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北極星

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 北極星を見上げる。ポーラスターと呼ぶよりは「北極星」という言葉の方が好ましい。明るく夜空に輝いていて、常に北を指している。


 そんな人になりたいと私は密かに思っている。でも、若い頃はケンカしたり、裏切ったりして自分が惨めに思えるときが多かった。ギャンブルや風俗に耽溺し、離婚して子供を手放した。元妻は子供に会わせてくれないので、どんな風に成長して、どんな風に暮らしているのか知らない。


 私ももう孫が居てもおかしくない歳になった。子供に再会する日を夢見て、ギャンブルは止め風俗通いもキッパリ止めてその時間を読書や勉強に充てることにした。貯金もでき、資産運用を始め老後に困らない程度のお金を得た。


 近所の小さな禅寺に通って座禅をするようになった。いつしか、初心者の世話をする役になった。

 ある日、どこで個人情報が漏れたのかオレオレ詐欺の電話が掛かって来た。


――うわぁあん、おじいちゃん。会社の金使い込んで警察沙汰になりそうだよ!

 孫が居てもおかしくないけど、成人するほど歳取ってないわ。


――お父さんの名前を言ってみろ

 と、畳みかけた。


――浩二

 合ってる。子供の名前だ。本物か?


――おばあちゃんの名は。

 電話は元妻の名前を答えた。本物かも知れない。昔の私なら助けていたかも知れないが、今の私は変わっていた。


――君、会社の金を使い込んだのは犯罪だよ。それは自覚しているかい? 自分で責任を取ってなんとかするんだ。自分で考えた結果がこれかい? それは間違っている。弁護士頼んで分割で返すのが筋ってもんじゃないか?


――ちぇっ、おじいちゃんに頼ろうとしたのが失敗だったよ。

――おじいちゃんなんて居ないんだよ。とうの昔に死んでるさ。

 私は返事して電話を切った。


 離婚時の弁護士を通じて、元妻に手紙を出した。こういうことがあったけど断ったって。

 そうしたら元妻から「頼りにならない人ね」という返事が来た。


 どうやら、本物の孫が連絡してきたらしい。ただし、中学生だそうだ。昔の私とお似合いの元家族。ああ、割れ鍋に綴じ蓋というのは本当だな。


 もう私は、安易に振り回される人間ではなくなってしまった。元妻の一家とは合わない人間。それがちょっと悲しくて、でもそれでいいと思えるようになった。


 私は北極星のように死にたいと思っている。


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