第9話 イベリア歴620年 アントニオ一行
アントニオ達商人の中に、キラキラした、いかにも『貴族』という容姿の苦手なヤツがいて、こちらに向かってくる。
ウゼー……。姉の件以来、貴族アレルギーになったかも?
「イザベルさん、こちらは第一騎士団長のご次男、アルトゥーロ・ガルシーア様です。今日は剣を拝見しに来ました」
「アルトゥーロだ。屋敷でじっとしていられず、剣が見たくて来た。早速見せてくれ」
「ふーん! せっかちだね~。ちょっと待ってよ」
あーしは適当な剣を一本持ってきた。
「切れるから……鞘から抜くとき、一番危ないから」
アルトゥーロは剣を抜き、刀身を眺めて呼吸を整える。
「むー、ひー、むー……。アレを切っても?」
「どうぞ……」
ヒュ、シュ。
風を切る音が鋭く響く。アルトゥーロは刀身を軽く指で弾き、澄んだ音に目を細めた。
「ほー……素晴らしい……これ程とは。家の専属に欲しいくらいだ。……ただ、私にはあと五センチ長いと完璧だ」
「あっ……コレ見本品だから売り物じゃないよ。長さと幅、厚みは調整できる。重さはサイズに比例するけどね。飾りは——材料が揃ってない。そこは他でお願い」
「オーダーも出来るのか。では、先程の形で五センチ長くしたものを頼む」
「わかった。三日後で。値段は爺さんと相談してくれ」
あ~かったるいー。あーし向いてないんだよ、商売。あー精神削られた~。
巫女の時はなんもなかったのに~。どーゆーことー!!
貴族が去った後、アントニオが近づいてきた。
「お疲れ様です」
「疲れたよー。剣見せるんじゃなかったよー。あーし無理」
「よくできてましたよ。我々商人と違って裏が無く、飾りもない。あの様な態度ならごまかしもなく、アルトゥーロ様は信頼したと思いますよ」
へー、そんなもんなんだー。
「それと、次回の注文になります」
「ん……三日後でいい。あっ、材料揃った?」
土間に馬車の車輪が軋む音。アントニオが声を落とす。
「素材は揃いました。炉の脇へ下ろします。……それと、別件。この素材で刃渡り二十センチの短剣を」
アントニオが差し出したのは、見たことのない金属だった。
「コレ、なんか変わった素材だねー……。素材を考慮して業物仕上げだよね~。六日はかかるかな?」
「これは『ミスリル』という地金です。軽くて丈夫な金属です」
「へー、これが! 実際目にするのは初めてだよ~。これって、上級の砥石が必要だよね?」
「お持ちしました。この三枚!これは差し上げます」
ラッキー、いいヤツだなー。
「それと、もう一ついいですか?」
「なんだよ~……怖い……」
アントニオは真剣な顔で、ある提案をしてきた。
「今、話したことは、イザベルさんの判断に任せます。ゆっくりと考えて下さい」
### 外伝のお知らせ
併せて、外伝 **『ブルーノ戦記』** を投稿予定です。
この外伝では――
- イザベルが与えてチート
- ブルーノ無双
が描かれ、物語世界の裏側に迫ります。




