる気持ちを抑えながら、私は一歩前へ出た。


「あ、綾瀬川 京です! 今回の演劇では女主人公ヒロインの役をやらせてもらうことになりました! 八重人さんと同じで演技に関してはまだまだ素人なので、皆さんからいろいろと教えてもらえたら嬉しいです!」


 私が頭を下げると、拍手と一緒に豪快な朗太さんの笑い声が聞こえてくる。


「そうか、京ちゃんも演技経験あんまりなんだな! そしたら演技のこととかはいつでも妙に聞けばいいぞ! 仏頂面だけど意外と面倒見はいいからな!」


「なんでアンタが得意げなのよ……それに仏頂面じゃなくて、元々こういう顔なの! ほんっと昔っからアンタは失礼で無神経だから彼女ができないのよ」


「む、そうなのか? それはマズイな……まぁ、これから気を付ければいいか!」


 と、そんな会話が繰り広げられていると、私の肩をつんつんとつつく気配。

 私が視線を向けると、八重人さんが淡い笑みでこちらを見つめていた。


「あ、八重人さん。どうかしました?」


「京ちゃんも僕と同じで演技あんまりやってないって言ってたからさ、仲間だなぁって思って。それとさん付けじゃなくていいよー。ボク今年で十七だし」


「そ、そうなんですか⁉ え、同い年ですね!」


 私がぱっと手を取ると「わー」と、なんとも気の抜けた声を八重人くんは出した。

 こんなところで同い年の子に会えるなんて思っていなかった私は、胸の中に会った不安が少しだけ溶けていくような感じがする。


 と、八重人くんの表情が柔らかいものになった。


「京ちゃんがよければ、あとで妙さんのところに一緒に行こうよ。多分だけど、助言とかもらいに行こうって思ってたでしょ?」


「うん! 八重人くんが一緒だと心強いよ――」


 と、私は背中に気配を感じて――振り返るとにやにやと笑みを浮かべる妙さんがいた。

 まさか話に出ていた人がいると思っていなくて、私の心臓はびくっと一段階鼓動を速める。


「――た、妙さん!」


「あらあら、若いっていいわねぇ。ちょーっと目を離しただけですぐ仲良くなってるんだもん」


「うん、ボク達同い年だったからね。ねー、京ちゃん?」


 驚く私と対照的に、八重人くんは落ち着いた表情で私に同意を求めてくる。

 私も「う、うん」と頷いて返した。


 そんな私達の様子に妙さんは安心した表情を浮かべる。


「アンタ達が演技のこととかで不安があるって言ってたから様子見に来たけど、その感じだったら問題なさそうね」


「そんな! あとで妙さんのところに行こうって話してたところだったんです! なので逆に妙さんから声をかけてもらえて嬉しいです!」


「あら、そうだったの? そしたらアンタ達にみっちり舞台の厳しさと恐ろしさをみっちりと教えないとね。覚悟しておいてね」


 悪戯っぽく笑いながら言う妙さん。

 しかし、言葉の中にある芯みたいなものは本物だ――教える代わりに甘やかすつもりはない、ということなのかなと私は思った。


 だから私が強い視線で「お願いします」と返すと、妙さんも安心したように瞳を眇める。


 と、そんな会話を繰り広げている私たちの耳に扉が開く音が響いた。

 視線をそちらの方に向けると、いつもの洋装に身を包んだ四楼さんと唯一郎さん、それと馴染みのない着物姿の女の人。


 綺麗な銀色の髪に伏せた瞳に、十二単のような朱や翡翠が複雑に入り乱れた着物を着ても負けないくらい綺麗な顔立ち。

 身長こそ私と変わらないくらいいだろうが、その着物越しでもわかる豊満な体躯……なんだろう同じ女としてなんだか負けた気分になってしまう。


 頭から除くのは狐のようにピンと尖った黄金色の耳が異彩を放っていた。

 私の知らない神楽座の団員で、あの雰囲気だと神使とかの人かな?


 と、そんな私たちの様子を見て四楼さんは満足そうな笑みを浮かべる。 


「お、みんな無事に打ち解けてるみたいだね、よかったよかった」


「あ、シロー! こっちの準備も白狛ねーと終わらせたよー!」


 ぶんぶんと手を振る蒼狛くんに四楼さんは「ありがとう」と笑みを浮かべながら手を振りかえす。


 そのまま視線を私たちの方へ向けると、いつもの軽妙な笑みを深めた。


「それじゃあ劇団・神楽座本格始動だね」

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