第32話 ウェールズ国 1485年 灯火魔法
長剣の女は、普通の剣をじっくりと見て納得していた。アンタの長剣は普通より劣る剣だから当然だろう。次に上級を見た。……なんか汗かいてないか。少し素振りをしていた。
「どうですか。納得しました」
……沈黙。バレリアが口を開いた。
「長剣のあなた、その剣の方が体に合っていますよ」
「自分も感じているが、伯父から頂いたものなんで……」
「命を守る武器は、自分に合ったものを選ぶべきです」
その通りなのだが……。
「分かった。この剣を、いくらだ」
「金貨二枚です」
「分かった、では……」
「初のお客様なので、こちらを。今回だけですよ、宣伝してください」
そう言って上級を渡した。
「いいのか、それは見ただけで分かる上物だ」
私はニコニコしながら頷いた。
「イザベルです。隣はバレリア」
「冒険者のオリヴィアだ。よろしく」
三人は帰っていき、私とバレリアは戸締りをして、その日を終えた。
翌朝も慌ただしく始まった。チャールズが材料を追加で届けてくれた。明日も材料を届けるから、出来上がりを朝に持っていく。その本数を指定して、預かり証を渡す方向でお願いされ、了承した。
使用した鉄の代金を払い、鉄に代わる他の金属があるのか聞いてみたら、ミスリルがあるという。ただしここでは鉱山がなく高価らしく、人気はない。主に魔法使いが使うらしいが用途は不明だ。鉄より少し硬い鋼があるらしく、次回持ってきてもらうことにした。
午前に十五本作りノルマ達成。午後からエラの店に行くことにした。
「エラ、魔法を買いに来た」
バレリアはテンションが高い。私は一歩下がっている。
「あら、いらっしゃい。久しぶりにお金を払ってくれる人が来たわ。イザベル、今日もステキ」
「洗濯魔法をお願いします。その前に妊婦には影響はないですか」
エラが怪訝な顔をした。
「イザベル、あなたなの?それで分かった、あーそれで納得。私ね、妊婦の香りに弱いのよ。なんか興奮して思考が乱れるの。原因が分かれば軌道修正できるから、普通に戻るわ。ふぇーふぇふぇふぇ」
やっぱり危ないじゃん。
「洗濯魔法は子供から老人、家具や寝具も問題ないよ。今からやる……」
淡い青白い光がふわりと浮かび、壁に柔らかな影を落とした。
私は緊張しつつ覚悟をきめ、軽くうなずいた。バレリアはまばたきをせず集中していた。エラが小さな声でもごもごと唱え、その時はきた。なんかすっきりしたような気分になり、汚れがなくなった気持ちになった。何の痛みも負担もなくて安心し、だた不思議だった。
「はい、銀貨一枚」
ガメババァ……感動の余韻が覚めた。
バレリアは状況を説明してエラに質問していた。私も気持ちを切り替えてミスリルの質問をした。
「ミスリルな……使うよ、魔力を増幅したいときにな!原理はわからん。……これだ」
木の棒の先がミスリルで、ミスリルの針金が持ち手まで伸びている。
「これはワンドだ。他に短剣タイプもある。要はミスリルに手を触れ、増幅できれば何でもよい。まぁ、私はこれで十分だ。安いし……アイルランドに鉱山があって、そこでしか取れない。あいつらガメツイから安くならないよ」
すかさずバレリアが、
「それを使って魔法をかけるところが見たいが……」
「洗濯か?やめとけ。弱い魔法はそう違いが見えないぞ。灯火魔法で使うと明るさと時間が延びるな。銀貨一枚だ。どうする?」
バレリアが私を見て、目で「見たい」と訴えるので、私はコクリと頭を下げた。
――約三分。空中に少し明るい照明が浮かんでいる。バレリアが触ろうとしたら「消えるからやめろ」と言われ、手を引いた。その後雑談をして、エラの店を後にした。
自宅でバレリアがエラの店での分析結果を報告した。結果は分析不明。魔法の流れやミスリルとの親和性、人体が魔法らしきエネルギーを移動するまでは分かるが、肝心の魔法の正体が不明でデータ不足という結論になった。今後は私が魔法を覚え、それを観察すると言われた。
「人体解剖はダメだから」
そう言ったら、外から十分分かるらしい。
朝になって、チャールズが材料を追加で届けてくれた。槍十五本を渡し、預かり書をもらい今日のノルマを始める。槍十五本分の形成を終え、次の段階に始めているところに、少し身なりの派手な男が声を掛けてきた。バレリアが応対しているようだ。
「私は、この国に向かっている害獣の討伐に参加する勇者オリバーだ。どこの鍛冶屋も忙しく剣の手入れの時間が取れないと言われる。ここも忙しいのか?」
……随分と弱そうな。昨日のオリヴィアより弱そうな勇者だな。この国は弱そうな勇者が、多いのか?




