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第55話「ヤマトさんは時々嘘つきだけど、嘘の理由が正しいから信頼できる人だと思う」

「まぁ、そうだな」

 もうこれは習性みたいなものだから仕方ない。


「残念ながらそれは私には通じないから。いろいろとヤマトさんのテクニックを知っちゃっているもの」


「だけど――」

「だけど、心配していないわけでもないのよね?」


 反論しようとした俺の言葉に重ねるようにマリーベルは言うと、してやったりといったように小悪魔っぽく笑う。


「それもお見通しか」


「いろんなヤマトさんを見てきたからね。今日だって無理やり難癖を付けてかばってくれて、決闘の結果を先延ばしにもしてもらったし。ヤマトさんは時々嘘つきだけど、嘘の理由が正しいから信頼できる人だと思う――ミューレさんの次くらいに」


「おおっと? それはなかなかの高評価だな?」


 マリーベルが苦しい時代の自分を支えてくれたミューレを慕っているのは、周知の事実だ。

 そのミューレの次ってことだからな。


「だから私が全力で戦えるようにできるなら、して欲しい。私はアリッサに負けたくない。アリッサに負けたら、私を見捨てたローゼンベルクに負けることになっちゃうから。それは嫌」


「それも分かっているさ。俺も全力で対処法を考える。だからマリーベルも一緒に頑張ろう。バーニング・ライガーとのデュエルまでもう数日しかないが、なんとか全力を出すことへの恐怖心を取り払うんだ」


「うん」


 こうして俺はマリーベルのデュエル・アナリストとして正式に行動することになった。



 その後、今さらになって起きてきたミューレに事の次第を話した。

 (もちろん昨日も夜遅くまで仕事をしていたので、責められはしない)


「そうか、大変だったね」


 ミューレはそれだけ言うとマリーベルを優しく抱きしめた。

 抱きしめながら背中をゆっくりとさする。


 その姿はまるで本当の母娘のように、俺の目には映った。


 ミューレに抱かれながらマリーベルは肩を震わせていた。

 気丈に振る舞っていてもまだまだ多感なお年頃だ。


 泣いているんだろうと察しを付けた俺は、そっとその場を後にした。

 俺がいたら、声を出して泣くこともできないだろうから――。



 その日の夜。

 俺はミューレの部屋に話をしに行った。


「俺が付いていながらこんなことになってしまって悪い。決闘は何がなんでも止めないといけなかった」


 何はともあれ、今日の失態を謝罪する。


「急だったんだろう? いきなりアリッサがやってきて決闘になって、マリーベルまで乗り気だったのなら仕方ないさ。私がいても止められなかっただろうから、ヤマトが気に止む必要はないよ」


「そう言ってくれると、少しは気も楽になるかな」


「それにね」

「ん?」


「私はマリーベルがローゼンベルク家と和解することは、悪いことじゃないと思っているんだ。ローゼンベルク家は決してマリーベルを見捨てたわけじゃない。ただ少し、いろいろなタイミングが悪かっただけで」


「そうだな。和解すること自体は俺も悪いことじゃないと思う」


「だけどそれと同時に、見捨てられたと感じたマリーベルの気持ちも痛いほどに分かるんだ。かつての私も、同じように思ったからね。ファンもスポンサーも何もかも、みんないなくなってしまった。本当に辛かったよ」


「マリーベルの気持ちを本当の意味で分かってあげられるのは、きっと同じ境遇を経験したミューレだけなんだろうな」


 裏方の俺は頭では理解はできても、実感として想いを共有してあげることは絶対にできない。


「だからマリーベルが勝って気持ちよく和解してくれたら、私としては言うことがないんだ。ある意味これはそのチャンスとも言えるだろう?」


「ポジティブ・シンキングだな。そういうのは嫌いじゃないぜ」


「マリーベルは勝てるかな? 誰もが認める最強のアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに」

「勝つしかないんだから、勝つしかないだろ?」


「ふふっ、なかなか悪くないトートロジーだね。期待している――と、さすがにそこまで君に押し付けるわけにはいかないが、よい結果が得られることを祈っているよ」


 一人立ちしかけの娘を思う母親のような優しい笑みを、ミューレが浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔力齟齬を発症後ファンやスポンサーが離れて行き 同じ辛い思いをしたからこそミューレさんと マリーベルさんは信頼しあえていると感じます。 [一言] この先も応援させて頂きます。
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