七 猫を探して
猫騒ぎはひとまず落ち着いた。しかし、犯人の目的すら検討も出来ない。
明希達は犯人に迫れるのか?
明希から命じられて、あたしは情報の洗い直しに取り掛かった。
まずは被害届。そして人に戻るまでの日数。そして聞き込みの情報、それに加えて被害者への確認。
三日間この三つをまとめて、わかった事が一つある。
「ホンッと! 戻っても届けないの!」
「なるほど」
遅い夕食をとりながら、あたしは明希にグチった。
「この人まだ戻ってないな、って思って確認で電話すると『あ、連絡忘れてました』ってホンッとバカにしてると思わない」
「確かにね」
自分で命じた事なので、明希もあたしのグチを邪険にしない。
それどころか、遅くなるあたしのために晩御飯まで作ってくれた。
ご飯とお味噌汁と、焼き魚とかレトルトのハンバーグみたいな簡単なおかず。
もう、それだけで嬉しくって明日も頑張ろうって思えた。
ちなみに、今日はレトルトのハンバーグとご飯とお味噌汁。なんと、サラダまでついている。
多分、買って来た物だけど嬉しい。
「人間は日常に戻ると、それまでの事を忘れるものだな」
「そういうモンなの?」
珍しく物分かりのいいような事を言う明希に、あたしは驚いた。
「というか、困ってない人は声を出さない程度の話だと思うが。逆に猫になっても困ってない人は、被害届を出して無いかもな」
「えー、そんな人いる?」
「猫好きの独居老人……とか、すまない、思いつきだった」
「あーでも、猫のまま亡くなった人とかは被害届が出ないかも?」
「その場合、どうなるのか。人に戻るのか、猫のままか? もし猫のままだと行方不明者になってるかもしれない」
そこに思い至って明希は、渋い顔になった。もし、犯人の狙いが殺人の隠蔽ならば、被害者は行方不明のままで、事件が終わってしまうかもしれない。
「今のチェック、一回終わったら事件前後の行方不明者も洗う? あたしは別にいいよ、まだまだ元気だし」
本当は少し疲れて来ていたけど、恋人の明希が言うなら、もう少し頑張っちゃおうと思っていた。
「ダメだ、手を広げるなら今の線を終わらせてからだ。それに……環の体にも良くない」
「明希……」
あたしは、明希がいつになく真剣な表情をしてくれた事がうれしかった。
「無理はしないで、環」
「うん、わかった」
あたしは、ちょっとぽーっとしながら答えた。
明希があたしの事を心配してくれている事が、すごく嬉しかった。
「ご飯食べたら、今日は寝て。あとはやっておくから」
「ありがとう、明希」
そう言われて、明希は少し照れたように答えた。
「無理をお願いしているのは、私だから……」
あたしは変わり者の上司で、優しい恋人のためにも明日も頑張る! そう心に誓った。
次回は12/26火曜日の8時更新予定です。