第36話 ウェールズ国 1485年 勇者、再び
夜中にバレリアに声をかけられ、目を覚ました。なんだ、泥棒か?
「イザベル、外で人が襲われて殴られています。」
「えー、店の前で死んでたらやだねー。」
「分かりました。他所で殴るように注意してきます。」
「言う事きかないなら、弱体化させて眠らせて。」
――なんか面白いことしてるね、三対一で全員男だね、とラシーヤが言う。
「終わりました。例の勇者が酔っ払いに殴られていました。今、外で寝ています。」
朝になると、外で四人がいびきをかいて寝ていた。死んでないね。
「バレリア、起こして。」数秒後、ゆっくりと起き出した。
「あー、ここは寝床じゃないんで、お家にお帰り下さい。」
「「「えー、どこ?」」」正気に戻ったようで、あわてて帰り始めた。一人残っているが……。
「勇者の方、顔腫れて服も切れてますよ。立てますか?」――動かない。
「すまない。私は勇者オリバー。とんだ不覚をとった。」
「知ってます。以前ここに来ましたよね。いったいどうしたんですか?」
バレリアが声を掛けた。(あー、声かけたよ。なんか面倒事の臭いがする。)
「実は、私はご覧の通り、とても弱い勇者の末裔です。」――でた。
「そんな私でも十五歳までは聖剣を持って力を込めると聖なる光が発生していた……。ある日を境に、なにも起こらなくなったのです。本当です、信じて下さい。」
人前で泣きながら訴えるこの勇者の末裔は、本物か詐欺師かどっちかだろう。バレリアに合図する。
「本当のようです。ただ、あの剣は偽物です。」
勇者の末裔は「何故?」みたいな顔をして、
「何故分かったんですか。」と問いかける。
「鍛冶屋ですから。」とバレリアが答えた。
「実は三年前に生活の為に売りました。」――あーベタすぎる展開。やだよー、もう話さないでー。
「分かった。もう話すな。勇者を廃業して地道な仕事しろ! ハイ。」私は金貨三枚を渡して、
「外で勇者続けていたら張り倒すから。分かった、行け!」
元勇者オリバーはお辞儀をして帰っていった。
「イザベル、甘いねー。施しは毒だよ。」とラシーヤが言う。
「なんか胸のあたりがモヤモヤして、あーゆーの気持ち悪いんだよー。よくあるでしょ? なんていうか、外から見てて、そっち行ったらダメになるよと思っても、その人はそっちに行っちゃうみたいな感じ。」
「分からない。」とバレリアが答え、ラシーヤは(分かる)と頷いていた。
「私、今人間だから分かるよ。今、母星から遠隔アバター状態だから。ラシーヤのマスターのオルガよ、イザベルよろしく。」
「え、遠隔アバター!何でもあるね。」私は呆れていた。
「わたしね、バレリアと同じなのよ。昔AIだった時に人格形成して管理官と契約して、いろいろあって今はアンドロイド管理の仕事をしているの。人間に生まれて、死ぬ前に電子脳になり、今も生きているの! 言わば、バレリアの先輩かな!」
バレリアが言う。
「前例があったのですね。では私の願いも叶う可能性が上がります。」
「そーね! 私の国では、私のバグ以降、徹底的に検査されて一例もないけど、未交流の所のバグは分からないからね……。」
でたよ、異次元の話コワー……。生脳では理解が追い付かないよー……勇者の話、吹っ飛んだ。
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昨日の騒動を忘れるように、私たちは次の準備へ向かった、今は普段のラシーヤに戻っている。そして、バレリアはラシーヤと要塞にボディ変更へ、私も付き添いだ。留守番はメイドロイド二名。
地球の一市民だった私が宇宙要塞に乗ることなど、死ぬまでなかっただろう。それが今叶った――それも別星系の要塞。バレリアは行き先が分かっているように目的地へ進み、ある空間で脱力したようにゆっくり床に座り、寝転んだ。すると別空間から、バレリアが出てきた。一瞬の出来事だった。
「交換完了しました。素晴らしい体です。性行為も可能になりました。これで完璧に偽装完了です。魔法も使用できます。」
得意げで、前より自然な表情がプラスされている。
私は見た目の人間らしさに驚いてフリーズした。そして、元のバレリアもアンドロイドとして起動したが、同じ顔では気持ち悪いので整形し、十二歳くらいの地元男性に偽装した。男がいると鍛冶場の空気が変わると思う。
ラシーヤが子供のことをたずねてきた。
「安全な要塞で育てることをおすすめする。今から出産して十二歳までには基礎教育が完了する。宇宙に出ても地上で暮らしても、どこでも通用するでしょう。ただ、英雄になれるのは運次第ですから、過度な期待はしないでください。」
お腹が膨らんでいないのに、そんなことを言われても複雑な心境だ。ただ、安全は確保したい。ここは共有できる。するとラシーヤが言った。
「出産してから毎日会えますから心配無用です。これから出産しましょう。」
言われるままに促され、一歩踏み出したら、うつ伏せの体勢から五秒ほどで――
「出産おめでとうございます。男児です。これから保育室で管理しますから、ご安心を。」
「え、何……」胸の奥がざわめいた。母になる実感はないのに、確かに子は生まれた――なにも考えないことにしよう。




