六 猫の痕跡
刑事で上司で恋人の楡松明希警部が猫になってしまった、突然の事に嘆き悲しむ関根環巡査部長。果たして明希は人に戻れるのか?
「どうも納得いかない」
翌朝、コーヒー片手に明希が切り出した。
あたしはよく寝たので、スッキリしていたが、明希は少し眠そうだ。
本当に、猫化の影響なのかも?
「何がですか?」
署内のデスクは隣にあるのに、明希は横に立って話し始めた。おかげで、あたしは彼女を見上げる格好になった。
「時間がたてば人に戻る、その二、三日の間に何ができる?」
「窃盗とか、なりすましとか? ですかね?」
明希は、あたしの答えに満足そうにうなずいた。
「だとしたら、なぜ被害届が出ない?」
「まだ、猫のままとか?」
どうやら明希の引っ掛け問題に、見事にハマったようだ。それで満足げだったのか。
「しかし、猫でも話はできた」
「できましたね」
「ならば何か被害を受けたなら、誰かに話せばいい」
明希はコーヒーを一口飲むと、不満そうにいった。
「中途半端なんだ、何もかもが中途半端に始まって、終わっている」
「完璧な犯罪なんてないですよ」
あたしの答えに、明希はムッとしたように答えた。
「そういうレベルにも達してない」
確かに、明希のいう通り何かの犯罪だとしたら穴だらけの様に見える。
「どうも見落としというか、簡単すぎて見逃してる点がある気がする」
「それどころじゃなかったですし」
あたしは、少し皮肉めいた言い方をした。
意地悪だったかな?
「うー、それはそうだが」
明希は、不満そうに言った。
「まあ、その、埋め合わせと言うか、猫になっていた間の借りは近々返そう」
「本当! ……ですか」
素で喜んでしまった、別に何か返して欲しいわけでは無いが明希から『感謝』されるのは素直に嬉しい。
「そこで、だ」
明希はようやく本題に入るらしく、ぐっと顔を近づけて来た。
本当、明希の顔は近くで見ると目が綺麗だし、童顔だから美少女めいていて可愛い。
少しボーイッシュなところが、すごくいい。
「もう一度、情報を洗い直そう」
「はぁい」
明希の顔に見惚れて、返事がポヤポヤになってしまった。いけないいけない、ここは職場なのだ。
「ぐ、具体的には何を?」
あたしは、無理やり表情を引き締めた。
「新しく猫になっている被害者がいないか。それと、被害者が人に戻るまで何日かかったか」
「戻るまでの日数? ですか?」
あたしは、怪訝な顔で聞き返した。人に戻るまでの日数はある程度把握しているはずだ。
「さっきいった通り、数日で出来る事は少ない。だが、猫化が長ければ、出来る事が増えるかもしれない」
つまり、平均より明らかに長い被害者がいればその周辺に何かあるかもしれない。逆に短すぎる被害者がいればそれも怪しい。
「警部はターゲットが猫の中にいる、とお考えなんですね」
「逆に犯人もいる可能性も、考えている」
明希はそういうと、コーヒーを飲み干した。
「あくまで、可能性だが」
明希は空になったマグカップをデスクに置くと続けた。
「ここまでコケにされたんだ、見返してやらないとな」
次回は12/25月曜曜日の8時更新予定です。
今回更新に誤字等の修正が、間に合わなかったため、
次回更新で誤字等の修正が全部の章に入ります。
申し訳ございません。