究極のざまあ展開
「なあ…… 肝一……選手」
意を決して、東はワークアウト中の肝一に話しかけた。
肝一は、東の事を覚えているのか、覚えていないのか、曖昧な表情を作り、
「はい……」
東は目を閉じ、息を吸って、思いの丈をつぶやいた。
「聞きたいことが……あるんだ……」
肝一は、明らかにわざとらしく、
「なんでしょう?」
と白々しく答えた。
「……あんたの……トレーニングで、鍛えられるのは肝臓だけか?」
「それはどういう……?」
「腎臓は! …… ……腎臓は鍛えられないか?」
「腎臓?」
「実は……」
東はここ数年で、心なしかジムに現れる回数も減り、心なしかサイズダウンしていた。
「実は、婚約者が人工透析を受けてるんだ……難病でな……」
肝一は、それに対し、対して興味もなさそうに、
「それは大変ですね」
と白々しく答えた。
「なあ! あんたは肝臓を鍛えられるんだろう! 腎臓は! 腎臓を強くする方法はないのか!?」
「なら……」
肝一は、意地悪な笑顔を浮かべ、ポケットから5個ほどの大粒の飴玉を取り出した。
「条件がある。これを全部口に含め。脳筋」
「……く……」
やはりこの男、東を覚えていた。
東は最初こそ戸惑っていたものの、切羽詰まった顔に戻り、飴玉を受け取った。
…… ……その姿を肝一が見た瞬間である。肝一は、突然涙して、天を仰いだ。
息が震えている。
「……『究極のざまあ展開』だ……」
すると、東は悲しく笑い、
「…… ……ゲームの言葉だろ」
すると、肝一の顔は突然東に正体し、泣きながら東の肩を掴んだ。
「違う!! 俺のいう『ざまあ展開』はそんなものじゃない!!
『ザ』・『マ』ッスル・『ア』クション展開!
略して『ザマア展開』だ!!」
「え? え?」
「俺はなあ、こんなことをお前に言うのは不謹慎なのを承知の上で、
今感動しているんだ!」
肝一の顔は真剣そのものだ。東は訳もわからず困惑した
「脳筋……人間とは……怠惰で文句ばかり言う生物だ。
だがな、怠惰を捨て去った時、ストイックに、いや、『一生懸命』になっている時、
不思議と『文句』を言わなくなるんだ!!
『文句』が『相談』に変わる……
これは大きな進化だぞ!! 脳筋よ!!」
肝一は東の胸に顔を埋めて泣き出した。
「そ……それで、どうなんだよ。腎臓を鍛える方法はあるのか」
「…… ……残念ながら脳筋よ、俺は力になれないかもしれん。
腎臓の鍛え方など、俺には見当もつかん」
「そんな……」
「しかし! 俺をみろ脳筋!! この肝臓を!
俺とお前、同じ人間で同じ男で同じ日本人だ! 俺にできてお前にできないわけがない!!
……いま、お前にできることを考えて、それをやれ! 脳筋!」
「俺に、できること……?」
「そうだ。『今』に集中するんだ。
今お前に何ができる?
未来を憂うな。
過去に不満を持ちすぎるな。
今なんだよ!
今! お前ができる事に一生懸命になれ!!
そうすれば、過去の不満は消える。未来の不安も消える。
そう言う人間には、『向こう側』からきっと手を差し伸べてくれるはずだ!!」
「……わかった。 ありがとう」
東は覚悟を決めて、肝一に背を向けた。
「待て! 脳筋!」
「……?」
「俺は今、大きなプロジェクトを立てようとしている。そのために、『リアル・インナーマッスラー』達を育成している。
今は肝臓部門だけだが……もちろん手を広げるつもりだ。
俺の弟子になれ東。一緒に、腎臓の鍛え方を考えよう!」
今度は東が涙を流し、肝一の方に向き直った。
「…… ……お願いします!!」
みよ。
これが、究極のざまあ展開だ。