表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

父の遺書書

エリザ、私は共和国の理想を守りきることができなかった。だが、お前にはその道を進んでほしい。


この国がどこへ向かうのか、私にはもう分からない。


ただ一つ確かなのは、私はこの手で何も成し遂げることができなかったということだ。


共和国は理想を掲げながら、その理想を信じる者を容易く切り捨てる。清廉を説きながら、その実、力ある者たちは己の利益のために清廉を装う。私はその構造を知りながら、それでもなお、この制度の中で戦おうとした。


私は誤ったのかもしれない。


正しさとは何か。清廉であることが正義なのか。それとも、正義を貫くためには手を汚すことも許されるのか。


私は、理想のために妥協し、理想を守るために不正を行った。


だが、理想を守るために理想を壊したのなら、それは果たして正義と言えるのだろうか。


私は、この国のためにできる最後の務めを果たすつもりだ。


だが、これからの共和国を決めるのは、私ではない。


私は過去の人間だ。新しい未来は、これからの時代を生きる者たちが形作るものだろう。


ただ、一つだけ――


正義とは、必ずしも清廉である必要はない。しかし、清廉ではない正義が、いつしか本物の腐敗と見分けがつかなくなることもある。


その境界線を、これからの時代を生きる者たちが見極めなければならない。


私はここで筆を置く。


共和国のために、最後の務めを果たす時が来た。


ヴァリス




エリザは静かに紙を折りたたんだ。


震える手で、父の書斎の机の上にそっと置く。


窓の外では、寒風が吹き荒れ、共和国の都ヴェルティナの鐘が重々しく鳴り響いていた。


彼女は、小さく息を吐き出しながら、ぽつりと呟いた。


「父は……私の枷を外してくれたのね。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ