表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

伝説の幕開け


伝説のボディービルダー、ロニー・コールマンは言った。


「クレイジーな奴だったよ。あんな日本人は見たことがない」


 ジェイ・カトラーは言った。


「絞りすぎだし体も小さいし、なんでこいつがここに? あの会場にいたやつはみんなそう思ってただろう。

 俺もそう思った。しかし、

 あいつのアレを見た瞬間だったよ。

 ……あいつは客席のブーイングを ■■ で黙らせたんだ」


 そして、アーノルド・シュワルツネッガーは言った。


「まさに、ボディービルのネクストステージだ。私たちは体をデカくするあまり、

 足元を見失っていたのかもしれない。

 彼の評価は誰にも下せない。しかし、間違いなく彼はボディービルダーに革命をもたらしたんだ

 それがどれくらいのことか、想像できるかい?」












――――――――――――――――――――――――――――――――――――





名前:神田肝一。


性別:男性。


年齢:42歳厄年(そう書いてあった)


身長:179㎝


体重:63kg


自分のお体で気になるところはございますか? : その他 、肝機能の数字が悪い。酒に弱くなった。







当ジムのご利用目的:その他  肝臓を鍛えにきました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



  世田谷区某所のゴールドジム。


 経営2年目にして赤字続きで首が回らない状況である。


 そんな中現れたこの新規入会員の男であるが、

チェックシートに書かれていたのは、インストラクターの久保田にしてみれば初めて見る内容だった。


 それはどちらかというと、内科のカルテに近いものだった。


「肝臓……? ですか?」


「はい。肝臓を鍛えにきました」


 男は酔っているようでも、ふざけているようでもなかった。


「肝臓は……鍛えられませんね。内臓なので」


「『困難とは寛容より15分時間がかかることを言い、不可能とは困難より15分時間がかかることを言う』……私はそうやって生きてきました」


「いえ、そうではなくてですね……」


「ある日私は、自分の肝臓の『声』を聞いたのです。

 ……肝臓は『沈黙の臓器』と呼ばれているそうですね。

 しかし私は確かに聞きました。あれは……大好きなレモンサワーを飲んでいる時でした。

 『肝一! やめろ! もうやめろ!!』……あれは確かに私の肝臓の声でした」


「はい。あのー……」



「根性には自信があります! 昭和生まれですから!!

 早寝早起き! ストイックな自制心! やり切るまでやめない野生の心!

 備わっています! 私は昭和の残党ですので!!」


「ええ……貴方の意気込みはわかりました。しかしね、肝臓はジムでは鍛えられないのです。

 それはどちらかというと医師とか栄養士の領域なので……」


「なんでもやります! 肝臓のためなら私は負けません!!

 タバコもケーキもやめました!!」


 ……タバコ関係ないんだよなあ……


 会話がどうにも一方通行だ。しかし、新規顧客を迎え入れたいジムと、体(?)を鍛えたい顧客。

需要と供給が噛み合ってしまったのだ。


 断る理由もないと言うので、一応「健康維持」と言う名目でこのゴールドジムは神田を入会させた……。


 これが、後にボディービル・ひいてはフィジーク界隈で伝説となる、神田肝一の伝説の幕開けだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ