第28話 姫騎士デュエル・マスタールール第6条『姫騎士道に基づくべし』(ざまぁ)
「おいアスナ、やめろ。俺は別にそれは求めてない」
約束という言葉に、俺はすぐにアスナの意図に思い至り、アスナを止める。
しかしアスナは言った。
「あのねヤマト。これはヤマトが求めているかどうかは関係なくて。この女にざまぁさせてアタシが気持よくなりたい――ためでももちろんなくて。これはね、キャサリンさんのために言ってあげているのよ」
「キャサリンのため? どういう意味だよ?」
っていうか今、ポロっと動機を自白しただろ。
アスナはデュエル前にキャサリンに絡まれた時に、『なにあの女、マジクッソむかつくんですけど! 絶対に後で吠え面かかせてやるわ!』とか言っていたもんな。
今からアスナはそれを実行しようとしているのだ。
可愛い顔をしているけど、アスナはけっこう執念深い。
昔、俺が間違えてアスナのプリンを食べた時なんて、そのあと数か月に渡ってスイーツを奢らされ続けたからな。
「姫騎士デュエル・マスタールール第6条『姫騎士道に基づくべし』。前年2位のそれはもう素晴らしい姫騎士さんに、約束を破るなんて姫騎士道にもとるようなことをさせるわけには、いかないものねぇ?」
アスナがニヤァと悪魔のような笑みを、キャサリンに向ける。
「まぁその、そう言われると、俺もちょっと強くは言えないんだけどさ」
でも第6条は本来、デュエル中の反・姫騎士道的行為を防止するためのものであって、デュエルの外にまで強い強制力があるってわけじゃないんだぞ?
たしかにこの第6条を根拠に、メディアなんかが『姫騎士の品格』がどうの言うこともあるけれど。
それでも犯罪を犯したりでもしない限り、デュエル外のことで実際に第6条でペナルティが課されたことは、過去に1度も例がなかった。
「く……っ!」
しかしアスナの言葉に、キャサリンは言い返すことができずに唇を噛みしめながらキッと強く睨んだ――アスナではなく俺を。
なんで俺を睨むんだよ。
俺は『それは求めてない』って言ったじゃん。
「というわけで、ちゃんと約束を守る機会を与えてあげるね。はい、どうぞ」
アスナがわざとらしく耳に手を当てる。
「私が……ていました」
「え? なにぃ? 声が小さくて聞こえなーい」
「……っ! わ、私が……」
「私が~?」
アスナが語尾を伸ばしながらいやらしく聞くと、キャサリンは再びキッと俺を睨みつけながら怒鳴るように言った。
「私が間違っていました! あなたをクビにしてごめんなさい! はい、言ったわよ! これでいいでしょ!」
「はい、よくできました~。えらいですね~。花丸あげちゃうね~」
「だからアスナもあんまり煽るようなことを言うなっての」
ゴッド・オブ・ブレイビアにいれば、これからも何度も当たるんだし、他のチームとの無駄な軋轢は生まないに限る。
「はーい」
キャサリンをざまぁさせたことで溜飲も下がったのか、アスナは素直に引き下がったのだが。
「今日のこの屈辱は、必ず晴らすわよヤマト! ドラゴンキング・トーナメントであなたのところと当たったら、百倍にして返してあげるから覚えていなさい!」
「だからなんで俺に言うんだよ……俺は何も言ってないじゃん……」
呆れるように呟いた俺の言葉を最後まで聞くことなく、キャサリンは肩を怒らせながらズンズンと歩いて行ってしまった。
フレースヴェルグのメンバーたちは、俺たちに小さく頭を下げるとキャサリンを追っていく。
無駄な軋轢は生まないに限る……んだけどなぁ。
「さーてと。やることはやったし、じゃあ帰ろっか。みんなはまだ取材に時間がかかりそうだし、アタシたちは先に撤収!」
「……そうだな」
終わってしまったものは仕方ない。
大人しく受け入れよう。
「お腹減ってるでしょ? 近くに美味しいパスタ屋さんがあるって友達が教えてくれたから、そこでご飯食べて帰ろうよ。ミートバスタが激うまなんだって♪」
「アスナは本当にマイペースだな」
俺は苦笑しながら、さっさと歩き出したアスナの隣に並んだ。
このあと一緒に行ったパスタ屋は、勝利の余韻もあって最高に美味しかった。




