第61話 「成長……してますかね?」
「あ、そういう意味だったんですね」
リュカの顔から不安の色が少しだけ薄れる。
もしこれがキャサリンだったら――未完成だろうが、失敗して大ピンチになる可能性があろうが――後先考えずに自分が使いたいという価値判断だけで使うだろう。
キャサリンは一事が万事、そういうパリピでイケイケドンドンな性格をしている。
だけどリュカは違う。
リュカは事前に練習して完璧にできるようになったことだけを、
やりたがるタイプだ。
だから俺もずっと、アレは使わないでいいと言い続けてきた。
リュカはデュエル・アナリストとしての俺を相当、信頼してくれている。
そんな俺が『使っていい』と言ったからと忖度したリュカが、使わなくても勝てるデュエルで無理してアレしてしまい、それが原因で負けてしまうことを恐れたからだ。
せっかく素晴らしい成功体験を積み重ねているリュカに、余計なことをさせてしまって、不要な失敗体験をさせたくもなかった。
(これはもう完全に大人の打算なのだが)
リュカは勝利を積み重ねる過程で、姫騎士としての自信も着々と積み重ねつつある。
それを壊したくなかったから、俺はここまでリュカには不要な冒険はさせないで来た。
だが今回の相手は違う。
失敗して負けても『そもそも相手が強かった』で言い訳がつく。
大きな失敗体験にはなりにくい。
アレを試すならこのデュエルを置いて他にはない。
「まだまだ問題点は多いものの、俺の見立てではアレはなんとか制御できるところまで来ていると思う。少なくともダメ元で一発逆転のバクチをできる可能性くらいはあるはずだ」
俺はこれが勝利のために必須な要素ではなく、ある種のギャンブルに過ぎず、失敗しても何の問題ないということをリュカに丁寧に説明した。
「負けそうになって何もせずに負けるよりは、未完成でもアレを使って勝負をかけろってことですね?」
「そういうことだな。想定ポイントは相手の魔法の撃ち終わりだ。事前データにもあるように、ティファニアは魔法と魔法の繋ぎにわずかなロスがある」
「特にロスが出やすいのが、大技を使った後ですよね? 具体的にはライオネル・ストライクです」
今回もデータを完全に丸暗記しているリュカが素早く答える。
「ああ。と言っても弱点というほどでもないんだがな。それでも魔法の撃ち終わり、次の魔法に入る前のタイミングにうまく噛み合えば、勝負を決める強烈な一撃を入れることは可能なはずだ」
「いくつか使えそうなタイミングや状況は、イメージできています」
さすが天才のリュカだ。
リュカの脳内高速シミュレーションは、既に使える状況を導きだしているようだった。
「それにリュカは最近、空中逆上がりもできるようになったよな? 当初と比べて、空中での身のこなしは格段に進化している。それもアレを解禁する判断を支える1つの要因だな」
「できると言っても10回に1回くらいですけどね」
リュカが謙遜したように苦笑する。
「前は普通の逆上がりすら1回もできなかったんだぞ? そこから比べたら雲泥の差じゃないか。最近のリュカの成長ぶりには俺も目を見張るものがあるよ。そこは自信をもって大丈夫だ」
毎日のように暇さえあれば逆上がりの練習をしている姿を、俺は何度も目にしていた。
今のリュカはもう、運動が嫌いで、歩くだけでこけていた昔のリュカではない。
「成長……してますかね?」
「もちろんさ。断言できる。とは言うもののだ。どうしようもなくなった時の最後の切り札だから、あくまで気楽にな。仮に負けそうになったとして、何もしないで負けるよりは、何かして負けた方がいいってくらいの軽い気持ちで使おう」
「はい!」
「逆に、勝てそうなのに無理に使っちゃいけないぞ? そこはケース・バイ・ケースだ。アレを使う使わない含めて、全ての判断はリュカに任せる。これはリュカのデュエルだからな」
「分かりました」
リュカが納得を示すように、しっかりと首を縦に振った。




