第29話 ウェールズ国 1485年 アンナ
(管理官の内部事情)
面白いことが起きた。監視対象が奪われた……フフフ。
「姐さん、これってどうなっているんですか。」
姐さん(管理官歴五年)にたずねる。
「勇者の末裔の魔導士がお前の対象者を召喚したんだよ。あなたもここと向こうを兼任して管理して、百年くらいなら平気でしょ!」
「姐さん、私はまだそんな能力ないですけど!」
「え、縄文人の先輩が教えてくれなかったの?……大らかな奴だね。じゃあ教えるから。」
「それと、ちょっと質問なんですけど。AIのバグで人間的な感情を持った存在が、魂で会話できたんですが……」
「あー、八万年前に事例があるよ。人間に転生希望だろ?」
「そんな事例があったんですか……」
一通りのレクチャーを受けて、私は二箇所を管理することになった。姐さんは一言だけ残して消えた。
「じゃあ直道、百年間よろしく。私、休憩するから。」
休憩って、人間でいうと座ってお茶するだけで、百年なんてすぐに過ぎるんだけど……。
さて、緊急にイザベルとバレリアに連絡を取るとしよう。
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イザベル、バレリア……伝えたいことがある。
「管理官様、何でしょうか?」バレリアは反応が早い。イザベルは――
「あ、管理官?……猫やめたの?」相も変わらずだが、いや、成長したか。
「この度、この惑星の管理官から許可を得て、二人を見守ることになった。何か質問はあるか?」
「これから、私たちどうなるんですか?」
「それは分からない。王国次第だ。ただ、お前たちの鑑定に干渉して人並以下にしたから、外で自由に暮らせると予想する。」
「そんな技術があるのですか。興味深い。」バレリアらしい答えだ。
「外に出たら自由に暮らせ。バレリア、お前の発信した信号で間もなく宇宙要塞が来るだろう。これは地球の要塞ではないが、問題ない。それと数日後、脅威を消す。くれぐれも都から離れないこと。」
「あの……私たち、帰ることは出来るんですか?イバンに会いたいし、男爵の件もあるし……」
「私は干渉できない。ルール上な。召喚師の知識があれば可能かもしれない。……時間だ。見守っている。」
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外が明るくなり、扉を叩く音とメイドの声がした。朝食を届け、一時間後に呼びに来るから、それまで待機してくれ――そう伝えられ、大人しく待機していた。
「失礼します。よろしいでしょうか!……ご案内します。」
私たちは衛兵の後をテクテクとついてゆき、大きな扉の前で待機した。声が掛かり、中へ入る。執務室のようで、中には召喚師の女と中年の男、そして身なりの良い男が待ち構えていた。男が言う――摂政からのお話だ。
「二名の女よ、自由に暮らせ。以上だ。」
二名の女、名前も聞かないのか?我々の評価だろう。
「召喚師についてゆき、今後の説明を受けろ。以上。」
今回の件で召喚師の立場は悪くなった。可哀想な気もするが、我らは被害者だ。気にする必要もない。
我々は彼女の後をついて城を出て、北側の門を通過し、二十メートル先の別の建物に入った。研究室なのか分からないが、彼女はブツブツと独り言を言いながら歩き、執務室の中へ、ゴッ、ゴッと咳払いをして――
「私はアンナ。キャンベル男爵家の長女で、この研究所長です。貴方たちには、この国の制度と市民としての義務を話します。まず、市民が……」
長い話が終わり、バレリアが質問した。
「この国の税について……最後に、我々が帰る魔法はあるのか?」
アンナは冷徹に回答する。
「伝説では帰った話が一例ある。でも極秘なので教えられないし、今の私には出来ない。魔法に関しては……ここに行って聞くといいわ。」
そう言って渡されたメモ書きを見たが、字が読めないことが分かったのでスルーした。
最後に――
「この金貨で一ヶ月は暮らせる。その後は自分たちで努力してね。」
袋を渡され、自由になった。
「帰る目処が立ちました。アンナをマークしました。これでアンナの所在を把握できるようになりました。外で秘伝の魔法を聞き出せます。」
――でかした。これで金策と拠点を探さなければ。とにかく情報収集だ。宿屋を借り、周囲を散策して、一日が終わる頃には簡単な読み書きができるまで学習できた。情報はバレリアを通して私の端末に転送され、この世界の社会の仕組みが共有された。
現在地はウェールズ王国、南の都カーディフ。地球のイギリスと同じ地形だと、管理官から教えてもらった。イベリア大陸もそうだが、不思議な“つながり”を感じる。
かつて覇王ミラーが召喚され、十五年の戦いの果てに魔王を討ち倒した。その瞬間からアルビオン大陸の暦は「始まり」と定められ、今――暦は千四百八十五年、三月三日だと分かった。
私は一人だったら詰んでいたし、余裕もなかっただろう。孤独の恐怖を噛みしめた瞬間、隣にいる彼女の存在が何よりも救いだった。
「バレリア……愛しているから。」と心から伝えた。




