第42話 ウェールズ国 1485年 甘味
翌日、朝からケーキを作り、朝食後のデザートとしてフルーツゼリーとクロワッサン・プディングを用意し、マシューに味見をしてもらった。どちらも好評で、結果として両方を持って行くことになった。午後、エラの店のドアを叩き、挨拶をする。
「なんじゃー、その甘いバターの香り。」
エラは勢いよくお菓子の入ったバスケットをひったくり、中を覗き込んでニカッと笑った。フォークを手にクロワッサン・プディングを口へ運び、次にスプーンでキラキラと輝く透明のゼリーとフルーツをすくって食べる。満面の笑みを浮かべ、黙々と六つの器を平らげたころ、バレリアがポツリと呟いた。
「自白剤が入ったゼリー、食べましたね。」
その言葉はまるでボディブローのように響いた。
「なんじゃとー……お前ら……」額に青筋を立て、苦悶の表情を浮かべるエラに、
「そんなものがあれば、とっくに使ってます。」と、しれっとバレリアが返答する。
「わしも聞いたことがない。教えない仕返しか(怒)」
私は書状を差し出し、エラの返答を待った。
「なんじゃ、何々……おのれ小娘、どうやってこれを手に入れた。」
さらにダメ押しをする。
「協力してください、エラ。私のお手製のこれもプレゼントしてもいいですよ。」
そう言ってワンドを見せる。
「なんだーその、魔力を発するワンドは……見せろ!」
エラはワンドめがけてピョンピョン跳ねるが、体力がなくすぐに疲れてぐったりしてしまう。
「エラ、協力する?……」
沈黙のあと、彼女は短く答えた。
「する……見せろ。」
数分後。
「こんな作り方が出来るのか。お前、ただの鍛冶屋ではないな。王家を欺いたな、おのれ……お前たち勇者だったのか?……ん!後ろの男、なんだお前、いつからいる。ここは女の園だぞ。」
さらに数分後。
「落ち着きました。エラ、彼は東で見つけた私のダーリンのローリー(仮名)よ。」
じっと凝視し、口数が少なくなる。人見知りか? エラが落ち着かないので、マシューには店の外で待機してもらった。
「それで、何が聞きたい。」
「エラは魔王の子孫か? 召喚魔法の仕組みを教えて。」イザベルが問いかける。
エラは淡々と答えた。魔王の子孫は不明だ。多少エルフの血が混ざっている可能性は否定しなかったが、正統な血統ではないという。成長の停止は、この容姿の時に行った魔法実験の事故の後遺症で止まったのだ。
召喚魔法の仕組みは未解明。魔力の多い者五名が三百年ごとに儀式を行う。五角形の角に魔石を大量に嵌め込んだ台座に五人が乗り、祈りを捧げる。願いが通じれば勇者が現れる。
問題は必ず成功するわけではなく、成功しても術者に身体障害が出たり、酷い場合は死者が出ることだ。原因は不明。大量の魔石も召喚後にはただの石となる。
詠唱は――
契約の環、血の印、祈りの言葉。
我が名において命ず――勇者、此処に顕現せよ!
「エラ、ありがとう。では約束のワンド、大切に使ってね。それと約十倍の力が出るから注意してね!」
秘密を話したことで少しへこんでいたが、「十倍」と聞いて、まるで玩具をもらった子供のように喜んでいた。エラに別れを告げ、鍛冶屋へ向かうと、彼女はそのまま付いてきた。
「わしはワンドにつられて家の秘密を話した。責任を取れ、わしを守れ。」
「エラ、ワンドがなくても敵なんて撃退できるでしょう! 何が目的ですか(怒)」
「わしはのー、甘味がのー……お前達、毎日甘味を食べているだろう。わしの推理じゃー、白状せい(怒)」
ブレないエラだった。鍛冶屋までの数分、エラは今まで食べた甘味を挙げて、まだ食べてない甘味を要求してきた。鍛冶屋に着くと、奥の椅子に座るように命じ、冷やしてあったプリンを出して三人で食べた。満足げなエラを見て、「これでいいのかなー」と思ったが、考えるのを放棄した。
翌朝、エラは泊まっていた。朝食を作り終え、マシューを起こし、エラにも声をかけたが寝ているので、マシューと朝食を食べ、デザートとお茶をいただいていたら、エラが起きてきた。
「まったくお前らは、盛りのついた獣か。うるさくて寝不足じゃ(怒)」
文句を言いながら椅子に座り食事を始める。今日は焼き立てクロワッサンにハムや卵、野菜サラダと温かいスープ。デザートにはシフォンケーキと紅茶を出した。満足していたが、その後に――
「おのれー、またもや新作の甘味! それとあのパンはなんだ。お菓子のようなパンではないか。毎日こんな食事、許せん(怒)」
これは、ほっといても平気な病気だな。
「エラ、私たちこれからスコットランドのエルフ自治区に向かうんだけど、どうするの?」
エラは少し考えて答えた。
「わしには長旅に耐えられる体力がない。しかし、離れるとお前達を監視できない。なんとかせい。」
「監視って? 食事の監視?」
「ばかもん。私の秘密を知った者が悪い行動を取らないか、監視だ。」
「ついてくるのね。旅の食事は質素倹約よ。」
「ばかもん。なんとかせい。」
私はバレリアに頼み、エラにオマジナイ(機密漏洩防止)の状態にしてもらい地下へ連れていった。医療器にかけて健康チェックをし、体質改善をして、洗浄機に入れてから工作機でスーツを作り着替えさせた。エラはテクノロジーに興奮して大はしゃぎ、大変だった。そして――
「お前について行って正解じゃった。わしの本能が正しかった。美味いものが食えるし。」




