第8話 イベリア歴620年 アントニオ
「お~い! イザベル……客だぞ」
「なんだ? 客?」
爺さんが見知らぬ男を連れてきた。
「私、パンプローナから来た商人のアントニオ・サンチェスと申します。どうぞよろしくお願いいたします。さて、本題ですが……村長に伺ったのですが、布を縫う道具を作ったとお聞きしましたが? どちらになりますか?」
「あ~、何?(また面倒な客か、鬱陶しいなぁ……)」
「こら、イザベル……」
「すみません! つい興奮しまして。本来は簡易ストーブを拝見する為に参ったのですが……」
「あっ……そういう事。ストーブはあっち。ミシンはコレ」
商人のアントニオは、あーしの作ったストーブについてあれこれと質問してきて、最終的には値段交渉に入った。爺さんを交えて話を進める。
これをあーしが沢山生産するのはメンドイから、図面を書いてそれを買ってもらう事にした。
一台売れたら何割バック、という提案もされたが、初めてでそこまで信頼してないし。通信機の材料費になればそれでいいんだ~。
ミシンも同じだ。本当は家庭用サイズを作ってオシャレな服を作りたいが、通信機の資金のために今はハンディミシンで我慢している。
「あのね~、剣とか斧とか、刃物は買わないのか?」
あーしは提案してみた。
「買いますよ。ぜひ、見せて下さい」
「これ、一般のヤツ。こっちの棚は、出来のいいヤツだ。……奥には『業物』がある」
「ほ~、なるほど。一般品でこのレベルですか! 棚のは……これって……待ってくださいよ~。奥の業物を見るのが怖くなってきた……」
「はい! これ、業物! 今は見本として、これ一本だけ」
「これは……見立て通り、完璧な品だ。切れ味は?……」
「奥に、牧草に革を巻いたヤツがあるから、切ってみ!」
そう言って奥に案内した。
「切れすぎるから、気をつけな~」
アントニオは剣を上から下に振り下ろした。
動きが止まり、しばらく無言になる。何かブツブツと呟き……。
「これは素晴らしい……。これを買うお金を持参していないので、後日でもよろしいでしょうか」
そう言って、今は爺さんと家に向かいお金の相談をしているはずだ。
その後、爺さんと金の相談を終えたアントニオは、爺さんと朗らかに会話しながら戻ってきた。
「パンプローナに帰ります。次回は数名で伺います」
そう言って、次回の注文書を渡された。
「あ~……欲しいものがあるんだ。ちょっと待って!!」
机に行き、欲しい物を紙に書く。
「これ、揃えることできる?」
メモを見て、アントニオは指を顎に添えた。
「高い物ではありませんが……揃います。……これって、そのままの原料でいいんですか?」
「いいの! ……頼むわ!!」
数日後。アントニオは馬車と五名を伴ってやってきた。




