第47話 スコットランド国 1486年 聖女
リッチが消えると、ゾンビもスケルトンも動きが散漫になり、数も減っていった。そこから広範囲の魔法を数発放ち、鎮静化させた。
エラが速足で向かいながら言う。
「リッチの所へ行って、戦利品がないか確かめねば。」
バレリアが目を細めて呟いた。
「ほう、こ奴、禍々しいワンドを持っているわ……ん、この形、どこかで……もしや聖女グレースのワンド。かつて魔王と戦い、行方不明になった聖女グレースのものかもしれん。確証はないが……」
さらに調べたバレリアが続ける。
「時代測定で多少の誤差はありますが、千五百年前後の物になります。その聖女グレースの時代と一致します。」
なるほど、と頷きつつ内部構造を調べてもらうと、バレリアは言った。
「ミスリルと別の金属の合金で出来ていて、硬質の木と魔石が下部に設置されています。少し改良すれば、もう少しパワーアップします。」
エラは目を輝かせる。
「なるほど!硬い木はスカイ島で取れる木じゃろう。わしが前に使っていたワンドの木と同じじゃ。あれは高級家具にも使う貴重な木じゃ。一枚板は高いが、わしの棒は端材だから安いのじゃ。」
バレリアがさらに告げる。
「別の金属が判明しました。オリハルコンです。ここから北東二十キロの山中に約千トンの鉱石があります。これはミスリルより魔法伝導率が異常に高い橙色の金属で、当時は採掘できなかったと思われます。」
エラは大声を上げて浸り込んだ。
「なんじゃとー!貴様、オリハルコンと言ったか?」
バレリアは頷く。
「はい、オリハルコンです。全部この金属で作ればもっとパワーアップします。伝導率が桁違いです。さらに、下部の魔石はただの石に近い状態でした。」
エラは叫ぶ。
「早く掘りに行くぞ、はよー!」
目を輝かせ、子供のように足踏みしながら叫んだ。
▼△▼△▼△▼△
商業ギルドの職員はリッチの魔力を受けて気絶していた。マシューも含めた全員に浄化と回復をかける。職員は気がつき、ゆっくりと起き上がった。顔色が悪いので再度回復をかけ、「終わりました。大丈夫?」と声をかけると、「終わった」という言葉に反応して少し元気を取り戻していた。
ギルドに戻り報酬と冒険者ギルド用の証書を受け取り、冒険者ギルドからも報酬をいただいた。未だにスカイ島の依頼は無いが、我らグレン・ヴァリアント団の評判はそこそこ上がってきた。
その後の数日は屋敷の整備に費やした。エラが「オリハルコンを採掘せよ」とうるさいので向かうことも考えたが、まずは屋敷の地下を完成させ、小屋に小さな工房を作り、前面に芝を敷いて綺麗にしてからと決めた。するとエラは駄々っ子のように言う。
「わしのワンドも作ってくれ!あの硬い木は提供するから~」
私も興味があるので約束をした。ただし鍛冶屋の地下と同じか、それ以上に広くし、地上の芝や工房が整わなければ鉱石があっても何もできない。推定聖女グレースのワンドは魔石を交換し、新しいワンドが出来るまでエラに使ってもらうことにした。
▼△▼△▼△▼△
エラは工事が数ヶ月かかると思っていたらしく、当日完成するとは思っていなかった。その速さに呆けていた。リビングでお茶を飲み、少しうるさいと思って裏に回ると、完成寸前の芝に浸り込んでいた。流石に芝は天然のため定着にもう少しかかる。
個人的なことだが、私はエラに聞いてみた。
「店はあのままでいいのか?」
エラは肩をすくめる。
「大丈夫だ。開店休業は開店当初から変わらん。アンナがたまにやって来るぐらいだ。お土産の一つでも渡せばご機嫌になる。それに、お前達を監視する任務を遂行していると報告している。言っておくが、監視はしても報告の義務はないからな。」
「それはどうもありがとうございます。(棒読み)アンナにワンドとお菓子でも作るか!」
「オリハルコンはやめとけ。ミスリルで少し性能が良い程度で十分じゃ。お菓子は焼き菓子でじゅうぶんじゃ。」
「身内に厳しいですね。伝統ですか。」
「あー、弟が親バカでなー。見てられん(怒)デレデレしおって……」
エラは怒りながら、ニヤニヤしていた。
「イザベル、おやつ!」
……おやつの話をしたら、自分も食べたくなったらしい。
その後、地下空間に新たに追加した風呂の具合を確かめるため、マシューを誘って一緒に入り、その日の疲れを癒した。スクリーンには外の映像や美しい景色が映し出され、まるで屋外で風呂に入っているような感覚になるリラクゼーションルームでもあった。マシューの評判も良く、鍛冶屋にも追加したいと思った。
次の日、私は食事を作り、マシューを起こし、さらにエラも起こした。エラは昨日の風呂をすっかり気に入り、鍛冶場にも作れと要求してきた。まあ、作るけど。三人でデザートを食べ終えると、オリハルコンの鉱山へ向かった。山の中腹の平坦な場所から斜めに掘り進め、五百メートルほどで目的の鉱石を採掘し、すべて埋め戻して撤退した。今回の成果は、オリハルコン千トン、銀二百キロ、エメラルド五キロ。その他の鉱石もあったが、ここでは売れないので見送った。
掘削機で分離された鉱物を工作機で簡単に地金や原石へと変え、魔力が出やすい地上の工房で魔力を込めながらオリハルコンを加工した。完成したワンドに魔石を固定し、ついに仕上げた。実験では、エラたちが見守る中で聖魔法を発動。ミスリルワンドとは比べものにならない力を実感した。
エラは飛びつくようにワンドをひったくり、海へ向けて火魔法を放った。数キロ先まで炎が飛んでいくのを眺めながら、私は思わず独り言を言った。
「飛んで行くねー。消えないなー。」
エラは満面の笑みを浮かべていた。バレリアが注意する。
「灯火魔法は眼に危険です。」
回復や聖魔法には効果的だろうが、魔法初心者の私には攻撃魔法は危険すぎる。加減が難しいと思った。橙色の金属が、不気味に美しく反射していた。
その日に私はマシューと共に剣を作り、細工を施した。私はマシューに尋ねた。
「魔力をプラスした剣技は出来るのか?」
マシューは答える。
「それは難しい。数百年の剣の歴史で何度も挑戦した記録があるが、補助的には出来る。しかし打ち合っている間は剣の方が早く、近戦では魔術者に負けることはない。」
その言葉を踏まえ、補助的な用途として柄頭に魔石を固定したオリハルコンの長剣を作った。剣の性能は問題なく、魔力を込めれば雷魔法を飛ばすこともできた。マシューも試したが、当然可能であり、あくまで補助的に使うらしい。私は念を押した。
「保険だからな。」
ファンタジーでよくある「火の剣で戦う」ような剣を想像したが、それは無理な発想だった。




