「腐敗の果て」
「灰燼の統一」は、3つの異なる国家の対立と統一を描く壮大な物語です。本作では、腐敗した共和制国家「フィルクレス共和国」、専制的だが力と秩序を重視する「ザハルヴァル大帝国」、そして中立を保ちつつ独立を維持する小国「レリスタン王国」の3つの勢力が対立し、やがて統一へと向かう過程を描きます。
共和国は理想を掲げながらも腐敗し、貴族と商人が支配する寡頭制に陥っています。一方、帝国は武功と実力主義によって統治され、強大な軍事力を誇りながら拡張を続けています。小国レリスタンは、魔術と外交の力で二大国の狭間で生き残る道を模索しています。
この物語の核心は、各国の指導者や主人公たちの価値観と信念の衝突です。理想主義と現実主義、自由と秩序、個人の意志と国家の存続――そうした対立が物語を動かしていきます。最終的に「統一」は訪れるのか、そしてどのような形で実現されるのか。それぞれの国家と登場人物が、歴史の大きな流れの中でどのように変化し、選択を迫られるのかが描かれます。
重厚な広間に響く審判の声
重厚な広間に、共和国議会の使者たちの足音が響いた。
高い天井に音が反響し、豪奢なシャンデリアの光が彼らの無機質な顔を照らし出す。
使者たちは整然と並び、書状を広げた。
「ヴァリス議員。賄賂に関与した証拠が発見されました。この屋敷および財産は、すべて翌日没収となります」
その言葉が落ちると同時に、部屋全体が静まり返った。
使者たちの声は機械的で、無慈悲な響きを持っていた。
長い沈黙のあと、ヴァリスはじっと使者を見つめ、低い声で問いかける。
「……証拠を見せてくれ」
使者は無表情のまま、封を切られた書類を掲げた。
そこには、ヴァリス名義の金銭取引の記録が記されていた。しかし、それは――
(あの取引か……)
ヴァリスは目を閉じた。
それは彼にとって正義のための行動だった。
だが、その帳簿にはただの賄賂としか記されていない。
「……分かった」
声がかすれていた。それ以上、何を言っても意味がないことを悟っていた。
父の沈黙と娘の叫び
エリザ・ヴァリスは、その光景を信じられない思いで見つめていた。
彼女にとって、ヴァリス家の名は共和国の理想を象徴するものだった。
父は誠実な政治家であり、民のために尽くしてきたはずだ。
しかし今、その名は一瞬で泥にまみれた。
「父さん、何か言って!」
エリザは叫び、前に進み出た。その声は怒りと困惑に満ちていた。
「この裁定は間違っている! 父は共和国の理想のために尽力してきた人です! こんな仕打ちは――」
使者の一人が冷ややかに言葉を遮った。
「共和国は平等と正義のために存在する。しかし、その名を汚す者に対しては裁きを下す」
「間違っています!」
エリザの叫びが広間に響いた。
使者たちの視線が一瞬エリザに集まるが、すぐに興味を失ったように目を逸らす。
彼らにとって、ヴァリス家の没落はただの形式的な処理にすぎないのだ。
「エリザ、やめなさい」
父アルトゥールが静かな声で言った。
その言葉には怒りもなく、ただ沈んだ疲労だけが滲んでいた。
「でも、父さん……!」
エリザが食い下がると、ヴァリスは震える声で再び言った。
「やめなさい。これ以上、無駄なことを言うな」
その場にいた誰もが、ヴァリスの諦めた姿を目にした。
しかし、エリザだけはそれを理解できなかった。
父の遺言
その夜――。
エリザは父の部屋を訪ねた。
だが、普段は書類や本で散らかっている書斎は、異様なほど整然としていた。
机の上には古びた共和国の宣言書の写しと、一枚の白紙が置かれていた。
「父さん……どうして何も言わないの?」
エリザが問いかけると、父はゆっくりと振り返った。
その顔には微笑みが浮かんでいたが、それはどこか儚いものだった。
「エリザ、座りなさい」
彼の声は穏やかだったが、底知れぬ重さを含んでいた。
エリザが椅子に腰を下ろすと、父は机の引き出しからインク瓶を取り出し、静かに言った。
「お前はまだ若い。だから分からないだろう。だが、共和国の理想を信じ続けるというのは……想像以上に辛いことだ」
「父さん、何を言ってるの? あなたが教えてくれたじゃない、共和国の理想がすべてだって!」
エリザの声は震えていた。
「そうだ。私もかつては信じていた。しかし、その理想を守るためには……妥協しなければならないことがある。お前には分からないだろうが、この国を動かすには、綺麗ごとだけでは生きていけない」
「それでも、正しいことをしなきゃいけない!」
エリザは立ち上がり、父の机を叩いた。
その態度には若さゆえの激しい正義感が溢れていた。
父ヴァリスは静かに目を閉じた。
「お前のその言葉を、私は嬉しく思う。だが……私は疲れたよ、エリザ」
そう言って、父は机に向き直り、何かを書き始めた。
それが、エリザと交わした最後の会話となった。
父の最期と娘の決意
翌朝――。
エリザ・ヴァリスは、膝をついたまま動けなかった。
冷たい朝の光が、庭の凍てついた土を照らしていた。
(父さんが……死んだ?)
喉がひりつく。息が詰まる。
書斎の灯火は、すでに半ば燃え尽きていた。
アルトゥール・ヴァリスは静かに短剣を握りしめていた。
「すまない、エリザ……」
かすれた呟きが、静かな部屋に溶ける。
そして――。
短剣が肉を裂く冷たい感触が走る。
机の上に置かれていた手紙が、血の飛沫を浴びて染まった。
エリザは震える手で紙を拾い上げた。
『エリザ、私は共和国の理想を守りきることができなかった。だが、お前にはその道を進んでほしい』
「……私は、違う道を行く」
それは復讐ではない。
父が信じたものを、自分自身の手で守るために。
――正義が、何なのかを知るために。
冷たい朝の光の下、エリザは最後の涙を流し、ゆっくりと立ち上がった。
なかなか、いいねがつきません。今度こそと思って、前作からかなり考えて考えて作り直しました。
いいねがついたら、次章を書きます!!!よろしくお願いします。