第44話 スコットランド国 1485年 討伐
私たちは三キロ先、ノクティルヴズと思われる獣が待ち構える地点へ向かっていた。先頭はマシュー、その後ろに私とエラが続く。作戦は単純だ――群れに襲わせ、近づくものから撃退する。
旅に出る前、私は魔力を使って長剣を作り、マシューに持たせていた。出来は名剣を越えるほどだ。バレリアからは「マシューなら普通の剣でも問題ない」と言われたが、私は「保険は必要」と無理やり持たせた。今回の旅で壊れたら、もっと良い剣を作るつもりだった。
目的地が百メートルほど視認できる距離になると、狼たちがこちらをじっと見つめていた。近づくにつれ唸り声も聞こえてくる。ノクティルヴズに間違いない。体長三メートルの獣だ。三十メートルを切った瞬間、三匹が一斉に動き出す。エラは「エイ!」と掛け声を上げ、「氷の槍」の魔法を放った。太い氷が先頭の狼を貫き、地面に突き刺さって動かなくなる。自分の魔法に驚いたのか、エラはニヤリと悪い笑みを浮かべた。残り二匹はマシューが二振りで切り捨てた。
次の陣は七匹。マシューとエラに二匹ずつ、私には三匹。まるで餌役に決められたようだ。死にたくない私は銃を構え、銃声が耳をつんざき、命中した瞬間、胸の奥に熱い安堵が広がった。しかし次の瞬間、後ろから一匹が足に噛みつき、血の気が引いた。防御スーツで痛みは無いが、バランスを崩して倒れてしまう。噛みついた狼を銃で狙おうとした瞬間、今度は別の狼に首に噛みつかれ、必死にジタバタした。マシューが首元の狼を斬り倒してくれたおかげで難を逃れ、足元の狼も仕留めた。エラは余裕の表情で二匹を氷で倒していた。
少し大きめのボス狼が吠えると、残りの群れが一斉に襲いかかってきた。私は夢中で目の前の狼を撃ち続け、エラも同じように魔法を放つ。マシューだけは私たちを守りながら剣を振り続けていた。マシューの剣閃が閃光のように走り、狼の影を切り裂いた。最後のボスをエラが氷で串刺しにして戦いは終わった。
誰も怪我はしなかったが、心はひどく疲弊していた。ぐったりと座り込んでいると、バレリアが馬車と共に駆けつけてきた。彼女に愚痴を聞いてもらい慰められる間、マシューたちは手負いの狼に止めを刺し、後処理をしていた。エラはワンドの性能について興奮気味に語っていた。
ノクティルヴズの革は需要があるらしく、使える毛皮はバレリアが処理して馬車に積み込んだ。だが「またこんな獣と戦うのか」と思うと気が重い。
戦いの余韻を抱えたまま、私たちは山を抜けて海沿いの街道へと足を進めた。
山を抜けると景色は海が見える街道へと変わった。ここからは海を眺めながら西へ進み、途中で休憩を取りつつ、暗くなる前に目的地を目指す。
小さな町には宿屋がなく、漁村の空き地でキャンプを張った。新鮮な魚を狼の毛皮や肉と交換し、魚料理を全員に振る舞う。久しぶりの海の魚は食欲をそそり、満足の夕食となった。翌日も邪魔はなく順調に進み、次の目的地に到着。さらに次の日も同じだった。結局、初日の狼戦だけで済み、二日間イベントもなくほっとした。ここで店主とは別れ、彼は商隊を組んで帰るらしい。
私たちはここに数日滞在し、情報を仕入れてスカイ島に渡る手段を探さなければならなかった。早速、冒険者ギルドへ向かったが、スカイ島に向かう依頼は何もない。あるのは護衛と討伐依頼だけ。護衛は方向が違うので却下、討伐は東の山にいるグリズトライブ(三メートルの熊)だ。他は雑用ばかり。熊が怖いのでパス。次に商業ギルドに寄ったが、こちらも何もなかった。昨日までは依頼があったらしいが……タイミングが悪すぎる。私たちは一旦鍛冶屋に戻り、作戦会議を開いた。
まずエラが言った。「わしは毎日ここに戻って美味い物が食えるなら文句ない。」
マシューは「イザベルに任せる。」
私は「島に渡れるまで、こんな感じでいいと思う。ここなら安心できる。」
その後、熊の依頼について話が移る。マシューは「討伐依頼は積極的に受けて、ギルドに信頼される者となった方が、これから我らのプラスになる」マシューは簡潔で冷静だ。エラも「討伐はやりたい。ワンドの力を確認せねば」と言い、私もしぶしぶ同意した。最後にマシューの剣を確認して散会した。
翌朝、マシューがギルドに「熊の討伐依頼を受ける」と報告し、東へ向かった。バレリアに熊の位置を確認してもらい、約三キロ地点に到着して目的地へ進む。近づくにつれ風下のせいか獣臭に加え、血生臭さも漂ってきた。望遠で確認すると「食事中のようだ」と分かり、マシューもエラも頷いた。マシューは「気づかれないように風下から襲うか」と提案し、バレリアは「今回は私も参加します。マシューと私で突っ込みましょう。エラとイザベルははぐれた獲物を遠距離攻撃で」と言った。
作戦が決まり、マシューとバレリアは二百メートル手前から走り出す。私は左、エラは右を担当。二人の剣戟の音がこちらまで響き圧倒的な力で熊の群れを倒していった。私は銃を構えていたが、エラの方へ二匹が逃げただけでこちらには来ず、ほっとした。エラは雷魔法で二匹を一撃で倒し、余裕の表情を浮かべていた。
マシューの方へ合流すると、熊たちは人間を餌にしていたらしく、悲惨な状況だった。エラが「こいつら、土エルフだな~、山賊か?」と言い、マシューも頷いた。
「山賊って、この辺がアジトか?」
するとバレリアが言った。
「ここから北に二百メートルに生体反応が三人います。」
そこがアジトか。行くんだろうね……気は進まないけど。
北の森に潜む三つの影。それがただの山賊なのか、もっと恐ろしい存在なのかはまだ分からない。




